G7声明の強制労働排除対象品目に言及しない国とメディア

Cemile Bingol/iStock
11月1日にエネルギーフォーラムへ掲載された杉山大志氏のコラムで、以下の指摘がありました。
G7(主要7カ国)貿易相会合が10月22日に開かれて、「サプライチェーンから強制労働を排除する」という声明が発表された。名指しはしていないが、中国のウイグル新疆自治区における強制労働などを念頭に置いたものだとメディアは報じている。
ところで、経済産業省の報道発表でも国内の報道でもなぜか書いていないが、声明を読むと、下記のように太陽光発電は農産物、衣料品と並んで、名指しになっている。(太字は筆者)
たしかに!
6月のG7サミットの際は報道でも「農業、太陽光、衣料品」と品目まで言及されていましたが、先月の報道では品目を見なかったことに気が付きました。
たとえば、6月の時事通信「G7、「強制労働」で対中圧力 ウイグル弾圧、日本に影響も」(2021年06月15日07時06分)では以下のように「農業、太陽光、衣料品」と言及されていました。
(中略)
首脳宣言は問題取引が多い分野として「農業、太陽光、衣料品」を挙げた。バイデン政権が前政権と同様に、ウイグル産の綿製品とトマトの輸入を禁止していることを反映させた。米国は、再生可能エネルギー普及の切り札である太陽光発電パネル材料も制裁対象に指定するか検討中。同材料は世界シェアの半分近くをウイグル産が占めるためだ。(太字は筆者)
(後略)
そこで、先月の報道を整理してみます。
まず、経産省のニュースリリースが2021年10月22日に出ました。閣僚声明にも附属文書にも、原文では「agricultural, solar and garment sectors」とありますが経産省のリリースでは全く触れられていません。
この経産省ニュースリリース翌日の報道をいくつか拾ってみました。
時事通信「G7、強制労働排除で一致 中国の人権問題念頭―貿易相会合」(2021年10月23日05時20分)
先進7カ国(G7)貿易相会合が22日、英国のロンドンで開かれ、共同声明を採択した。声明は中国を念頭に、農業や衣料品など国際的な供給網(サプライチェーン)での強制労働に懸念を表明。会合では強制労働排除のための国際的な仕組みづくりが必要との認識で一致した。G7として初めて、強制労働の排除とデジタル貿易に関する付属文書も採択した。(太字は筆者)
(後略)
「農業や衣料品など」と書いているのに、なぜか太陽光にだけ触れていません。
日経「供給網から強制労働排除 G7貿易相会合、ウイグル念頭に」(2021年10月23日 0:35 (2021年10月23日 5:18更新))
主要7カ国(G7)は22日に開いた貿易相会合で、国際的なサプライチェーン(供給・調達網)から強制労働を排除する仕組みづくりで一致した。
(中略)
強制労働を巡っては米国がウイグルでの強制労働の関与が疑われる衣料品などの輸入禁止措置を講じている。日本は人権に特化した輸出入管理の法令や規制がない。
(後略)
10月22日のG7貿易相会合のニュースなのに、なぜか過去に米国が実施した輸入禁止の品目として衣料品だけを紹介しています。しかもトマトや太陽光には触れていません。
産経「G7貿易相が強制労働排除声明 中国念頭に日本提案」(2021/10/23 00:30)
NHK「G7貿易担当大臣会合 中国念頭に 強制労働について初の共同声明」(2021年10月23日 5時19分)
読売「G7貿易相会合、強制労働排除で一致…中国念頭に初の具体的対応方針」(2021/10/23 11:29)
朝日「G7が強制労働排除の声明を採択 貿易相会合、中国のウイグルを念頭」(2021年10月23日 18時30分)
これら産経、NHK、読売、朝日の記事では太陽光はもちろん農業、衣料品にも全く触れられていません。見出しに「強制労働排除」と書かれていても、この内容では閣僚声明や附属文書で具体的に指定されている対象品目について把握することができず、ビジネス全般や一般的な人権問題を指した漠然とした声明のような印象を受けてしまいます。
理由は言わずもがな。先日第6次エネルギー基本計画が閣議決定されましたがほぼ原案のままでした。
冒頭の杉山氏のコラムで言われている通り、このまま中国製の太陽光パネルやEVを大量導入するのは新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区でのジェノサイドに加担することになります。これで誰一人取り残さない社会と言えるのでしょうか。

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