EVは「第二のPC革命」になるか
最近にわかにEV(電気自動車)が話題になってきた。EVの所有コストはまだガソリンの2倍以上だが、きょう山本隆三さんの話を聞いていて、状況が1980年代のPC革命と似ていることに気づいた。
今はPC業界でいうと、70年代末の革命前夜ぐらいだろう。当時はアップルやタンディやアタリなどのPCメーカーがたくさん出てきたが、ゲーム以外に用途のない「高価なおもちゃ」とみられていた。IBMが1981年に発表したIBM-PCも、わずか1年半で開発された「モジュール」の寄せ集めだった。
IBMは開発を急ぐため、中核部品であるCPUとOSを外注した。これはEVでいうと、電池とモーターを外注したような(IBMにとっては)大失敗だった。おかげで市場は一挙に臨界点を超えて爆発的に拡大したが、アジアから安価な「クローン」が大量に対米輸出され、IBMは10年後には倒産の一歩手前まで追い詰められた。
電池のコストは10年ぐらいの視野でみると、今の半分ぐらいにはなるだろうが、問題はその先である。半導体の材料はシリコンで原価はほぼゼロなので、「ムーアの法則」でコストは劇的に下がったが、リチウムは稀少金属だ。大量生産に耐えられるのだろうか。この他にもEVには、充電に時間がかかるとか航続距離が短いとか、技術的問題が多い。
しかしPCの経験からいうと、そういう難点は市場が臨界点を超えれば踏み超えられる。80年代初期の大型コンピュータとPCの性能の差は、今のガソリン車とEVの差よりはるかに大きかった。だから究極の問題は、臨界点がいつ来るのか(そもそも臨界点が存在するのか)である。
これは要素技術だけではなく、インフラや政策もからむ。フランスやイギリスは、2040年までに内燃機関の販売を禁止する方針を打ち出し、中国はEVの累積台数で世界トップになった。PC革命のとき日本は、「第5世代コンピュータ」のような人工知能で資源と才能を空費した。
気になるのは、トヨタの動きが鈍いことだ。彼らは「臨界点が来たら、当社のほうがいいものをつくれる」と思っているのかもしれないが、昔のIBMもそう考えていた。1987年にIBMがウィンドウシステムのPS/2を出したとき、多くの人が「勝負はついた」といったが、実はそのときはもう遅かったのだ。
以上は大ざっぱな見取り図にすぎない。EVについては日本にほとんど信頼すべき一次情報がないので、今後もGEPRで調査していきたい。

関連記事
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
先週、アップルがEV開発を中止するというニュースが世界中を駆け巡りました。EVに関してはベンツも「30年EV専業化」戦略を転換するようです。国レベルでも2023年9月に英スナク首相がEV化を5年遅らせると発表しました。
-
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
-
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
-
北海道新聞、4月17日記事。北海道電力が泊原発(後志管内泊村)の維持費として、2012年度から4年間に3087億円を支出したことが同社の有価証券報告書で分かった。
-
英国イングランド銀行が、このままでは気候変動で53兆円の損失が出るとの試算を公表した。日本でも日経新聞が以下のように報道している。 英金融界、気候変動で損失53兆円も 初のストレステスト(日本経済新聞) 英イングランド銀
-
前2回(「ごあいさつがわりに、今感じていることを」「曲解だらけの電源コスト図made by コスト等検証委員会」)にわたって、コスト等検証委員会の試算やプレゼンの図について、いろいろ問題点を指摘したが、最後に再生可能エネルギーに関連して、残る疑問を列挙しておこう。
-
遠藤誉氏のホームページで知ったのだが、10月14日に実施された中国の軍事演習の狙いは台湾の「エネルギー封鎖」であった。中国環球時報に国防大学の軍事専門家が述べたとのことだ。 「連合利剣-2024B」演習は台湾島の主要港の
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間