提言-「原子力規制委員会」のさらなる展開を期待して
(GEPR編集部)
原子力問題の啓発と対話を求める民間有志の団体である原子力国民会議が、12月1日に原子力政策のあり方について集会を開催する。原子力の適切な活用を主張する動きは、2011年の東京電力の福島第一原子力発電所の事故後、ほとんどなかった。こうした活動が行われるようになったのは、原子力をめぐる世論が落ち着き、適切な議論ができるようになったことを示すだろう。
その主張は適切なもので、アゴラ・GEPRがこれまで主張したものと重なる。また原子力の将来について異論を持つ人でも、参考になるであろう。意義のある提言書を紹介する。
また同団体はこの声明書を公開し、賛同署名を募集している。(サイト)
(本文)
次の四つの提言を全国大会で承認し、対外的な声明文とし、政府に提出します。
提言1 原子力発電所の再稼働の促進を
原子力発電所の停止により、化石燃料調達のため巨額の国富が国外に流出し、国民と産業界は電気料金の値上げによって大きな損失を強いられました。経済性や地球温暖化防止の観点からも、原子力発電なしにはわが国は成り立っていきません。原子力発電の活用は緊急、最重要課題であり、政府は不退転の覚悟であらゆる手段を尽くして、再稼働を促進すべきであり、原子力規制委員会も適合性審査を加速すべきです。
提言2 将来のエネルギー確保にもんじゅ再生を
無資源のわが国のエネルギー安全保障にとって、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、消費した量以上の燃料を生み出す高速増殖炉を実用化し、核燃料サイクルを確立することは、大変重要です。単純な廃炉は愚策であり、”もんじゅ”を再生し、新しい原子力体制を構築する契機とすべきです。
提言3 信頼される規制行政のために原子炉等規制法の改正を
原子力規制委員会の審査や検査において、運用規則や手続きに適正さを欠いている点が明らかになりました。規則や指針類の見直しが不可欠です。行政機関として守るべき行動規範(信義誠実の原則、比例原則など)、安全目標などを原子炉等規制法に盛り込む法改正を行うべきです。
提言4 原子力規制行政の刷新を
原子力規制委員会は発足以来、指針や規則類の整備が不十分なまま、規制行政を実施してきました。その結果、審査が済んだ原子炉は7基に過ぎません。発足して5年目を迎える来年には混乱を脱して、新たな委員長のもとで規制行政の刷新を行い、安全で、安定した、安価な電力を国民に提供できる体制を整備すべきです。
提言の理由
原子力発電所の再稼働の促進
私たちは、原子力なくしてこの国は立ち行かない現実を直視しなければなりません。事故後5年を経ていながら、現在稼働中の原子炉は未だに3基であり、我が国は期待とは程遠い状況にあります。申請中の26基の適合性審査がいつ終わるのか、全体計画が示されない状況は異常であり、政府は規制委員会の審査を加速させる手立てを講じるべきだと考えます。
原子力規制委員会の発足後(2012/9)、北海道新聞(2013/4/30)に菅直人元首相の次の衝撃的な発言が掲載されました。「たとえ政権が代わっても、トントンと元に戻るかといえば、戻りません。10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会を作ったことです。」 規制委員会の使命が脱原発だったとすれば、驚くべきことです。現状の原子力混迷の根源はここにあると捉えるべきでしょう。こうした規制委員会の体質改善は、我が国にとって必要不可欠です。
規制行政を差配しているのは原子力規制委員会・規制庁であり、この原子力の混迷についての責任があることは明らかです。審査の過程をつぶさに見る限り、圧倒的な権限を有する規制委員会・規制庁に適切な使命感、責任感があれば、現状は異なっていたでしょう。
原子力基本法・原子炉等規制法が掲げている「原子力の平和利用」の精神を重視していれば、このような審査の遅滞は起こらなかったはずです。
現在の原子力の混迷が、産業に悪影響を与え、国民負担を増大させている現状を思えば、今、原子力規制の在り方に有効な提言を行うことは、時宜を得た行動であると、我々は考えます。
将来のエネルギー確保にもんじゅ再生を
田中俊一規制委員長の“もんじゅ勧告”は、何の展望も示さず、ただ”もんじゅ”廃炉に向けて引き金を引くものでした。それは、高速増殖炉開発の主導権を取りたい経産省の長年の願望に沿った措置でもあります。しかし、核燃料サイクルの推進に否定的とされる田中氏とその推進を基本方針とする経産省は、仮に”もんじゅ”が廃炉になったとしても、その後意見の不一致が予想され、我が国における核燃料サイクル政策を更なる混迷に落とし入れる危険性があることに留意しておく必要があります。
このような状況を遠望すれば、二つの方策が考えられます。一つは、先に指摘した通り、規制委員会の新規制基準の適用の仕方に問題があると認識し、その適用方法を改善し、運転再開条件に工夫を凝らすこと、もう一つは、これまで国策に協力してきた立地地域の貢献を勘案して新しい将来に向けた政策を立案すること、です。そしてその前提として、政府が核燃料サイクルの確立に全力で取り組むべきだという事です。
信頼される規制行政のために原子炉等規制法の改正を
規制委員会発足から6ヶ月経過した時点で『田中私案-原子力発電所の新規制施行に向けた基本的な方針』という法令化されていない審査指針が提案され、その後の適合性審査に決定的な影響を与えました。それは、以下に示すように非合理的な内容のものでした。
1・規制に対し、大統領令で、バックフィット工事に先駆け「工事によってどれだけ安全性が高まるか」の評価(費用対効果)を実施することを命令していますが、我が国の規制委員会はこうした事前評価を無視しています。その結果、安全性向上のためとして膨大な工事が当然のごとく実施されました。事業者に大きな財政的な負担を強い、電気料金の値上げを招き、特に電力多消費産業を疲弊させました。私案が存在する限り、このような非合理的規制措置は継続し、安全効果の低い工事が継続することになり、国民負担は無用に増大していくでしょう。
2・IAEA(国際原子力機関)の基本安全原則でいう “Graded Approach(等級別扱い)”を無視して、商用炉と同じ規制を“もんじゅ”や“研究炉”に適用し、”もんじゅ”は廃炉へ、研究炉は開店休業、に追い込まれています。こうした規制と規制委員長の姿勢は、早急に改められるべきです。特に、“もんじゅ勧告”は等級別扱いが無視された例だと言えます。
3・このような規制措置の根底には、“安全目標”を活用しようとしない規制委員会の姿勢があります。安全目標が活用されていれば、バックフィットの仕方は適正化され、事前評価は当然の作業になり、等級別扱いの導入にもつながり、”もんじゅ”問題は異なった様相を呈し、さらに活断層問題で科学的に偏った判断は生じなかったでしょう。適切な原子力規制を目指すために、 “安全目標”は判断基準として大いに活用されるべきです。
これらの、正常といえない規制行政をもたらしている主たる原因は、先の私案にあります。またこの私案では、原発の安全性の説明責任は事業者にあるとし、規制委員会にはありません。
ならば、規制委員会は自らの存在意義を自ら否定していることにならないでしょうか。田中氏は適合性審査に合格した原発は安全であるという判断をしないばかりか、『(新規制基準に適合した原発であっても)安全とはいわない』と度々発言しています。これは、安倍政権の『(規制委によって)安全が確認されたものから順次再稼動する』という方針を空洞化し、原発の運転差し止め訴訟をめぐる司法の審議においても大きな誤解をもたらしており、無用な混乱を招いています。
我々は、不適切な現在の規制行政の根源は田中私案にあり、今後、それを改善していく法的措置について検討しなければならないと考えます。
原子力規制行政の刷新を
我々は、原子力規制委員会が規制措置や規則類の見直しによって原子力の正常化を効果的に実現していくために、これまでの規制行政を“第一フェーズ”とし、来年9月以降5年間を“第二フェーズ”として位置づけることを提案します。
福島事故後、異常な混乱をきたしていたとき、田中規制委員会は一定の役割を果たしました。しかしながら、冒頭に述べた事態を思えば、現在の規制委員会は体質的な欠陥を抱えていると言えます。これを解決する方策として、 “段階的進展-フェーズ制”を提案します。 すなわち、原子力規制委員会の更なる展開を遂げるため、新たな体制へと刷新された委員会・規制庁の下、原子力規制の“第二フェーズ”の実現を要請します。その目的は、先に指摘した種々の課題を新委員長の下で抜本的に解決することです。
我々は、ここに、声を大にして政府と国民に対し、提言の実現を呼びかけます。
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