台湾で原発推進派が小さいながら政府の脱原発政策に一石を投じた
はじめに
台湾政府は2017年1月、脱原発のために電気事業法に脱原発を規定する条項を盛り込んだ。
しかし、それに反発した原発推進を目指す若者が立ち上がって国民投票実施に持ち込み、2018年11月18日その国民投票に勝って政府が書き込んだ脱原発条文を削除した[注1]。
国民投票では賛成590万、反対401万で原発推進派の圧勝だった。これで民進党政権は法律による強制的脱原発を断念せざるを得なくなったが、脱原発政策は継続するとしている。
国民投票に勝った若者たちはその勢いで総統選でも蔡英文氏を落選させようとしたが、香港問題で情勢が逆転し、総統選挙は大敗したため現在は台湾の原発復活運動は沈静化している。
住民投票の仕掛人は黄士修という物理学研究者
運動の発起人は、黄士修(ファン・シシュウ:理論物理学研究者、32歲)、スローガンは「以核養緑」(原子力で緑を再生)である。
脱原発を目指す蔡政権が2025年に脱原発することを目指しているのに対して、「以核養緑」は同時期に原発を再生させようとしていた。
以核養緑運動の足跡[注2]
・2017.1.11 電気事業法第95-1項に脱原発条項が盛り込まれた
・2017.8.15 台湾で大規模停電発生。700万戸が被害。
・2018.3.2 黄士修氏他が住民投票実現に向け活動開始
・2018.3.28 当局に1,879人の署名を提出(第1関門クリア)
・2018.9.6 最低必要数281,745人を超える314,135人の署名を中央選挙委員会に提出(第2関門クリア)
・2018.11.24 住民投票が実施され電気事業法の脱原発条文削除に賛成5,895,560人、反対4,014,215人で勝利した
・2018.11.28 蔡政権は脱原発政策を見直し2カ月以内に原発の運転延長を含む新しいエネルギー政策を示すと公言
・2019.1.31 蔡政権は前言を翻して脱原発政策を従来方針通り進めると発表
・2019.2.1 台湾マスメディアは、政府の新政策に沿って脱原発したら2021年に台湾は電力不足に陥ると批判
・2019.5.7 台湾の国会で脱原発条項の削除が可決した
黄士修氏が対抗策を発表
黄士修氏は①第1、第2、第3原発の運転延長、②第4原発の稼働、③ランショ島低レベル放射線廃棄物の搬出、④中央選挙委員会の責任追及、⑤2020年に①~③を国民投票に掛ける、との対抗策を発表した。
香港問題が勃発して情勢は大きく変わり、総統選挙では蔡英文氏が勝った
2020年1月11日、台湾総統選挙が実施され、民進党・蔡英文氏が817万票を獲得し、552万票の国民党・韓国瑜氏、60万票の親民党・宋楚瑜を破って勝利した。
2回目の国民投票が行われたとの報道がないことから、前項に示した黄士修氏による蔡政権の新エネルギー政策への対抗策は空振りに終わったものと見られる。
18年11月の住民投票での勝利は民進党政権が法律に基づいて脱原発を進めるという強制力を奪ったものの、民進党の脱原発政策は継続されているようである。
[注1] 謝牧謙「台湾『以核養緑』国民投票の回顧と未来」,SNWシンポジウム,2019.2.21
[注2] 針山日出夫「第 196 回エネルギー問題に発言する会 座談会議事録」,2019.2.21
関連記事
-
トランプ大統領のパリ協定離脱演説 6月1日現地時間午後3時、トランプ大統領は米国の産業、経済、雇用に悪影響を与え、他国を有利にするものであるとの理由で、パリ協定から離脱する意向を正式に表明した。「再交渉を行い、フェアな取
-
CO2排出を2050年までに「ネットゼロ」にするという日本政府の「グリーン成長戦略」には、まったくコストが書いてない。書けないのだ。まともに計算すると、毎年数十兆円のコストがかかり、企業は採算がとれない。それを実施するに
-
7月1日掲載。東芝が米国でのABWR(改良型沸騰水型原子炉)の設計認証を、取り下げた。新規受注が認められないためのようだ。先進国では、原子力ビジネスは規制などによって難しくなっている。
-
「それで寿命は何秒縮む」すばる舎1400円+税 私は、2011年の東京電力福島第1原発事故の後で、災害以降、6年近く福島県内だけでなく西は京都、東は岩手まで出向き、小学1年生から80歳前後のお年寄まで、放射線のリスクを説
-
原発における多層構造の請負体制は日本独自のものであるが、原発導入が始まって以来続けられているには、それなりの理由がある。この体制は、電力会社、原子炉メーカー、工事会社、下請企業、作業者、さらには地元経済界にとって、それぞれ都合が良く、また居心地の良いものであったため、この体制は関係者に強く支持されてきた。
-
あらゆる手段を使って彼の汚点を探せ!というのが、フェーザー内相(社民党・女・53歳)の極秘命令だったらしい。 彼というのはシェーンボルム氏。2016年より、サイバーセキュリティの監視などを担当するBSI(連邦情報セキュリ
-
はじめに 原子力規制委員会は2013年7月8日に新規制基準を施行し“適合性審査”を実施している。これに合格しないと再稼働を認めないと言っているので、即日、4社の電力会社の10基の原発が申請した。これまでに4社14基の原発
-
北朝鮮の国防委員会は2013年1月24日、国連安全保障理事会の制裁決議に反発して、米国を核兵器によって攻撃することを想定した「高い水準の核実験」を実施すると明言した。第三回目となる核実験。一体、高い水準とは何を意味するのだろうか。小型化、高濃縮ウラン、同時多数実験をキーワードに解読する。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間