NHK「あさイチ」は不公平で無責任だ

2018年03月05日 21:30
アバター画像
アゴラ研究所所長

私はNHKに偏見をもっていないつもりだが、けさ放送の「あさイチ」、「知りたい!ニッポンの原発」は、原発再稼動というセンシティブな問題について、明らかにバランスを欠いた番組だった。スタジオの7人の中で再稼動に賛成したのは、右から3番目の竹内純子氏だけだ。

番組では東電の柏崎刈羽原発を取材し、これを受けてスタジオ右端の柳沢解説委員(NHKを代表している)は「原発が止まっても電力は足りている」という話で、再稼動反対に議論を誘導する。左から2番目の井ノ原という芸人はこういっている。

電気代が上がっているのも知ってますし、だけどもあの怖い思いをしていまだに家に帰れない人がいるっていうことで、こういう話をしてるって思うんですよね。命が一番大事だよねってところで、この話になってるような気もするので。

事故から7年たっても、相変わらず「怖い思い」や「金より命」の感情論だ。福島事故の放射線障害で命は1人も失われていないし、今後も失われない。これは国連科学委員会が確認し、NHKも報道した科学的事実である。したがって電気代と命のトレードオフは存在しない。原発を止めていると、電気代が上がるだけなのだ。そのコストは現在までに総額15兆円以上にのぼる。

これは芸人の意見ではなく、担当ディレクターの教え込んだセリフだろう。台本にも書いてあるはずだ。右から2人目の飯田哲也氏はもちろん反原発だから、柳沢解説委員を含めた3人が明確な反原発だ。残りの3人も同じ立場なので、スタジオは再稼動反対と賛成が6対1である。これは討論番組としての形式的なバランスも守っていない。有働キャスターの進行も、竹内氏を袋だたきにするような流れだった。

私も1980年代にNHKで原発の番組をつくったが、賛成と反対の立場は、人数はもちろん時間配分も同じにするよう命じられた。今でもこんな番組は、報道局では考えられない。「あさイチ」は生活情報という素人集団だから、これでもチェックを通ったのだろう。

「あさイチ」は主婦向けの番組なので、感情論にしないと視聴率が取れないのだろうが、この番組は40分も再稼動反対の宣伝をやったようなものだ。柏崎については原子力規制委員会がOKを出しているが、こういう感情論で再稼動が進まない。東電の電力供給が綱渡り状態のとき「電力は足りている」と繰り返すNHKは、公共放送として無責任というしかない。

This page as PDF

関連記事

  • 東日本大震災と原発事故災害に伴う放射能汚染の問題は、真に国際的な問題の一つである。各国政府や国際機関に放射線をめぐる規制措置を勧告する民間団体である国際放射線防護委員会(ICRP)は、今回の原発事故の推移に重大な関心を持って見守り、時機を見て必要な勧告を行ってきた。本稿ではこの間の経緯を振り返りつつ、特に2012年2月25-26日に福島県伊達市で行われた第2回ICRPダイアログセミナーの概要と結論・勧告の方向性について紹介したい。
  • 多様性の象徴が惨劇に 8月22日、ノートライン=ヴェストファーレン州のゾーリンゲン市で、イスラムテロが起きた。ちょうど市政650年を祝うための3日間のお祭りの初日で、素晴らしい夏日。お祭りのテーマは「多様性」だった。 ゾ
  • (前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か) 火力をさらに減らせば再生可能エネルギーを増やせるのか 再生可能エネルギーが出力制御をしている時間帯も一定量の火力が稼働しており、それを減らすことができれば、その分再エネ
  • 8月11日に九州電力の川内原子力発電所が再稼働した。東日本大震災後に原子力発電所が順次停止してから4年ぶりの原子力発電所の再稼働である。時間がかかったとはいえ、我が国の原子力発電がようやく再生の道を歩き始めた。
  • アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」を公開しました。 今回のテーマは「迷走する原子力規制委員会」です。 原子力規制委員会は、動いている原発を2020年にも止める方針を電力会社に伝えました。混乱する原子力行政の
  • バックフィットさせた原子力発電所は安全なのか 原子力発電所の安全対策は規制基準で決められている。当然だが、確率論ではなく決定論である。福一事故後、日本は2012年に原子力安全規制の法律を全面的に改正し、バックフィット法制
  • 前代未聞の原発事故から二年半を過ぎて、福島の被災者が一番注意していることは仲間はずれにならないことだ。大半が知らない土地で仮の生活をしており、親しく付き合いのできる相手はまだ少ない。そのような状況では、連絡を取り合っている元の町内の人たちとのつながりは、なにより大切なものだ。家族や親戚以外にも従来交流してきた仲間とは、携帯電話やメールなどでよく連絡を取り合っている。仕事上の仲間も大切で、暇にしていると言うと、一緒に仕事をやらないかと声を掛けてくれる。
  • 「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑