IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

artisteer/iStock
論点⑳では、「政策決定者向け要約」の書きぶりが針小棒大に過ぎると述べた。
今回は冒頭だけ抜粋しておこう。
「広範囲かつ急速な変化」などと、おどろおどろしく書いてある。
だが、自然災害の増加は、観測されていないか、せいぜい、辛うじて観測されているに過ぎないことを、論点⑳で書いた。
そして前回、論点㉓では、過去2000年の気温の復元について書いた。そこでは「地球の平均気温が未曽有の急上昇をしている!」という「ホッケースティック図」は信憑性が無いことを述べた。
今回は、もし仮に「地球の平均気温が未曽有の急上昇!」をしていたとしても、そんなものは大したことが無い、旨を述べよう。
というのは、地球の平均気温なるものは、現実の暮らしとは全然関係無いからだ。現実と関係するのは、いつでも局所的な気候だ。
そして、その局所的な気候はといえば、大きく変化するのが常であった。
例えば図1を見ると、1000年から1200年にかけて1℃程度は気温が高い場所があった、と古気候データによる復元は語る。これは中世温暖期と呼ばれる。1300年ごろから1800年ごろにかけては、1℃程度寒い場所があったと推計されている。これは小氷期と呼ばれている。

図1
次に図2を見ると、グリーンランドは8000年前から4000年前にかけては今よりも3度近く高かった、と古気候データで再現されている(図2)。

図2
これは日本では縄文海進期と呼ばれたころだ。縄文海進期の日本もかなり暖かく、今より数度気温が高かったと言われている。北国の青森県で、豊かな生活が送られていた形跡が出土している。
なお図1、図2について更に詳しくは筆者のコラムをご覧頂きたい。
という訳で、地域ごとに見ると、気温は大きく変動してきた。そして人類はそれに対処して逞しく生きてきた。
地球全体の平均で100年かけて1℃気温が上昇してきたといっても、それで「人類が存亡の危機に立っている」などという訳ではない。そのくらいの変化は、我々の先祖はとっくに経験済みで、問題なく対処してきた。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点㉕」に続く
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
■

関連記事
-
自民党は「2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減する」という政府の目標を了承したが、どうやってこの目標を実現するのかは不明だ。経産省は原子力の比率を20~22%にする一方、再生可能エネルギーを22~24%にするというエネルギーミックスの骨子案を出したが、今のままではそんな比率は不可能である。
-
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2030年までに世界の平均気温が産業革命前より1.5℃(現在より0.5℃)上昇すると予測する特別報告書を発表した。こういうデータを見て「世界の環境は悪化する一方だ」という悲観的
-
前稿で触れた「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については、このアゴラでも既に杉山大志氏とノギタ教授の書評が出ており、屋上屋を架すの感なしとしないが、この本体価格2200円の分厚い本を通読する人は少ない
-
産経新聞によると、5月18日に開かれた福島第一原発の廃炉検討小委員会で、トリチウム水の処理について「国の方針に従う」という東電に対して、委員が「主体性がない」と批判したという。「放出しないという[国の]決定がなされた場合
-
7月1日の施行にあわせ、早速、異業種の企業が、再エネに参入を始めました。7月25日時点での設備認定件数は約2万4000件。このほとんどは住宅用太陽光ですが、中でも、風力2件、水力2件、メガソーラーは100件など、たった1か月で、本格的な発電事業が約100事業、生まれた勘定になっています。また合計すると、既に40万kW程度の発電設備の新設が決まったこととなり、今年予想されている新規導入250万kWの1/5程度を、約1か月で達成してしまった勘定となります。
-
7月22日、インドのゴアでG20エネルギー移行大臣会合が開催されたが、脱炭素社会の実現に向けた化石燃料の低減等に関し、合意が得られずに閉幕した。2022年にインドネシアのバリ島で開催された大臣会合においても共同声明の採択
-
イーロン・マスク氏曰く、「ヨーロッパは、ウクライナ戦争が永遠に続くことを願っている」。 確かに、トランプ米大統領がウクライナ戦争の終結に尽力していることを、ヨーロッパは歓迎していない。それどころか、デンマークのフレデリク
-
成長に資するカーボンプライスとは何か? 本年6月に公表された政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」においては、CO2排出に政策的なコストをかけてその排出を抑制する「カーボンプライシング」政策につい
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間