コロナインフォデミックの戦犯たち⑤国民SNS砲の破壊力
『コロナインフォデミックの戦犯たち①オウンゴールの構図』
『コロナインフォデミックの戦犯たち②メディアの亡国、罪と罰(1)』
『コロナインフォデミックの戦犯たち③不可解な動機 メディアの亡国、罪と罰(2) 』
『コロナインフォデミックの戦犯たち④専門家の無責任という酷薄』
上記4回記事に続く。
前回まで書いたようにコロナインフォデミックの基本構図は、”ライター”でカチカチ火種をつける役割を果たした一部専門家と、そこに”ふいご”でせっせと酸素を送ったメディアの罪が非常に大きい。一昔前ならば、このプロセスに我々国民自らが積極的に関与することはなかっただろう。”サイレント・マジョリティー”という言葉がかつて存在した。つまり一般市民の大多数は意見を言わずひたすら黙って為政者やメディアから発信される情報を受け取っていた時代は確かにあったのだ。
だが、世の中は確実に一変した。誰もがSNSで発信する時代になった。
デロイトトーマツコンサルティングの試算では、世界の「情報拡散力」は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の大流行時に比べ68倍になった。劇的な変化をもたらしたのが、ツイッターやフェイスブックなどのSNSの登場だ。「情報パンデミックの拡散力、SARSの68倍 新型コロナ」
まさに劇的な個人によるSNSの発信が津波のように世の中を駆け巡った。テレビで報じられたニュースは、個人のスマホからコメントをつけて拡散され最後には雷鳴のような大音響となって世の中にこだました。
SNSは世論か?
誰でも発信できること自体はどう考えても素晴らしい。まさに情報の民主化、奇跡の時代到来といって良い。また格別の恩恵は膨大な情報量の中から、かつてであれば簡単にはアクセスし難かった深い知見に容易にアクセスできることだ。例えば「日本に緊急事態宣言は必要なかったのでは」という話をすると“後付け”だと言う人も多いが、そんなことはまったくなくこのアゴラはじめ一部ビジネス系サイトなどでは2月はともかく3月の時点で少なくとも日本ではパンデミックが起きないのではないかとの議論が活発だった。
だが一方でツイッターなど匿名SNSの空間では、真偽、意図が定かでない情報も大量に発信されるのもコインの裏表のリアルだ。中には、明らかに憂さ晴らしや悪意で誹謗中傷を行う残念な人も少なからずいて、昨今問題になっている。
そんな玉石混淆の発信がポップコーンのように日々刻刻湧き出してくるわけだから誰にも制御などできるわけもない。その上、今回の事態を見ていても明らかにSNSならではインフォデミックを引き起こしやすい特性が存在する。
インフォデミックを引き起こすSNSの特性(1)遅行特性
SNSには遅行特性的がある。大スタジアム満員の観衆の声が反響のうずとなってゆっくりと響き渡るように、誰かの発信に触発された発信がドミノ倒しのように巡っていくのに時間がかかるのだ。一人一人の発信に即時性があっても、その発信はやがてこだまのように反響して重なりあい相互関係も不明瞭なままに情報のうずとなるのに相応時間がかかる。
だから新型ウイルス流行のように日々ドラスティックに状況が変化する事象では、ネット世論の大勢は現実の状況に遅行した。2月の恐怖が3月に津波となって押し寄せた。政府がネット世論に押し切られるように「緊急事態宣言」を発動したタイミングは皮肉にも感染拡大のピークを過ぎてだったことが今一般にも明らかになっているわけだが、インフォデミックという側面での解説のひとつは、ネット世論の情報遅行性である。
インフォデミックを引き起こすSNSの特性(2)主張のタコつぼ化アルゴリズム
そしてSNSがインフォデミックを引き起こしやすい特性の2番目が、「主張のタコつぼ化」を引き起こしやすいアルゴリズムだ。そもそもフォローやいいね!をくれる人の大多数は自分と主張の重なる人だ。「おすすめ」されるコメントも見事に「我が意を得たり」的なものだが、そのコメントがSNSの大海のどの辺にどのぐらいのボリュームでポジションしているかは誰にも知り得ない。
そして自分の主張が先鋭であればあるほど「いいね!」の支援は心強い支えとなり自分の考えを強化する方向で作用する。一方で、辛辣なネガティブコメントもまた避けられないのがSNSの宿命だが、逆に言えばネガコメを嫌がっていてSNSなどできない。スルーするスキルはSNSの上級者であればあるほど身についているし、仮にネガコメに反応するとしても、反駁のコメントを書くうちにむしろ主張の理論武装が強化される仕組みだ。
かくて、SNSは互いの主張の分断を強化する方向に機能するし、実際に新型コロナウイルス流行についても過剰な自粛反対の意見が顧みられることはなかった。
インフォデミックを引き起こすSNSの特性(3)著名人の影響力
また、SNSのもう一つの特徴が著名人の発信力だ。そこは、超民主的なネット空間のことだ、現実には限られたインフルエンサーでさえ完全に世論をリードし支配することなどできはしない。大統領のツイートだろうが、ノーベル賞受賞者のコメントだろうが、公平にネガコメがつくのがネット空間ではある。とは言え一方で、彼らの投じる石が一般人に比べてはるかに大きいものであることもまた事実なのだ。
新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機会を無償で提供したい。まずは100万人分。申込方法等、これから準備。#コロナ検査有志
— 孫正義 (@masason) March 11, 2020
今回「緊急事態宣言」を渇望するネット世論津波のピークで、孫正義氏や三木谷浩史氏、XJapan Yoshiki氏などがSNSを通して声をあげたことは、少なくとも為政者に対してインパクトがあったに違いない。
昨日、吉村大阪府知事に電話にて軽症者の受け入れ先として私が個人で所有しているザ・パークフロントホテルat USJ 598室を無償でつかってほしい旨、申し入れました。
— 三木谷浩史 H. Mikitani (@hmikitani) April 4, 2020
コロナインフォデミックは序章に過ぎないのかもしれない
それにしても、我々は情報量が拡大する稀有な時代の真っただ中をいまだ生きている。ビッグバンの行き着く先は誰にも分からない。もちろんこの拙稿を含めてネットの大海に発信されたすべての情報は波紋を描き、お互いの波が干渉しあい誰も予想ができないほど大きなこだまやうねりとなり自分のところにも帰ってくるが、誰一人として情報発信の航跡を正確に予測することなどできはしない。
グーテンベルクの印刷技術は中世を終わらせた。だとすれば、印刷技術の比ではない情報量をケタ違いな安価で提供するネット技術がさらにとてつもなく巨大な変化を引き起こすことは必然に違いない。むしろコロナインフォデミックなど些細なプロローグに過ぎないのかもしれない。だとすれば、願わくば、このシナリオが人類にとって悲劇にならないことを祈るのみだが、序章を見る限り、あまり明るい予兆がないことだけは確かなようだ。
コロナインフォデミックの経済崩壊の深刻さについて具体的に語られることが少ないように感じます。私の個人サイト「たんさんタワー」で少し触れましたのであわせてお読みください。
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