英国「牛肉禁止」で脱炭素への庶民の反乱が始まる
エリートが勝手に決めた「脱炭素」目標の実現のための負担が明らかになるにつれて、庶民の不満が噴出しつつある。

naumoid/iStock
警鐘を鳴らすのはイギリスの右寄りタブロイド紙Daily Mailである(記事、記事)(イギリスの新聞事情についての分かりやすい解説はこちらとこちら)。
イギリスではBBCなどのプロパガンダによって「気候危機説」が広く信じられるようになった。BBCは最近では2050年には気候危機でスポーツが出来なくなるというキャンペーンを張っている。
今年末の国連気候会議(COP26)で議長国を務める予定なこともあって、2035年のCO2等の数値目標を1990年比で78%削減まで深堀りした。政府は世界一深堀りしたと自慢しているが、これは現時点からでも60%の削減だ。あと15年でこれを達成するのはどう考えても無理だ。
その無理を具現化するための政策の検討が進むにつれて、庶民に対して莫大な負担を求めるものであることが明らかになってきた。
Daily Mailによるとイギリスで検討中の政策には以下がある:
・2033年までに新しい化石燃料車(ハイブリッド車を含む)を禁止する
負担――現在、英国で電気自動車を購入するには平均44,000ポンド(678万円)かかる。
・2028年までに石油焚きボイラー、2033年までにガスボイラーの販売を禁止する。すべての家を断熱する。
負担――1世帯あたり10,000ポンド(154万円)以上かかる 。
・今後10年間で肉と乳製品の消費量を5分の1に削減
負担――???
牛肉と羊肉は英国の国民食だ。これを禁止するとなると、負担はもう金銭では計り知れない。
なぜ肉まで減らすか疑問に思われるかもしれない。じつは牛肉は一食当たりのCO2等の排出が最大で15kgと最も多いからだ。BBCは図を書いてこれを説明している。
なぜ食生活まで影響が及ぶかというと、CO2等の排出の3分の1以上は食品供給に関係するものだからだ。石油から肥料や農薬を作り、エサのトウモロコシを作って牛を育て、加工して輸送し、冷蔵・冷凍して、店舗に並べて販売して・・・といったことをすると、エネルギーを多く使い、CO2等が排出される。牛は特にエサが大量に要るうえにゲップやオナラもする。
だから78%削減とか脱炭素とかいうと、肉も食えなくなるのだ。
ちなみに図で下から3つめのTofuは1食あたりのCO2等排出が極めて少ない。日本のトウフ業界にはビジネスチャンス到来か!?――イギリス庶民がおとなしく牛肉を止めればの話だが。まあ、本当に禁止したら暴動だろうね、きっと。
■

関連記事
-
「カスリーン台風の再来」から東京を守ったのは八ッ場ダム 東日本台風(=当初は令和元年台風19号と呼ばれた)に伴う豪雨は、ほぼカスリーン台風の再来だった、と日本気象学会の論文誌「天気」10月号で藤部教授が報告した。 東日本
-
バラバラになった小石河連合 ちょうど3年前の2021年9月、自民党総裁選の際に、このアゴラに「小泉進次郎氏への公開質問状:小石河連合から四人組へ」という論を起こした。 https://agora-web.jp/archi
-
加速するドイツ産業の国外移転 今年6月のドイツ産業連盟(BDI)が傘下の工業部門の中堅・中手企業を相手に行ったアンケート調査で、回答した企業392社のうち16%が生産・雇用の一部をドイツ国外に移転することで具体的に動き始
-
菅直人元首相は2013年4月30日付の北海道新聞の取材に原発再稼働について問われ、次のように語っている。「たとえ政権が代わっても、トントントンと元に戻るかといえば、戻りません。10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と、自信満々に回答している。
-
最近、言論圧迫を政治の右傾の結果だとして非難する傾向が強いが、それは、非難している人たちが左派に属しているからだろう。現在、言論を本当に抑圧されているのは大概は右派の方だ。しかし、実態はなかなか国民の耳には届かない。 現
-
原子力発電の先行きについて、コストが問題になっています。その資金を供給する金融界に、原発に反対する市民グループが意見を表明するようになっています。国際環境NGOのA SEED JAPANで活動する土谷和之さんに「原発への投融資をどう考えるか?--市民から金融機関への働きかけ」を寄稿いただきました。反原発運動というと、過激さなどが注目されがちです。しかし冷静な市民運動は、原発をめぐる議論の深化へ役立つかもしれません。
-
5月25〜27日にドイツでG7気候・エネルギー大臣会合が開催される。これに先立ち、5月22日の日経新聞に「「脱石炭」孤立深まる日本 G7、米独が歩み寄り-「全廃」削除要求は1カ国-」との記事が掲載された。 議長国のドイツ
-
近年、再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化が推進される中で、太陽光や風力の出力変動に対応するために「火力や原子力をバックアップ電源として使えばいい」という言説が頻繁に見られるようになった。 この「バックアップ」という
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間