台風を温暖化のせいにして騒ぐより治水対策を進めるべき

2020年12月02日 17:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

「カスリーン台風の再来」から東京を守ったのは八ッ場ダム

東日本台風(=当初は令和元年台風19号と呼ばれた)に伴う豪雨は、ほぼカスリーン台風の再来だった、と日本気象学会の論文誌「天気」10月号で藤部教授が報告した。

東日本台風は死者・行方不明者85名を出し、大きな被害をもたらした。しかし特筆すべきは、カスリーン台風に比べると遥かに被害が少なく済んだことだ。

1947年のカスリーン台風は死者・行方不明者1930人を出した。利根川は決壊し、広大な面積が浸水した(図1)。

図1 カスリーン台風による浸水地域 出典:江戸川区資料

図1 カスリーン台風による浸水地域 出典:江戸川区資料

カスリーン台風以来、「その再来に備える」ということが、利根川水系での治水事業の目標だった。

今回、大規模な水害に至らなかったのは、八ッ場ダムなどの整備が奏功したからだ。(図2)

図2 ダムの治水効果 出典:国土交通省資料

図2 ダムの治水効果 出典:国土交通省資料

そのわりに、治水事業に当たった人々に対する感謝の声があまり聞かれないのは残念である。全員起立して一斉拍手をしたいほどだ!

対照的に、東日本台風を地球温暖化のせいにする意見はよくメディアで見られた。だがこれは全く根拠が無い。

カスリーン台風は1947年の台風であり、地球温暖化などもちろん関係なかった。

統計的に有意ではないけれども、仮に、気温が上昇すれば雨量が増えるというクラウジウス・クラペイロン関係によって大雨が増えたと想定しても、たいした増加ではない。過去100年の日本付近の気温上昇は0.73℃だったから、カスリーン台風のあった1947年から今日までの日本の気温上昇は0.53℃、これによる降水量の増加は3.7%に過ぎない。(計算については拙稿の項目4, 7, 8, 9を参照)。

メディアだけではなく、国土交通省も防災白書で「自然災害が激甚化」していると書いているが、これが誤りであることは以前書いた。

他方で、東日本台風の水害による被害額は2兆円近くに上り、統計開始以来最大の被害額となった。

だが被害額が大きいからといって、「台風災害が激甚化した」などと言うのは見当違いだ。被害額が大きくなった理由は、被害を受けやすい場所に人口や資産が増えたからである

仮に東日本台風でカスリーン台風並みの決壊が起き、利根川上流から東京都に至って大浸水が起きたならば、被害は如何ばかりになったであろう? 想像するのも恐ろしい。

まとめ

  1.  治水事業はカスリーン台風の再来から東京を守った。きちんと感謝しよう!
  2.  台風は激甚化などしていない。台風を温暖化のせいにするのは間違いだ。
  3.  国土交通省は、東京を守った実績を掲げて、根拠の無い温暖化原因説で人の不安を煽るのではなく、正攻法で治水事業への支持を得るべきだ。
This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 「2050年のカーボンニュートラル実現には程遠い」 現実感のあるシナリオが発表された。日本エネルギー経済研究所による「IEEJ アウトルック 2023」だ。(プレスリリース、本文) 何しろここ数年、2050年のカーボンニ
  • 今年も冷え込むようになってきた。 けれども昔に比べると、冬はすっかり過ごしやすくなっている。都市熱のおかげだ。 下図は、東京での年最低気温の変化である。青の実線は長期的傾向、 青の破線は数十年に1回の頻度で発生する極低温
  • ドイツがエネルギー政策を大転換 ロシアのウクライナ侵攻で https://t.co/FIKTeS5apa — ロイター (@ReutersJapan) February 28, 2022 ドイツのショルツ首相は、ロシアか
  • 全国知事会が「原子力発電所に対する武力攻撃に関する緊急要請」を政府に出した。これはウクライナで起こったように、原発をねらって武力攻撃が行われた場合の対策を要請するものだ。 これは困難である。原子力規制委員会の更田委員長は
  • 脱原発が叫ばれます。福島の原発事故を受けて、原子力発電を新しいエネルギー源に転換することについて、大半の日本国民は同意しています。しかし、その実現可能な道のりを考え、具体的な行動に移さなければ、机上の空論になります。東北芸術工科大学教授で建築家の竹内昌義さんに、「エコハウスの広がりが「脱原発」への第一歩」を寄稿いただきました。竹内さんは、日本では家の断熱効率をこれまで深く考えてこなかったと指摘しています。ヨーロッパ並みの効率を使うことで、エネルギーをより少なく使う社会に変える必要があると、主張しています。
  • 従来から本コラムで情報を追っている「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」だが2月22日に第三回の会合が開催され、非常に多くの課題とその対策の方向性が議論された。事務局としては再エネ発電事業者の不満
  • 影の実力者、仙谷由人氏が要職をつとめた民主党政権。震災後の菅政権迷走の舞台裏を赤裸々に仙谷氏自身が暴露した。福島第一原発事故後の東電処理をめぐる様々な思惑の交錯、脱原発の政治運動化に挑んだ菅元首相らとの党内攻防、大飯原発再稼働の真相など、前政権下での国民不在のエネルギー政策決定のパワーゲームが白日の下にさらされる。
  • 秋田県八峰町・能代市沖の洋上風力も採算が厳しい 2021年6月16日付の地元紙『北羽新報』によると、洋上風力入札の第2ラウンドで秋田県八峰町・能代市沖の開発権を落札したENEOSリニューアブルエナジー(旧ジャパンリニュー

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑