「再エネ最優先」がもたらす大停電の危機
第6次エネルギー基本計画は9月末にも閣議決定される予定だ。それに対して多くの批判が出ているが、総合エネルギー調査会の基本政策分科会に提出された内閣府の再生可能エネルギー規制総点検タスクフォースの提言は「事実誤認だらけだ」と委員から集中砲火を浴びた。
これについて再エネTFの原英史氏が反論しているが、批判に「レッテル貼り」というレッテルを貼っているだけで反論になっていない。
安定供給のコストを負担しないフリーライダー
再エネTFの提言は、今後の電力供給は「再エネ最優先」にし、「2030年に再エネ36~38%という目標は低い」という。そのために彼らが要求しているのは「再エネに有利なルールにしろ」ということで、再エネへの優先給電や、住宅用太陽光設備の義務化や、出力抑制に対する補償を求めている。
この提言をRITEの秋元圭吾氏が「事実誤認だ」と批判した。特に次の指摘は的確だ。
再エネが安価でポテンシャルも豊富だと主張するなら、再エネ政策は不要ということになるはずだが、主張が一貫的ではない。容量市場の凍結の主張も同様である。2021年1月のスポット市場高騰の批判を強くしておきながら、容量市場は凍結すべきと主張する。科学的な整合性はほとんどない。
原氏は「日本には、耕作放棄されて荒れ果てた荒廃農地は28万haある。ここに太陽光を導入すれば230GWのポテンシャルがある。住宅の屋根おき太陽光のポテンシャルは210GWだ」などと太陽光が安くて豊富にあると主張するが、それなら行政が支援する必要はない。
彼らは「再エネは火力や原発より安い」と主張するが、それならFIT(固定価格買取制度)で補助する必要もない。市場で自由競争したら、再エネはおのずから100%になるだろう。
綱渡りの電力供給をどうするのか
原氏もいうようにエネ基の数字は辻褄が合っていないので、電力供給は100%にならない。再エネにはもう適地がないので、このまま「脱炭素化」を進めると、石炭火力が減ってLNG火力が増えるだけだ。そしてLNGの価格が上がると、今年初めのような大停電の危機が起こるだろう。
古い石炭火力が閉鎖され、原発が動かせないため、今でも日本の電力供給は綱渡りの状況だ。この夏はなんとか乗り切ったが、今年の冬はまた逼迫すると経産省は警戒を呼びかけている。
ところが再エネTFは「柔軟性重視の原則」なるものを掲げ、再エネを優先して、ベースロード電源の火力や原子力を減らせという。この柔軟性とは天気まかせで出力が変動するということだ。安定供給が至上命令の電力供給に、柔軟性の価値などというものはない。電源の不安定性はマイナス要因であり、それを火力や原子力が補完しているのだ。
ところがそれにただ乗りしている再エネ業者は、電力供給の安定性に価値を認めない。電力関係者の怒りを買ったのは、再エネTFの反論の次の記述だ。
再エネの統合コストについて、昨日のコスト検証WGでは、「再エネの統合費用」と称して、『火力のバックアップの費用』などが入れ込まれているが、これは、もともと火力発電事業のコストで、再エネが入ろうが入るまいが発生している費用である。つまり、再エネが増えることによって火力発電がビジネスチャンスを失ったとしても、既に火力発電に投資した発電事業者の損失となるもので、追加費用ではなく、回収できない固定費である
もうけは再エネが取り損害は電力会社に押しつける
再エネの変動をカバーする大手電力会社の損害は「統合費用」には入れるなという。天気がよくてもうかるときは新電力がもうけ、電力会社は火力を止める。天気が悪くなったら新電力は電力会社から電気を買うが、そのとき火力を止めた損害は負担しないというのだ。
原氏はまさかLCOE(均等化発電原価)の意味を知らないわけではあるまい。これは(固定費+変動費)/総発電量だから、分母の総発電量が減るとコストは上がる。たとえば再エネ優先で火力の稼働率が50%に落ちたらコストは2倍になるので、採算の取れない発電所は廃止されるだろう。
そのとき新電力は、それをバックアップする発電所を建てるのか。それとも天気が悪くなったら停電するにまかせるのか。そういう安定供給を保障するために容量市場が設置されたが、河野規制改革相や再エネTFはこれにも「新電力の負担増になる」と反対している。
それは本当は再エネのコストが高いからだ。日本の面積あたり再エネ発電量はすでに世界一で、もう適地が残っていない。蓄電や送電やバックアップなどの統合費用を算入すると、カーボンニュートラルを再エネ最優先で実現する電力コストは2倍になるというのがRITEの計算である。
これから火力や原子力などのベースロード電源が減ったら、停電が頻発するだろう。それは電力自由化で電力供給を効率化するコストである。電気代が中国の7倍になり、電力供給が不安定な国からは自動車メーカーも鉄鋼メーカーも出て行くので、雇用は失われるがCO2の排出量は減る。それが日本が「脱炭素化」する最短の道である。
関連記事
-
4月15日、イーロン・マスク氏のインタビューのビデオが、『Die Welt』紙のオンライン版に上がった。 インタビュアーは、独メディア・コンツェルン「アクセル・スプリンガーSE」のCEO、マティアス・デップフナー氏。この
-
5月25〜27日にドイツでG7気候・エネルギー大臣会合が開催される。これに先立ち、5月22日の日経新聞に「「脱石炭」孤立深まる日本 G7、米独が歩み寄り-「全廃」削除要求は1カ国-」との記事が掲載された。 議長国のドイツ
-
原発再稼働をめぐり政府内で官邸・経済産業省と原子力規制委員会が綱引きを続けている。その間も、原発停止による燃料費の増加支出によって膨大な国富が海外に流出し、北海道は刻々と電力逼迫に追い込まれている。民主党政権は、電力会社をスケープゴートにすることで、発送電分離を通じた「電力全面自由化」に血道を上げるが、これは需要家利益にそぐわない。いまなすべきエネルギー政策の王道――それは「原子力事業の国家管理化」である。
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前稿で科学とのつき合い方について論じたが、最近経験したことから、改めて考えさせられたことについて述べたい。 それは、ある市の委員会でのことだった。ある教授が「2050年カーボン
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 日本では「ノーベル賞」は、格別に尊い存在と見なされている。毎年、ノーベル賞発表時期になるとマスコミは予想段階から大騒ぎで、日本人が受賞ともなると、さらに大変なお祭り騒ぎになる。
-
日本のSDGs達成度、世界19位に低下 増えた「最低評価」 日本のSDGs(持続可能な開発目標)の進み具合は、世界19位にランクダウン――。国連と連携する国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SD
-
日本経済新聞12月9日のリーク記事によると、政府が第7次エネルギー基本計画における2040年の発電量構成について「再生可能エネルギーを4~5割程度とする調整に入った」とある。 再エネ比率、40年度に「4~5割程度」で調整
-
NHKニュースを見るとCOP28では化石燃料からの脱却、と書いてあった。 COP28 化石燃料から「脱却を進める」で合意 だが、これはほぼフェイクニュースだ。こう書いてあると、さもCOP28において、全ての国が化石燃料か
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間