再エネ先進地域九州の電力事情②〜非化石電源比率44%の達成に向けて〜

2018年08月14日 18:00
アバター画像
エネルギーコンサルタント

前回(https://www.gepr.org/ja/contents/20180710-02/)、簡単に九州電力管内の電力需給事情を概観したが、今回は「CO2削減」をテーマに九州の電力需給の在り方について考えてみたい。

まずは議論の前提について確認する。

我が国はパリ協定に基づく温室効果ガスの排出削減目標を「2030年度に2013年度比26.0%削減」と定めている。これは低炭素社会実現向けての我が国の国際公約と言える。政府はこの目標を達成するために、2030年度の電源構成比率の目標(エネルギーミックス)を定めており、非化石電源については再生可能エネルギー(22~24%程度)、原子力(20~22%)、としている。両者を合計すれば非化石電源の比率の合計は42%~46%になるわけだが、目標を定めるだけでは当然その達成は難しい。そのため、経済産業省はこの目標を達成するために、エネルギー供給構造高度化法において、小売電気事業者に対して2030年度までに販売する電気の非化石電源比率を44%以上にすることを義務付けている。さらに、これと相まって省エネ法において火力発電の高効率化を義務付けることで、2016年度現在0.516kg-CO2/kWhと高止まりしているCO2の排出係数0.37kg-CO2/kWhにまで引き下げることを目指している。

小売電気事業者にこのような規制がかかっている以上、当然、送配電側においても非化石電源比率44%以上という目標を達成することが求められることになる。今回は、この目標が九州電力管内においても達成可能なものなのか、簡単に検討してみる。

2017年度現在の九州電力管内の電源別の発電量比率を見ると、非化石電源については多い順に、(原子力:13.9%)(太陽光:8.9%)(水力:5.0%)(地熱:1.1%)(風力:0.5%)(バイオマス:0.2%)となっており、総計29.5%を占めている。これはあくまで発電量との関係における比率で、このうちの相当量は関西方面に連携線を通して供給されているため、九州電力管内の需要との関係における電源構成比ではないことに留意する必要がある。ただ、関西方面で電力が不足している傾向は、原発の再稼働とともに徐々に解消されることが見込まれるため、このような構造が長期的に続く可能性は低く、将来的には地産地消的な性格を高めていくことになると予測される。

したがって、必ずしもこの比率が九州で小売されている電気の非化石電源比率を示すとは言えないのだが、一つの目安として「現状の延長線上で九州電力管内の非化石電源別の発電比率(以下単に「非化石電源比率」という)が44%を達成できるかどうか」ということについて、この指標を通じて考えてみたい。

「九州電力データブック2013」によると、原発が全て停止していた2012年度の非化石電源の発電比率は概ね、水力8%、地熱・新エネルギー(≒再生可能エネルギー)4%で合計12%となっている。前述した通り、現状では水力5.0%、地熱1.1%、太陽光8.9%、風力0.5%、バイオマス0.2%と合計15.7%弱となっており、水力発電の稼働率がやや落ちて、再生可能エネルギーの設備増強が太陽光発電を中心に進んだことが見て取れる。併せて、原子力発電の再稼働も一定程度進んで13.9%にまで発電比率が増えており、仮に、この非化石電源間のバランスがそのまま続いて比例的に電源が増強された場合、非化石電源44%を達成できるかどうか考えてみたい。

上の図は2030年度に2017年度比で非化石電源の発電量が1.5倍になることを想定し、(A原子力)(B水力+地熱)(C太陽光+風力)に分類して、それぞれの電源種別の発電量を九州電力管内における2017年度の電力需要で除した「電力需要比」を積み上げたものである。導入量を1.5倍としたのは九州電力管内の2017年度の非化石電源比率は現状で29.5%なので、単純に44%を29.5%で除して小数点第2位で四捨五入したからである。

ご覧になっていただければわかるように、太陽光発電の稼働時には常時非化石電源のみで九州電力管内の需要を大きく超過するようになる。想定ケースでは最も発電量の需要比が大きくなる日は、5/14の10:00~10:59の時間帯で電力需要比で164.2%となった。内訳は(A原子力:34.4%)(B水力+地熱:22.0%)(C太陽光+風力:107.9%)となっており、そのほとんどが太陽光発電で、これだけで九州地区の全需要を超える計算になっている。現実にはこれに負荷追従用の火力発電の比率分(40%程度)が足されることになるので、発電量が需要比の200%を超過することになってしまうことになる。当然これほどの超過発電分を吸収する調整力は無いため、太陽光発電の出力はあらかじめ抑制され電力の過半が送配電網に流されないことになるだろう。

つまり、現状の延長線上では非化石電源比率44%という目標の達成は難しく、この目標を達成するには異なるアプローチが必要になってくるということをこの図は示している。具体的には、①原子力発電の稼働率を上げる、②バイオマス・地熱発電の開発を活発化する、③多目的ダムの規制緩和などを通した水力発電のポテンシャルのさらなる活用、などの手法が考えられる。あわせて当然ながら調整力の増強などの施策も必要になってくるだろう。次回以降はこうした点について考察していきたい。

This page as PDF

関連記事

  • 東日本大震災と福島原子力発電所事故を経験し、世論は東京電力を筆頭とする既存電力事業者への不信感と反発に満ちていた。そこに再エネ事業の旗手として登場したのがソフトバンクの孫社長だ。
  • 太陽光発電業界は新たな曲がり角を迎えています。 そこで一つの節目として、2012年7月に固定価格買取制度が導入されて以降の4年半を簡単に振り返ってみたいと思います。
  • 筆者がシェール・ガス革命について論じ始めて、2013年3月で、ちょうど4年になる。米国を震源地としたシェール・ガス革命に関して研究を行っていたエネルギー専門家は、日本でも数人であり、その時点で天然ガス大国米国の復活を予想したエネルギー専門家は皆無であった。このようにいう筆者も、米国におけるシェール・ガス、シェール・オイルの生産量の増加はある程度予想していたものの、筆者の予想をはるかに上回るスピードで、シェール・ガスの生産コストが低下し、生産量が増加した。
  • ここ数回、本コラムではポストFIT時代の太陽光発電産業の行方について論考してきたが、今回は商業施設開発における自家発太陽光発電利用の経済性について考えていきたい。 私はスポットコンサルティングのプラットフォームにいくつか
  • 石井吉徳
    石井吉徳東大名誉教授のブログ。メタンハドレートの資源化調査をかつて行った石井氏の評価です。「質」が悪い」「利権を生みかねない」と指摘している。一つの見方として紹介。
  • ロシアの国営原子力会社ロスアトムが6月、トリチウムの自らの分離を、グループ企業が実現したと発表した。東京電力の福島第一原発では、炉の冷却などに使った水が放射性物質に汚染されていた。
  • 近代生物学の知見と矛盾するこの基準は、生物学的損傷は蓄積し、修正も保護もされず、どのような量、それが少量であっても放射線被曝は危険である、と仮定する。この考えは冷戦時代からの核による大虐殺の脅威という政治的緊急事態に対応したもので、懐柔政策の一つであって一般市民を安心させるための、科学的に論証可能ないかなる危険とも無関係なものである。国家の安全基準は国際委員会の勧告とその他の更なる審議に基づいている。これらの安全基準の有害な影響は、主にチェルノブイリと福島のいくつかの例で明らかである。
  • 12月に入り今年も調達価格算定委員会において来年度以降の固定価格買取制度(FIT)見直しの議論が本格化している。前回紹介したように今年はバイオマス発電に関する制度見直しが大きな課題となっているのだが、現状において国内の再

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑