そもそも福島第一原発の「廃炉」は必要か
福島第一原発の「廃炉資金」積み立てを東京電力に義務づける、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の改正案が2月7日、閣議決定された。これは原発の圧力容器の中に残っているデブリと呼ばれる溶けた核燃料を2020年代に取り出すことを東電に義務づけ、その廃炉費用8兆円を積み立てるよう求めるものだが、そんな莫大なコストをかけて「廃炉」にする必要があるのだろうか?
デブリを取り出すより「石棺」のほうが合理的
そのデブリの動画が先日、初公開されたが、圧力容器の下の空間に黒い塊のようになってこびりついている。デブリは圧力容器から漏れた可能性もあるが、格納容器の中には封じ込められている。昨年、GEPRでも報告した通り、原子炉は冷温停止状態にあり、放射線は依然として強いが暴走する危険はなく、今はほぼ安定した状態である。
デブリを無害化するもっと簡単な方法は、そのままチェルノブイリ原発のように原子炉をコンクリートでおおう石棺で封じ込めることだ。WSJによると、新しい石棺は次の写真のような高さ約100mのアーチ型のシェルターで、少なくとも100年間は放射性物質を封じ込められるという。コストは21億5000万ユーロ(約2600億円)で、8兆円かかる福島の「廃炉」とは桁違いだ。
廃炉というのは、通常の原発では核燃料を取り出して原子炉を廃止することだ。火力と違って解体すると放射性物質の処理が大変なので、原子炉はそのまま置いておけばよく、特別な技術は必要ない。「日本が世界に廃炉技術を普及する」という話はナンセンスだ。福島でやっている作業は事故処理であり、これを廃炉と表現することが混乱の原因である。
危険な「廃炉」はそのうち行き詰まる
ではそういう廃炉(デブリの取り出し)は可能だろうか。上の動画でもわかるように、圧力容器のあちこちにデブリが飛び散って付着しており、それをすべて除去することは、高い放射線を被曝して作業することになり、きわめて危険だ。そのうち作業は行き詰まるだろう。
それでも必要なら取り出すべきだが、そんな必要はない。チェルノブイリと同じように、石棺で封じ込めればいいのだ。最初の石棺はにわかづくりだったので放射能汚染が問題になったが、日本の技術なら安全なシェルターをつくることは容易だ。
他の場所で組み立てて原子炉まで移動するのが普通の建築物と違うが、これも今までの「廃炉」の困難な作業に比べれば大した問題ではない。しばらくは冷却が必要で、放射線のモニタリングも続けなければならないが、デブリを取り出すよりはるかに安全であり、コストも1兆円以内ですむだろう。
問題はここで終わりである。こんな簡単な答が出せないのは、地元感情に配慮しているからだ。昨年、支援機構が廃炉作業の「戦略プラン」で石棺」に言及したところ、福島県の内堀雅雄知事が経済産業省に「大きなショックを受けた。元の生活を取り戻そうとしている住民にあきらめろというのか」と抗議した。
山名元理事長はこれに対して石棺プランを否定して「引き続きデブリの取り出しをめざす」と釈明したが、知事の抗議は政治的スタンドプレーである。デブリを取り出しても、福島第一原発のまわりに住民は住めない。石棺でも同じである。
このままでは、東電は事故被災者の賠償と除染に加え、今後は30年にわたって毎年3000億円の積み立てが必要になる。改正案では、廃炉資金の積み立ては「利用者に著しい負担を及ぼさない範囲で」東電が負担することになっており、電気代や託送料などに負担がしわ寄せされる。最終的に負担するのは国民である。
関連記事
-
「福島後」に書かれたエネルギー問題の本としては、ヤーギンの『探求』と並んでもっともバランスが取れて包括的だ。著者はカリフォルニア大学バークレーの物理学の研究者なので、エネルギーの科学的な解説がくわしい。まえがきに主要な結論が列記してあるので、それを紹介しよう:
-
東日本大震災とそれに伴う福島の原発事故の後で、日本ではスマートグリッド、またこれを実現するスマートメーターへの関心が高まっている。この現状を分析し、私見をまとめてみる。
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は映像コンテンツ「アゴラチャンネル」を放送しています。5月17日には国際エネルギー機関(IEA)の前事務局長であった田中伸男氏を招き、池田信夫所長と「エネルギー政策、転換を今こそ--シェール革命が日本を救う?」をテーマにした対談を放送しました。
-
今年は、太平洋戦争(大東亜戦争)終結70周年であると同時に、ベトナム戦争(第2次インドシナ戦争)終結40周年でもある。サイゴン陥落(1975年4月30日)と言う極めてドラマティックな形で終わったあの悲劇的な戦争については、立場や年齢によって各人それぞれの思いがあろうが、筆者にとっても特別な思いがある。
-
ロシア軍のウクライナ攻撃を「侵攻」という言葉で表現するのはおかしい。これは一方的な「武力による主権侵害」で、どうみても国際法上の侵略(aggression)である。侵攻という言葉は、昔の教科書問題のときできた言い換えで、
-
先日、COP28の合意文書に関する米ブライトバートの記事をDeepL翻訳して何気なく読みました。 Climate Alarmists Shame COP28 into Overtime Deal to Abandon F
-
2012年9月19日に設置された原子力規制委員会(以下「規制委」)が活動を開始して今年の9月には2周年を迎えることとなる。この間の5名の委員の活動は、本来規制委員会が行うべきと考えられている「原子力利用における安全の確保を図るため」(原子力規制委員会設置法1条)目的からは、乖離した活動をしていると言わざるを得ない。
-
去る2024年6月11日に米下院司法委員会が「気候変動対策:環境、社会、ガバナンス(ESG)投資における脱炭素化の共謀を暴く」と題するレポートを公開しました。 New Report Reveals Evidence of
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間