原子炉は核兵器の製造装置である
きのうの言論アリーナで、諸葛さんと宇佐美さんが期せずして一致したのは、東芝問題の裏には安全保障の問題があるということだ。中国はウェスティングハウス(WH)のライセンス供与を受けてAP1000を数十基建設する予定だが、これは2009年に東芝の佐々木則夫社長(当時)が中国に売り込んだものらしい。
軽水炉でできるプルトニウムは核兵器の材料だから、核拡散防止条約などで厳格に規制されている。中国に原子炉のライセンスを供与することは、軍事技術を輸出するに等しい。中国の原発をめぐっては各国が競争したが、フランス政府はアレバの中国への技術輸出を(おそらく安全保障上の理由で)禁止した。
それなのにWHが中国にライセンス供与するのは奇妙な話で、諸葛さんも佐々木社長が商談をまとめたときは驚いたという。宇佐美さんによると、これはWHの親会社である東芝の判断で、アメリカ政府は知らなかったようだ。東芝がAP1000の商談を発表してから、アメリカ大使館が経産省の責任者を呼びつけて抗議したという。
ところがAP1000を「中国化」して135万kWにしたCAP1400は大きすぎて建設が難航し、いつまでたっても完成しない。東芝が技術協力しないと、中国の原発計画は頓挫する可能性がある。そこに出てきたのが、今回の事件だった。「粉飾決算」の発火点も、WHの監査法人アーンスト&ヤングだった。
アメリカから見ると、東芝の技術輸出を阻止することは日本への内政干渉になるが、WHを東芝から切り離すことは不可能ではない。今回の「7000億円の損失」の大部分は事後的な規制強化による工事の遅れが原因であり、WHの(したがって東芝の)経営はアメリカ政府がコントロールできるのだ。
ここから先は推測だが、東芝問題の背景には軍事技術の中国への流出をきらうアメリカ政府の意向がはたらいていた可能性がある。来年は日米原子力協定が切れるので、すでに外交ルートでは延長の交渉が始まっているだろう。その抜け穴になっていたライセンス供与について、アメリカが日本政府の厳格な規制を求めるかもしれない。
いうまでもないが原子炉は核兵器の製造装置であり、軍事技術である。日本人は「平和利用」しか知らないので、プルトニウムを核兵器に転用しようとは夢にも思っていないが、アメリカは疑っている。六ヶ所村では、IAEA(国際原子力機関)の査察官が24時間勤務でプルトニウムを監視している。日本がそれを核兵器に転用しないためだ。
だから原子炉技術を中国に輸出する東芝の行動を、アメリカ政府があらゆる手段で阻止しようとしたとしても不思議ではない。中国への技術輸出はWHの経営戦略のコアであり、これがアメリカ政府に禁止されると東芝の経営は成り立たない。日本時間の今夜にも予想されるWHの破産法申請は、エネルギー産業だけでなく日米同盟にも影響を及ぼす可能性がある。

関連記事
-
G7気候・エネルギー・環境大臣会合がイタリアで開催された。 そこで成果文書を読んでみた。 ところが驚くことに、「気候・エネルギー・環境大臣会合」と銘打ってあるが、気候が8、環境が2、エネルギー安全保障についてはほぼゼロ、
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク「GEPR」(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 ■ 今回は2章「陸域・水域の生態系」。 要約と同様、ナマの観測の統計がとにかく示されていない。 川や湖の水温が上がった、といった図2.2はある(
-
アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。今回のテーマは「福島の漁業をどう復興するか」です。 福島沖の漁業は今も再開できません。これが復興の障害になるとともに、福島第一原発の「処理水」が流せない原因になっています
-
前回に続き、2024年6月に米下院司法委員会が公表した気候カルテルに関する調査報告書についてお届けします。 (前回:気候カルテルの構図はまるで下請け孫請けいじめ) 今回は、司法委員会の調査に対して気候カルテルが逃げ回って
-
気候研究者 木本 協司 地球温暖化は、たいていは「産業革命前」からの気温上昇を議論の対象にするのですが、じつはこのころは「小氷河期」にあたり、自然変動によって地球は寒かったという証拠がいくつもあります。また、長雨などの異
-
6月29日のエネルギー支配(American Energy Dominance)演説 6月29日、トランプ大統領はエネルギー省における「米国のエネルギーを束縛から解き放つ(Unleashing American Ener
-
原子力発電の再稼働が遅れている。原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査が進まないためだ。 再稼働の第一号は九州電力川内原発になる見込みだ。これは今後の再稼働のモデルケースになるであろう。そこで規制当局とその関係者の間で、どのような手続きが行われたのかを、公開資料で検証してみた。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間