衆院選から見えた:若年層は脱炭素やSDGsなど望んでいない
![](https://agora-web.jp/cms/wp-content/uploads/2021/11/iStock-490726872-1-660x440.jpg)
Chalabala/iStock
企業で環境・CSR業務を担当している筆者は、様々な識者や専門家から「これからは若者たちがつくりあげるSDGs時代だ!」「脱炭素・カーボンニュートラルは未来を生きる次世代のためだ!」といった主張を見聞きしています。また、脱炭素やSDGsを唱える人たちが選挙のたびにSNS上で「政権選択選挙!」「与党に国民の審判を!」「若者よ投票に行こう!」などと呼びかける姿を目にします。今回に関しては、脱炭素や原発・エネルギー政策の比較なども盛んに拡散されており、これまで以上に脱炭素・SDGs界隈では政権交代への熱が高かったように感じます。
今回の衆院選で政権交代を実現する場合の受け皿は共産党と連携した立憲民主党だったわけです。つまり、普段脱炭素やSDGsを推進している人たちは共産党が協力する政権を誕生させたかった、ということになります。そして、現実に起きた国民の審判は真逆の結果でした。
日本経済新聞がまとめた年代別の投票先を見てみると、自民は世代を問わずまんべんなく支持されていますが(2017年は若年層の支持率が高い)、立民や共産の支持層は高齢化しているようです。
![](https://agora-web.jp/cms/wp-content/uploads/2021/11/9fde60e2de0f72612e91a4da26c6e8be.png)
出典:日本経済新聞
ところで、今回の衆院選で10代〜30代の若年層は環境・気候変動対策をまったく重視しなかったようです。日テレNEWS24の出口調査によれば、18・19歳が重視した政策の上位は①新型コロナ対応(25.2%)、②子育て・教育政策(13.7%)、③景気対策(11.4%)でした。同じく20代では①景気対策(19.0%)、②子育て・教育政策(18.6%)、③新型コロナ対応(18.1%)、30代は①子育て・教育政策(30.8%)、②景気対策(20.6%)、③新型コロナ対応(11.9%)と、上位3項目は同じ傾向でした。
社会全体の課題である新型コロナ対応を除けば、若年世代にとって差し迫った課題である「子育て・教育政策」「景気対策」を重視するのは当然と言えます。
一方、「環境・気候変動の対策」については、グラフに数値が記載されていないもののおおよそ18・19歳で3%程度、20代・30代では2%程度に見えます。いずれの年代でも、「社会全体のデジタル化の推進」(1%程度)に次いで重視しない政策でした(ちなみに、10代~30代では憲法改正よりも低い結果)。
若年層で環境・気候変動対策への関心が低い理由は分かりませんが、上位が「子育て・教育政策」「景気対策」であることを裏返せば、日々の生活に直結する電気代の高騰を招きかねない点を考慮した可能性はありそうです。
![](https://agora-web.jp/cms/wp-content/uploads/2021/11/8de1f917845dd79d840e726a7c43545b.png)
出典:日テレNEWS24
繰り返しになりますが、多くの識者や専門家が「脱炭素やSDGsは次世代のため!」「若者が投票に行って政権交代を実現しよう!」と訴えていましたが、少なくとも上記の日経、日テレNEWS24のグラフからは、実際に投票所へ足を運んで選挙に参加した若年層は政権交代を望んでおらず、環境・気候変動対策にも関心がない、と言えそうです。
むしろ、上記2つのグラフからは50代以上の高齢層ほど政権交代を望んでおり、かつ投票においては環境・気候変動対策を重視したように見えます。
“年齢別にみると、じつは18~24歳という若い人たちが最も気候変動の心配をしていない。気候変動と答えたのはわずか15%だ。
よく「海外の若者が気候変動対策を強化するよう求めてデモをしている、これは若者と大人という世代間の戦いだ」と主張する映像が報道されているが、どうも違うようだ。”
脱炭素を訴えるグレタさんも、学校をサボって気候マーチを行う日本の若者たちも、声は大きいのですが実は少数派なのかもしれません。日頃からこうした若者たちと活動を共にしている脱炭素・SDGsを唱える大人たちには大きなブームに見えているのでしょうか。むしろ学校に行って勉強している若者たちこそが脱炭素について冷静に受け止めており、今回の衆院選の結果にも表れたのだと考えられます。
多くの若年層にとっては子育てや景気対策こそが重要であり、その土台となる経済を縮小する脱炭素やSDGsなど望んでいないのではないでしょうか。
■
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、世界各地でインフラの「不具合」が相次いでいる。サイバー攻撃が関与しているのか、原因は定かではないが・・・。 1. ドイツの風力発電 ドイツでは、2022年3月4日時点で、約6
-
福島原発事故の発生後、放射線被曝に対する関心が急速に高まった。原発事故による被曝被害は絶対に防がねばならないが、一方では過剰な報道により必要以上に一般市民を恐怖に陥れていることも事実である。
-
原発事故から3年半以上がたった今、福島には現在、不思議な「定常状態」が生じています。「もう全く気にしない、っていう方と、今さら『怖い』『わからない』と言い出せない、という方に2分されている印象ですね」。福島市の除染情報プラザで住民への情報発信に尽力されるスタッフからお聞きした話です。
-
福島の「処理水」の問題は「決められない日本」を象徴する病理現象である。福島第一原発にある100万トンの水のほとんどは飲料水の水質基準を満たすので、そのまま流してもかまわない。トリチウムは技術的に除去できないので、薄めて流
-
連日、「化石燃料はもうお仕舞いだ、脱炭素だ、これからは太陽光発電と風力発電だ」、という報道に晒されていて、洗脳されかかっている人も多いかもしれない。 けれども実態は全く違う。 NGOであるREN21の報告書に分かり易い図
-
1. はじめに 2015年12月のCOP21で採択され、2016年11月4日に発効したパリ協定から約8年が経過した。我が国でも、2020年10月菅首相(当時)が、唐突に、2050年の脱炭素、カーボンニュートラルを発表し、
-
日本各地の火山が噴火を続けている。14年9月の木曽の御嶽山に続き、今年6月に鹿児島県の口之永良部島、群馬県の浅間山が噴火した。鳴動がどこまで続くか心配だ。火山は噴火による直接の災害だけではない。その噴煙や拡散する粒子が多い場合に太陽光を遮り、気温を下げることがある。
-
太陽光発電の導入は強制労働への加担のおそれ 前回、サプライヤーへの脱炭素要請が自社の行動指針注1)で禁じている優越的地位の濫用にあたる可能性があることを述べました。 (前回:企業の脱炭素は自社の企業行動指針に反する①)
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間