ウランがなくても原子力発電は準国産なのか?
はじめに
原子力発電は準国産エネルギーとされているが、周知のとおり日本にはウランがない。それでも「準国産」として扱われるのはなぜなのかを論ずる。
原子力発電の燃料は火力発電の100万分の1
原子力発電の燃料が準国産とされる最大の理由は量が少ないことである。火力発電の場合は原油やLNGをタンカーで運んでこなければならないが、100万kWの発電をするために必要な燃料は、石炭だと235万トン、石油でも156万トン、天然ガスでも95万トン必要だが、原子力発電所ならウラン21トンで済む。40基としても840トンである(図1参照)。量が少なければ輸送も備蓄も容易である。
ウラン生産国の政情は安定している。
原油の産油国は図3に示す通り中東のイラン、イラクや中南米のベネズエラなど政情不安定な国が多い。一方、原子力発電の燃料のウラン生産国は図2に示す通り政情安定な国が多いといえる。これも原子力発電が準国産エネルギーとされている理由の一つである。
日本の石油備蓄基地
電力だけでなく、石油は生活必需品である。そのため万一に備えて全国に備蓄基地がある。国家石油備蓄は、当初3,000万kl体制で開始されたが、その後1987年度に5,000万klへ拡充し1996年には全国10カ所の国家石油備蓄基地が順次完成し、1998年には5,000万klの備蓄目標を達成した。現在は、安全操業、環境保全を確保しつつ、国際協調も視野にいれた効率的かつ機動的な備蓄業務が推進されている。
原油輸送のシーレーン
忘れてならないのは化石燃料の輸送路のセキュリティ確保である。原油やLNGは大型タンカーで輸送されるが、シーレーンのほとんどは公海と海外領だ。輸送中の安全確保には日本の様々な機関と海外組織の協力が必要になる。マラッカ海峡やオマーン沖、イエメン沖などセキュリティ上の枢要個所には自衛隊など日本の専門組織も動員してセキュリティ確保に当たっている。化石燃料の輸送のセキュリティがこのような広範な組織によって確保されていることを忘れてはならない。

関連記事
-
16日に行われた衆議院議員選挙で、自民党が480議席中、294議席を獲得して、民主党から政権が交代します。エネルギー政策では「脱原発」に軸足を切った民主党政権の政策から転換することを期待する向きが多いのですが、実現するのでしょうか。GEPR編集部は問題を整理するため、「政権交代、エネルギー政策は正常化するのか?自民党に残る曖昧さ」をまとめました。
-
反原発を訴えるデモが東京・永田町の首相官邸、国会周辺で毎週金曜日の夜に開かれている。参加者は一時1万人以上に達し、また日本各地でも行われて、社会に波紋を広げた。この動きめぐって市民の政治参加を評価する声がある一方で、「愚者の行進」などと冷ややかな批判も根強い。行き着く先はどこか。
-
「死の町」「放射能汚染」「健康被害」。1986年に原発事故を起こしたウクライナのチェルノブイリ原発。日本では情報が少ないし、その情報も悪いイメージを抱かせるものばかりだ。本当の姿はどうなのか。そして福島原発事故の収束にその経験をどのように活かせばよいのか。
-
(前回:温暖化問題に関するG7、G20、BRICSのメッセージ①) 新興国・途上国の本音が盛り込まれたBRICS共同声明 新興国の本音がはっきりわかるのは10月23日にロシア・カザンで開催されたBRICS首脳声明である。
-
菅首相の所信表明演説の目玉は「2050年までに温室効果ガス排出ゼロ」という目標を宣言したことだろう。これは正確にはカーボンニュートラル、つまり排出されるCO2と森林などに吸収される量の合計をゼロにすることだが、今まで日本
-
各社のカーボンニュートラル宣言のリリース文を見ていると、2030年時点で電力由来のCO2排出量が46%近く減ることを見込んでいる企業が散見されます。 先日のアゴラで、国の2030年目標は絶望的なのでこれに頼る中期計画が経
-
最近、私の周辺で「国連の幹部の発言」が話題となりました。 NEW – UN Secretary for Global Comms says they "own the science" o
-
The Guardianは2月4日、気候変動の分野の指導的な研究者として知られるジェームズ・ハンセン教授(1988年にアメリカ議会で気候変動について初めて証言した)が「地球温暖化は加速している」と警告する論文を発表したと
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間