「2050年ネットゼロ」には消費税52%分の炭素税が必要だ
CO2排出を2050年までに「ネットゼロ」にするという日本政府の「グリーン成長戦略」には、まったくコストが書いてない。書けないのだ。まともに計算すると、毎年数十兆円のコストがかかり、企業は採算がとれない。それを実施するには、政府の補助が必要だが、そんな財源はない。
ネットゼロに必要な炭素税は毎年114兆円
この点でIEA(国際エネルギー機関)の出した「ネットゼロ」ロードマップは正直である。その前提となるシナリオは、次の表のように、先進国では2025年にカーボンプライス(炭素税)が75ドル/トンから始まり、2050年には250ドル/トン。この数字はピンと来ないと思うが、ざっくりいって250ドルの炭素税は毎年36兆円。消費税に換算すると16%である。
他のシナリオの見積もりは、もっと大きい。世界の中央銀行の有志によるNGFSのシナリオでも、2020年代に160ドルから始まり、最悪の場合は1.5℃上昇(ネットゼロに対応)に抑えるコストが、2050年に800ドルになると想定されている。これは毎年114兆円、消費税に換算すると52%である。
熱帯の途上国にはメリットがあるが、コストは先進国が負担する
ネットゼロの目的は、2100年までに産業革命前から3℃上昇すると予想される気温を、1.5℃上昇に抑えることだ。これはIPCCが2018年に提言した目標で、2030年までに46%削減という日本政府の目標は、その論理的な帰結である。
1.5℃上昇に抑えると、どんな効果があるのだろうか。次の図はNGFSが、最悪の場合(3℃上昇)のGDP損失を国ごとに図示したものだが、先進国のほとんどはマイナス10%程度で、ロシアやカナダでは暖かくなるので、ほとんど被害がない。
GDPの20%以上の大きな被害が出るのは、インドやアフリカなど熱帯の発展途上国である。洪水が増える地域は、河川管理のできない途上国に集中し、先進国ではほとんど増えない。だからネットゼロのメリットは、先進国ではGDPの10%程度だが、これを金利3%で80年で割り引くと、現在価値はGDPの1%程度である。
先進国では80年先の温暖化対策のメリットは、現在の炭素税のコストよりはるかに小さいが、途上国ではその逆だ。IEAのシナリオでも、先進国は途上国の5倍から25倍のコストを負担する。つまり地球温暖化対策は、先進国がコストを負担して熱帯の災害を防ぐ開発援助なのだ。
それはやったほうがいいが、途上国の人々にとっては、2100年の地球の平均気温より、きょう生きるための食糧や医療が大事だ。それを知っているはずの国際機関がこんな非現実的なシナリオを発表するのは、政治的意図を疑わざるをえない。
しかし炭素税という形で、温暖化対策のコストが明示されたのは一歩前進だ。地球環境問題は命か金かの二択ではなく、費用対効果をいかに最適化するかという経済問題である。菅政権はネットゼロに国家予算を投入する前に、80年後の気温を1.5℃下げるために、消費税52%分の炭素税を払うかどうか、国民の選択を問うべきだ。
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