小泉進次郎氏でよみがえる民主党政権の悪夢
原田前環境相が議論のきっかけをつくった福島第一原発の「処理水」の問題は、小泉環境相が就任早々に福島県漁連に謝罪して混乱してきた。ここで問題を整理しておこう。放射性物質の処理の原則は、次の二つだ:
・環境に放出しないようにできるだけ除去する
・放出せざるをえないものは環境基準以下に薄める
世界の原発では、プルトニウムなど危険な核種を除去し、他の放射性物質は薄めて流している。福島第一原発でも事故の前はそうしていたので、事故後も同じ処理をすればよかったのだが、地元に配慮して多くの放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)を導入した。
これでトリチウム以外の放射性物質は除去できたはずだが、去年8月の公聴会で、トリチウム以外の核種もタンクの中に残っていることが問題になった。これはタンク内の濃度管理を説明していなかった東電のミスだった。 処理水ポータルサイトではこう説明している。
汚染水に関する国の「規制基準」は
①タンクに貯蔵する場合の基準、
②環境へ放出する場合の基準
の2つがあります。周辺環境への影響を第一に考え、まずは①の基準を優先し多核種除去設備等による浄化処理を進めてきました。そのため、現在、多核種除去設備等の処理水はそのすべてで①の基準を満たしていますが、②の基準を満たしていないものが8割以上あります。当社は、多核種除去設備等の処理水の処分にあたり、環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、②の基準値を満たすようにする方針です。
だからトリチウム以外は二次処理で取り除くことが原則だが、今タンクの中にある程度の量なら、薄めて流しても環境に影響はない。原子力規制委員会の更田委員長も、二次処理しないで薄めて流すことを容認しているが、東電はまだ最終的な処理方針を決めていない。
これが最大の問題である。小泉氏は「処理水の問題は(環境省の)所管外だ」といったが、実は経産省にも原子力規制委員会にも処理方法の決定権はない。決定の主体は東電である。違法な処理は国が禁じているが、合法的な処理をしないのは、東電の経営責任なのだ。
福島第一原発事故で東電の経営は破綻したので、事故処理については経営を分離して、国が責任を負う体制をつくるべきだった。だが原子力損害賠償・廃炉等支援機構という形で国が間接的に支援する体制をとったため、事故処理の責任が曖昧になった。
実質的に国有化された東電の経営者が、地元の反対を押し切って処理水の放出を決めることはできないので、国の決定を待っている。それを原子力規制委員会が「東電には主体性がない」と批判して、問題が行き詰まっている。
これを打開するために原田氏が「希釈して海に流すしかない」と発言したのは当然であり、小泉氏が「私も同じ意見だ」といえば、空気は変わった可能性もある。ところが彼は問題の元凶である県漁連に謝罪し、逆方向に舵を切ってしまった。
これは民主党政権で鳩山首相が、沖縄の基地移転について「最低でも県外」と発言し、今に至る大混乱の原因をつくったのに似ている。しかも小泉氏は県漁連に行く予定を正式の日程に入れず、環境省の事務方にも知らせなかったようだ。こんな大臣には、危なくて大事な情報は上げられない。これも民主党政権と同じだ。
小泉純一郎首相は、よくも悪くも古い自民党の意思決定をぶち壊し、日本の政治を変えたが、内閣の方針を超えて「原発ゼロ」をめざす進次郎氏のやり方は、「政治主導」を振り回して自滅した民主党政権への回帰である。

関連記事
-
昨年の震災を機に、発電コストに関する議論が喧(かまびす)しい。昨年12月、内閣府エネルギー・環境会議のコスト等検証委員会が、原子力発電の発電原価を見直したことは既に紹介済み(記事)であるが、ここで重要なのは、全ての電源について「発電に伴い発生するコスト」を公平に評価して、同一テーブル上で比較することである。
-
11月24日付Bloombergに「Top-Selling Climate Funds Fail to Deliver on Carbon Emissions」という記事が出ていました。以下、要約します。 Investm
-
2016年8月26日公開。出演はNPO国際環境経済研究所理事主席研究員の竹内純子(すみこ)さん。アゴラ研究所所長の池田信夫さん。司会はジャーナリストの石井孝明さん。エネルギー政策で、ドイツを称える意見が多い。しかし、この事実は本当なのか。2016年時点でのドイツEUの現状を分析した。
-
中部電力の浜岡原子力発電所を11月8日に取材した。私は2012年8月に同所を訪問して「政治に翻弄される浜岡原発 — 中部電力の安全対策工事を訪ねて」という記事をGEPRで発表している。
-
原子力規制委員会の活動は、法律違反と言えるものが多い。その組織に対しては、やはり外からのチェックが必要であろう。
-
四国電力の伊方原発2号機の廃炉が決まった。これは民主党政権の決めた「運転開始40年で廃炉にする」という(科学的根拠のない)ルールによるもので、新規制基準の施行後すでに6基の廃炉が決まった。残る原発は42基だが、今後10年
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前稿で科学とのつき合い方について論じたが、最近経験したことから、改めて考えさせられたことについて述べたい。 それは、ある市の委員会でのことだった。ある教授が「2050年カーボン
-
使用ずみ核燃料の最終処分地をめぐる問題は混迷している。それを理由に、原発は「トイレなきマンション」だから「原発ゼロ」にすべきだという議論がいまだにあるが、これは技術的には誤りである。フォン・ヒッペルなどの専門家が提言して
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間