福島第一原発のデブリ処理は「石棺」方式で
福島第一原発のデブリ(溶融した核燃料)について、東電は「2018年度内にも取り出せるかどうかの調査を開始する」と発表したが、デブリは格納容器の中で冷却されており、原子炉は冷温停止状態にある。放射線は依然として強いが、暴走する危険はなく、今はほぼ安定した状態である。これを取り出す作業は、強い放射線を浴びて危険だ。
そもそもデブリを取り出す必要はない。チェルノブイリ原発と同じように「石棺」方式で密閉すればいいのだ。チェルノブイリの新しい石棺は写真のような高さ約100mのアーチ型のシェルターで、少なくとも100年間は放射性物質を封じ込められるという。コストは21億5000万ユーロ(約2800億円)で、8兆円かかる福島の「廃炉」とは桁違いだ。
福島でも、同じようなドームで密閉することは、技術的には容易だ。しばらくは冷却が必要で、放射線のモニタリングも続けなければならないが、デブリを取り出すよりはるかに安全で、コストも1兆円以内ですむだろう。問題はデブリの冷却水を湾内に排出できないことだ。その原因は冷却水の中のトリチウムが完全に除去できないためだが、そのレベルは自然界と変わらず、健康に影響はない。
原子力損害賠償・廃炉等支援機構も、2016年の「戦略プラン」で石棺に言及した。このときは地元も了解していたが、マスコミが騒ぎ始め、福島県の内堀知事が経済産業省に抗議した。支援機構の山名理事長は「引き続きデブリの取り出しをめざす」と釈明し、その後は石棺はタブーになってしまった。
知事の抗議は、政治的スタンドプレーである。デブリを取り出しても、福島第一原発のまわりに住民は住めない。このままでは、東電は事故被災者の賠償と除染に加え、今後は30年にわたって毎年3000億円の積み立てが必要になる。
この問題について、関係者の誰に聞いても取り出すのは無理だというが、今は努力するしかないという。「あらゆる手を尽くしたができなかった」といわないと、地元が納得しないからだ。これはトリチウム水も同じで、タンクが一杯になって「これ以上は無理だ」といわないと流せない。
そういう日本的な問題解決のために事故から7年以上も問題を放置し、これからさらに何兆円もかけるコストは、結局は電力利用者と納税者の負担になる。これは形式的には東電の経営判断だが、国が決めないとできない。石棺という言葉に抵抗があるなら、「ドーム」といってもよい。経済産業省が決めないと、東電は動けない。
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