核廃棄物の最終処分地は六ヶ所村にある

2017年03月09日 10:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

使用ずみ核燃料の最終処分地をめぐる問題は混迷している。それを理由に、原発は「トイレなきマンション」だから「原発ゼロ」にすべきだという議論がいまだにあるが、これは技術的には誤りである。フォン・ヒッペルなどの専門家が提言しているように、青森県六ヶ所村で「乾式貯蔵」すればよい。

使用ずみ核燃料を再利用する核燃料サイクルは、技術的にも経済的にも行き詰まっている。GEPRで元NUMO(原子力発電環境整備機構)の河田東海夫氏も書いているように

  • 高速増殖炉の実用化する見通しはない
  • 再処理のコストは直接処分より約1円/kWh高い
  • そのメリットは廃棄物の体積を小さくすることだ

この再処理コストは計画どおり原発が稼働した場合の話で、原発が減ると単価はもっと高くなる。したがって再処理工場などに投資された約3兆円のサンクコストを無視すると、核燃料サイクルのキャッシュフローはマイナスである。今はプルトニウムをMOX燃料に加工して消費しているが、この単価は普通のウラン燃料の2倍であり、わざわざ再処理して高価な燃料をつくる意味はない。

唯一のメリットは、使用ずみ核燃料をガラス固化して体積を減らせば最終処分地の面積が減らせるということだが、これも実際には大したメリットではない。物理的には、最終処分地に適した空き地があるからだ。他ならぬ六ヶ所村である。

むつ小川原は、かつて石油コンビナートを建設するために造成されたが、それが挫折したまま放置され、図のように再処理工場に使われているのはごく一部で、今でも約250km2が空いている。これは大阪市とほぼ同じ面積で、使用ずみ核燃料を300年分以上、収容できる。再処理工場を建設するとき、地盤などの問題はすべてクリアしたので、使用ずみ核燃料を地層処分するには適している。これは関係者もすべて認める事実だ。

ではなぜNUMOの最終処分場選びが難航し、今度は国が直接やることになるなど、この問題が迷走しているのか。それは国と青森県との間で六ヶ所村を最終処分場にしないという確認書を歴代の知事とかわしたからだ。民主党政権でも、2012年8月22日に枝野経産相が三村知事に対して「青森県に最終処分場をお願いすることはない」と確認した。

これには複雑な経緯があり、かつて激しい反対運動に対して「六ヶ所村は工場であって核のゴミ捨て場ではない」といって住民を説得した経緯もあるらしい。この約束には法的拘束力はないが、地元の了解なしに国が方針を変更することはできないだろう。

しかし再処理して核兵器の材料になりうるプルトニウムをわざわざつくるのは、核拡散のリスクもある。今でも日本は45トン(原爆5000発以上)のプルトニウムを保有しているが、2018年には日米原子力協定の期限が切れる。アメリカは、プルトニウムを何に使うのか、追及してくるだろう。どうせ捨てるなら、使用ずみ核燃料のまま六ヶ所村に埋めればいいのだ。

これに対する反論としては、河田氏のように「核燃料のエネルギーの1%しか使わないまま捨てるのはもったいない」という意見があるが、それならむつ市などにある中間貯蔵所を増やし、キャスクに入れたまま半永久的に貯蔵すればいい。遠い将来、プルトニウムを使う技術がもし実用化すれば、また使うことも可能だ。

いずれにせよ「膨大なコストをかけて再処理工場をつくったのだから使わないともったいない」というサンクコストの錯覚を捨てれば、問題は単純である。ただこれまでの経緯もあるので、これは電力会社というより国の判断だろう。必要なら、安倍首相が青森県に出向いて知事を説得してもいい。

経産省も電力業界もこの問題をタブーにしているが、「トイレなきマンション」を理由にして脱原発を主張する人は多い。特に良心的な知識人にこういう誤解は多いので、少なくとも直接処分と併用する政策転換を行えば、そういう中間派とも対話できるだろう。もうエネルギー問題で「敵か味方か」という不毛な論争をしているときではない。

This page as PDF

関連記事

  • 5月13日に放送した言論アリーナでも話したように、日本では「原子力=軽水炉=福島」と短絡して、今度の事故で原子力はすべてだめになったと思われているが、技術的には軽水炉は本命ではなかった。1950年代から「トリウム原子炉の道?世界の現況と開発秘史」のテーマとするトリウム溶融塩炉が開発され、1965年には発電を行なった。理論的には溶融塩炉のほうが有利だったが、軽水炉に勝てなかった。
  • Web原産新聞
    7月6日記事。クリントン氏はオバマ大統領の政策を堅持し、再エネ支援などを主張する見込みです。
  • 全国の原発が止まったまま、1年半がたった。「川内原発の再稼動は今年度中には困難」と報道されているが、そもそも原発の運転を停止せよという命令は一度も出ていない。それなのに問題がここまで長期化するとは、関係者の誰も考えていなかった。今回の事態は、きわめて複雑でテクニカルな要因が複合した「競合脱線」のようなものだ。
  • 今度の改造で最大のサプライズは河野太郎外相だろう。世の中では「河野談話」が騒がれているが、あれは外交的には終わった話。きのうの記者会見では、河野氏は「日韓合意に尽きる」と明言している。それより問題は、日米原子力協定だ。彼
  • 【要旨】 放射線の健康影響に関して、学術的かつ定量的に分析評価を行なっている学術論文をレビューした。人体への影響評価に直結する「疫学アプローチ」で世界的にも最も権威のあるデータ源は、広島・長崎の原爆被爆者調査(LSS)である。その実施主体の放射線影響研究所(RERF:広島市)は全線量域で発がんリスクが線量に比例する「直線しきい値なし(LNT)仮説」に基づくモデルをあてはめ、その解析結果が国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に反映されている。しかしLNT仮説は低い線量域(おおむね100mSv以下)では生物学的に根拠がない(リスクはもっと小さい)とする「生物アプローチ」に基づく研究が近年広くなされている。
  • >>>(上)はこちら 3. 原発推進の理由 前回述べたように、アジアを中心に原発は再び主流になりつつある。その理由の第一は、2011年3月の原発事故の影響を受けて全国の原発が停止したため、膨大な費用が余
  • 新潟県知事選挙では、原発再稼動が最大の争点になっているが、原発の運転を許可する権限は知事にはない。こういう問題をNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ぶ。公共的に必要な施設でも「うちの裏庭にはつくるな」
  • アゴラ研究所の運営するネット放送の言論アリーナ。8月12日は「原子力発電は地域振興に役立つのか」というテーマで放送した。(Youtube)(ニコニコ生放送) 鹿児島県の新知事である三反園訓氏が川内原発の安全性確認調査を9

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑