ウランがなくても原子力発電は準国産なのか?

2019年03月20日 18:00
アバター画像
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

はじめに

原子力発電は準国産エネルギーとされているが、周知のとおり日本にはウランがない。それでも「準国産」として扱われるのはなぜなのかを論ずる。

原子力発電の燃料は火力発電の100万分の1

原子力発電の燃料が準国産とされる最大の理由は量が少ないことである。火力発電の場合は原油やLNGをタンカーで運んでこなければならないが、100万kWの発電をするために必要な燃料は、石炭だと235万トン、石油でも156万トン、天然ガスでも95万トン必要だが、原子力発電所ならウラン21トンで済む。40基としても840トンである(図1参照)。量が少なければ輸送も備蓄も容易である。

ウラン生産国の政情は安定している。

原油の産油国は図3に示す通り中東のイラン、イラクや中南米のベネズエラなど政情不安定な国が多い。一方、原子力発電の燃料のウラン生産国は図2に示す通り政情安定な国が多いといえる。これも原子力発電が準国産エネルギーとされている理由の一つである。

日本の石油備蓄基地

電力だけでなく、石油は生活必需品である。そのため万一に備えて全国に備蓄基地がある。国家石油備蓄は、当初3,000万kl体制で開始されたが、その後1987年度に5,000万klへ拡充し1996年には全国10カ所の国家石油備蓄基地が順次完成し、1998年には5,000万klの備蓄目標を達成した。現在は、安全操業、環境保全を確保しつつ、国際協調も視野にいれた効率的かつ機動的な備蓄業務が推進されている。

原油輸送のシーレーン

忘れてならないのは化石燃料の輸送路のセキュリティ確保である。原油やLNGは大型タンカーで輸送されるが、シーレーンのほとんどは公海と海外領だ。輸送中の安全確保には日本の様々な機関と海外組織の協力が必要になる。マラッカ海峡やオマーン沖、イエメン沖などセキュリティ上の枢要個所には自衛隊など日本の専門組織も動員してセキュリティ確保に当たっている。化石燃料の輸送のセキュリティがこのような広範な組織によって確保されていることを忘れてはならない。

 

This page as PDF
アバター画像
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

関連記事

  • 前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。 (前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当
  • 学術的知識の扱い方 学界の常識として、研究により獲得された学術的知識は、その創出、伝達、利用の3点での適切な扱いが望ましい。これは自然科学社会科学を問わず真理である。ところが、「脱炭素」や「地球温暖化」をめぐる動向では、
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 新潟県知事選挙では、原発再稼動が最大の争点になっているが、原発の運転を許可する権限は知事にはない。こういう問題をNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ぶ。公共的に必要な施設でも「うちの裏庭にはつくるな」
  • 自然エネルギーの利用は進めるべきであり、そのための研究開発も当然重要である。しかし、国民に誤解を与えるような過度な期待は厳に慎むべきである。一つは設備容量の増大についての見通しである。現在、先進国では固定価格買取制度(FIT)と云う自然エネルギー推進法とも云える法律が制定され、民間の力を利用して自然エネルギーの設備増強を進めている。
  • 原発再稼働をめぐり政府内で官邸・経済産業省と原子力規制委員会が綱引きを続けている。その間も、原発停止による燃料費の増加支出によって膨大な国富が海外に流出し、北海道は刻々と電力逼迫に追い込まれている。民主党政権は、電力会社をスケープゴートにすることで、発送電分離を通じた「電力全面自由化」に血道を上げるが、これは需要家利益にそぐわない。いまなすべきエネルギー政策の王道――それは「原子力事業の国家管理化」である。
  • 気候研究者 木本 協司 地球温暖化は、たいていは「産業革命前」からの気温上昇を議論の対象にするのですが、じつはこのころは「小氷河期」にあたり、自然変動によって地球は寒かったという証拠がいくつもあります。また、長雨などの異
  • 田中 雄三 要旨 世界の温室効果ガス(GHG)排出量が顕著に減少する兆しは見えません。 現状、先進国のGHG排出量は世界の約1/3に過ぎず、2050年世界のGHGネットゼロを目指すには、発展途上国のGHG削減が不可欠です

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑