豪雨は温暖化のせいではない

2020年07月14日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

今年も例年同様、豪雨で災害が起きる度に、「地球温暖化の影響だ」とする報道が多発する。だがこの根拠は殆ど無い。フェイクニュースと言ってよい。

よくある報道のパターンは、水害の状況を映像で見せて、温暖化のせいで「前例のない豪雨が降った」「豪雨の降り方が変わった」などと論評するものだ。だが、本当に前例が無いのか、何か変わったのかといったことは、幾ら事例を並べ立てても科学的な根拠とは言えない。大事なのは統計で確認することだ。

「豪雨の増加」と統計からは言えない

だが環境白書を見ても、根拠として示されている統計データと言えば、図1ぐらいである。

図1 観測地点1か所当たりの、100ミリ以上の降水量の日の数。出所:環境白書令和2年版

図1 観測地点1か所当たりの、100ミリ以上の降水量の日の数。出所:環境白書令和2年版

図中、緑色の棒は、全国の51観測地点の1か所あたりの、100mm以上の豪雨日数である。青い線は前後5年間の移動平均、赤い線は回帰直線である。なおこの数値データは気象庁ホームページから入手できる

環境白書は、この赤い直線に基づいて「日本では豪雨が増えてきた」としている。

だがここで、じっと目を凝らして図1を見てほしい。たしかに全体としては右肩上がりだが、よく見ると、1901年-1940年までは低く、1940年-1970年までは高く、1970年-1990年は低く、1990年-2018年は高い、というように振動しているようにも見える。

特に、1940年-1970年ごろは、最近とあまり変わらないぐらい豪雨の日数が多い年が幾つもあった。図中で、特に豪雨の多かった年として、年1.5日を超えている年を挙げると、1998年以降に合計4回あるが、他方で1945年、1961年、1965年、1972年にも合計4回あった。

1940年-1970年のころは、まだ人間のCO2排出は少なかったし、それによるとされる地球温暖化も殆ど起きていなかったから、この間の豪雨の増加はCO2排出によるものではない。だとすると、近年の豪雨の増加も、CO2排出によるものとは限らないのではないか? あるいはCO2排出の寄与があったとしても、それ以外の理由による変動、例えば数十年規模の気候の自然変動の影響も大きかったのではないか? このように、豪雨が近年になって増えているといっても、それが地球温暖化と因果関係があるとは言い切れない。

のみならず、じつは近年に豪雨が本当に多いのかもよく分からない。というのは、この図が右肩上がりになっている理由には、あと2つが考えられるからだ。

第1は、都市化の影響である。東京やその周辺では、都市があることによって降水量が1~2割増えた、という試算もある。都市化によって降水が増加するメカニズムとしては、1)ヒートアイランドによって上昇気流が生じ、都市上空へ水蒸気が入りこみ、雲が発達すること、更には、2)高層建築物が障壁になって上昇気流を作り出し雲ができること、等が指摘されている。

第2は、計測の誤差である。雨量観測の装置が時代によって変更されてきたので、1970年以前の降水量は少なめに観測されている、との指摘がある。

本当に豪雨が増えたか否かを知るためには、以上も合わせて検討する必要がある。それをせずに、大雑把に直線を引いて豪雨が増えたとするのは不適切である。

防災能力の向上で死者数は大幅に減った

豪雨の増加に伴って「災害が激甚化している」などとも報道されている。しかし実際には、第二次世界大戦の後、日本では水害による死者数は大幅に減少してきた。

図2 日本における水害の死者数と被害額(出所:国土交通省資料)

図2 日本における水害の死者数と被害額(出所:国土交通省資料

仮にこの間、「豪雨が増えており、それが地球温暖化に起因するものであった」としても(上述したようにこの仮説を筆者は否定するが)、防災能力の向上のペースの方が、それを遥かに上回ってきたのである。

今後も治水事業は進み、天気予報・警報技術は向上し、SNS等による情報提供も進歩するだろう。これは、地球温暖化がどうであれ、自然災害への備えとして重要なことである。

他方で、造るべき堤防やダムを造らなければ、昨年の多摩川や今年の球磨川のような水害が起きる。必要なことは、地球温暖化のせいにすることではなく、適切な防災対策を講じることである。

なお本稿について更に詳しい議論は、筆者によるワーキングペーパーを参照されたい。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • その1」「その2」に続いて、経済産業省・総合エネルギー調査会総合部会「電力システム改革専門委員会」の報告書を委員長としてとりまとめた伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授が本年4月に公開した論考“日本の電力システムを創造的に破壊すべき3つの理由()について、私見を述べていきたい。
  • はじめに 原子力規制委員会は2013年7月8日に新規制基準を施行し“適合性審査”を実施している。これに合格しないと再稼働を認めないと言っているので、即日、4社の電力会社の10基の原発が申請した。これまでに4社14基の原発
  • 「もんじゅ」の運営主体である日本原子力研究開発機構(原子力機構)が、「度重なる保安規定違反」がもとで原子力規制委員会(規制委)から「(もんじゅを)運転する基本的能力を有しているとは認めがたい」(昨年11月4日の田中委員長発言)と断罪され、退場を迫られた。
  • 今年の10月から消費税率8%を10%に上げると政府が言っている。しかし、原子力発電所(以下原発)を稼働させれば消費増税分の財源は十二分に賄える。原発再稼働の方が財政再建に役立つので、これを先に行うべきではないか。 財務省
  • 日本での報道は少ないが、世界では昨年オランダで起こった窒素問題が注目を集めている。 この最中、2023年3月15日にオランダ地方選挙が行われ、BBB(BoerBurgerBeweging:農民市民運動党)がオランダの1つ
  • 気候変動を気にしているのはエリートだけだ――英国のアンケート結果を紹介しよう。 調査した会社はIpsos MORIである。 問いは、「英国で今もっとも大事なことは何か?」というもの。コロナ、経済、Brexit、医療に続い
  • 福島第1原発のALPS処理水タンク(経済産業省・資源エネルギー庁サイトより:編集部)
    海洋放出を前面に押す小委員会報告と政府の苦悩 原発事故から9年目を迎える。廃炉事業の安全・円滑な遂行の大きな妨害要因である処理水問題の早期解決の重要性は、国際原子力機関(IAEA)の現地調査団などにより早くから指摘されて
  • 6月にボンで開催された第60回気候変動枠組み条約補助機関会合(SB60)に参加してきた。SB60の目的は2023年のCOP28(ドバイ)で採択された決定の作業を進め、2024年11月のCOP29(バクー)で採択する決定の

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑