原発の安全審査ペースが鈍化したのはなぜか
【概要】原子力規制委員会の原子力発電所の安全審査ペースが急速に鈍化している。2016年下期に本体施設3基を許可したのをピークに、その後、期ごとの許可実績が2、2、1、0、0基と減っている。
審査している原発が無くなったのならわかるが、審査中の原発は12基もあるのである。なぜ審査ペースが鈍化したかが不可解である。
ひとつの可能性として挙げられるのは特重施設の審査増加で、2016年度以降、特重施設の審査が増えている。特重施設には設置許可7件、工事計画認可7件の計14件の許認可を発行しているのである。
本体施設の設置変更許可実績
原子力規制委員会の最大の任務は原子力発電所の再起動である。新規制基準の安全対策を備えていることを確認した原子力発電所に順次、設置変更許可を発行している。
図1には規制委がこれまでに発行した本体施設の設置変更許可の実績を半期ごとに括って示す。
気になるのは2016年下期の3件をピークにその後漸減を続け、2018年下期と2019年上期は設置変更許可が全く発行されていないことである。
審査する原子力発電所が無くなった訳ではない。審査中の原子力発電所は12基もあるのである。この他、いずれ申請するために申請の準備している原子力発電所が10基もあるのである。
本体施設と特重施設の許認可件数実績
では、規制委は何に時間を割かれているのだろうか。審査に労力を要する作業が増えたに違いない。その原因を調べるため、設置変更許可と工事計画認可の実績を調べた。
規制委がこれまでに発行した本体施設の設置変更許可は15件、本体施設の工事計画認可は12件で、併せて27件である。
規制委ホームページにはこの他、特重施設の設置変更許可7件、工事計画認可7件の計14件の許認可を発行したとされている。
これらの時系列推移をみると図2の通りとなる。このグラフを見ると、規制委はこの2年間遊んでいたのではなく、特重施設の許認可発行に時間を割かれたため本体施設の許認可ペースが鈍化したのかも知れない。
特重施設の割合の変化
図2で視覚的に理解された上述のことを定量的に分析したのが図3である。規制委の業務を原子力発電所に絞り、本体施設と特重施設の許認可発給割合だけで判断すると、図3のとおり、この1年間は特重施設に特化していることになる。
もちろん、これは仮定によるものであろうが、審査ペースが鈍化したのは特重施設の影響が大きかったことは確かだと思われる。
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