エネルギー問題に民主主義は有効か

2017年12月11日 17:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

デモクラシーの歴史は長くない。それを古代ギリシャのような特権階級の自治制度と考えれば古くからあるが、普通選挙にもとづく民主政治が世界の主流になったのは20世紀後半であり、それによって正しい意思決定ができる保証もない。特に長期的な意思決定には適していない。

この図は1956年にハバートの描いた「長い夜に燃やす1本のマッチ」で、化石燃料があと数百年で枯渇することを示している。彼の「ピークオイル」論は間違っており、化石燃料の生産はあと100年ぐらいは枯渇しないと思われるが、非在来型を含めてもあと1000年続くことはない。

これが地球温暖化との違いだ。こっちは科学的には不確実だが、あと100年で破局的な気候変動が起こる確率はゼロではないので、われわれの子孫に影響が及ぶ可能性がある。これについてはCOPなどで世界的に対策が進められているが、化石燃料の枯渇についてはそういう合意がない。時間軸が長すぎるからだ。

長期的には、化石燃料の代わりは(広い意味の)原子力しかない。再生可能エネルギーは密度が低く、安定した電源にはならない。原子力は重量あたり石炭の300万倍のポテンシャルがあるので物理的には無尽蔵で、軽水炉以外にも多くの技術的な可能性があるが、民主主義には向いていない。

特に日本では感情問題で原発が止まったままで、こういう政治的コストを加算すると原発の新設は困難だ。安倍政権が原子力について積極的に動かないのは、自民党内にも「選挙で不利になる」という意見が強いからだろう。それは「民意」を反映しているともいえる。

この問題は財政の「シルバー民主主義」と似ている。島澤諭氏の計算では、社会保障の負担はゼロ歳児以下に片寄っており、まだ生まれていない世代が900兆円以上の債務を負う。

化石燃料も政府債務も、現在世代が負担を将来世代に先送りできるという共通点がある。時間は非対称なので、将来世代がエネルギー価格の上昇や莫大な社会保障債務に気づいたときは遅い。政府債務はそれまでに財政破綻で「清算」できる可能性もあるが、燃やしてしまった化石燃料は元に戻せない。

こういう超長期の選択において、民主主義とは何だろうか。気候変動が「人類の問題だ」とか「子孫の生命にかかわる」というなら、化石燃料の節約も人類の問題だ。エネルギーの枯渇は生命にかかわるが、コストを負担する将来世代の民意は普通選挙では表明できない。

この点で民主的でない国は有利だ。ロシアや中国の原子力開発が日本を超える日は遠くない。日本が原発を止めて無駄に燃やしている化石燃料は民主主義のコストともいえるが、製造業は否応なくエネルギーコストの国際競争にさらされる。せめて原子力技術を温存することが、われわれの世代のまだ見ぬ将来世代に対する責任だろう。

This page as PDF

関連記事

  • 共同通信PRワイヤー
    新たな調査により、低酸素の未来に向けた動きが加速するエネルギー部門において優先事項が変化していることが明らかになりました。再生可能エネルギーやエネルギー効率などの破壊的ともいえる新技術が、2017年の世界のエネルギーリーダーにとっての行動の優先順位にインパクトを与えているのです。
  • 名古屋大学環境学研究科・教授 中塚 武 現在放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも詳しく描かれた「石橋山から壇ノ浦までの5年間に及ぶ源平合戦の顛末」は、幕末と戦国に偏りがちなNHKの大河ドラマの中でも何度も取り上
  • 次世代自動車として期待される電気自動車(EV)の急速充電器の設置が着々と進んでいる。道の駅、高速道路、コンビニなどに15年度末で約6100台が置かれ「走行中の電池切れが不安」というユーザーの懸念は解消されつつある。
  • 原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
  • スマートグリッドという言葉を、新聞紙上で見かけない日が珍しくなった。新しい電力網のことらしいと言った程度の理解ではあるかもしれないが、少なくとも言葉だけは、定着したようである。スマートグリッドという発想自体は、決して新しいものではないが、オバマ政権の打ち出した「グリーンニューディール政策」の目玉の一つに取り上げられてから、全世界的に注目されたという意味で、やはり新しいと言っても間違いではない。
  • 今年は2019年ということもあり、再エネ業界では「住宅太陽光発電の2019年問題」がホットトピックになっている。 と、いきなり循環論法のようなおかしな言い回しになってしまったが、簡単に言ってしまえば、そもそも「住宅太陽光
  • 監督:太田洋昭 製作:フィルムボイス 2016年 東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から5年間が過ぎた。表向きは停電も電力不足もないが、エネルギーをめぐるさまざまな問題は解決していない。現実のトラブルから一歩離れ、広
  • BP
    2015年10月公開。スーパーメジャーBPの調査部門のトップ、スペンサー・デール氏の講演。石油のシェア低下、横ばいを指摘。ピーク・オイル(石油生産のピークの終焉)の可能性は減りつつあり、なかなか枯渇しないこと。「デマンド・ピーク」、つまり需要抑制による使用減があり得ることを、指摘している。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑