露ロスアトム社、医療用放射性物質の販売拡充−日本への期待

2016年10月05日 16:29
アバター画像
経済ジャーナリスト

ロシアの原子力企業のロスアトム社は2016年に放射性ヨウ素125の小線源の商用販売を開始する。男性において最も多いがんの一つである前立腺がんを治療するためのものだ。日本をはじめとした国外輸出での販売拡大も目指すという。

同社の資料提供を受け、それをまとめる。同社関連の情報は、かなり少ないため、新しい動きを紹介する意味はあるだろう。

前立腺は男性だけにあり、精液の一部をつくっている臓器だ。そのがんの治療では、放射線治療が主に使われる。小線源療法は、この放射線療法の一種で放射線物質を埋め込み、周囲の組織や臓器に損傷を与えず、腫瘍に直接放射線を照射してがん細胞を殺す。

ロスアトムの製品は、他国の同種の治療より、効果は変わらないものの、技術革新により、価格が5分の1になり、大幅に手術コストを削減することが特徴という。

ロスアトム社は1992年にロシア連邦原子力庁が改変され、国が株式の大半を持つ形で、民営企業として発足した。原子炉の製造、発電、原子力の民生研究を行う巨大国策企業となっている。そして10年前から医療用放射性同位元素の商業販売を行っている。国内にあるその生産設備は世界最大級で、組織内に医療と放射線の関係の研究を行う「核医学センター」がある。ロスアトムの放射線医療製品は50カ国、600以上の顧客があり、ロシア国内からの安全な移送を含めたサービスを提供している。

日本企業にも販売している。日本との関係も深まっている。昨年にロスアトムは日本に代表団を派遣し、日本の企業と販売拡大、技術協力などの合意を結んだ。そして、今後のビジネスの拡大を狙う。

日本市場は医療用の放射線同位体の使用で米国に次いで2位となる大きな市場という。

日本は医療機器では、世界のトップ企業が集まり、また高齢化の中で、医療関連の需要も堅調だ。ロシアとの関係は、北方領土問題の解決への前進、平和条約の締結の期待が高まり、エネルギーや貿易で深まっている。医療用でも、新しい日露関係が深まることが期待される。

(2016年10月5日)

This page as PDF

関連記事

  • 日本ばかりか全世界をも震撼させた東日本大地震。大津波による東電福島第一原子力発電所のメルトダウンから2年以上が経つ。それでも、事故収束にとり組む現場ではタイベックスと呼ばれる防護服と見るからに息苦しいフルフェイスのマスクに身を包んだ東電社員や協力企業の人々が、汗だらけになりながらまるで野戦病院の様相を呈しつつ日夜必死で頑張っている。
  • 日本政府は昨年4月にエネルギー基本計画を策定し、今年の7月に長期エネルギー需給見通しが策定された。原子力は重要なベースロード電源との位置付けであるが、原発依存度は可能な限り削減するとし、20%~22%とされている。核燃料サイクルについては、これまで通り核燃料サイクル政策の推進が挙げられており、六ケ所再処理工場の竣工、MOX燃料加工工場の建設、アメリカおよびフランス等との国際協力を進めながら高速炉等の研究開発に取り組むことが記載されている。
  • 筆者は現役を退いた研究者で昭和19年生まれの現在68歳です。退職後に東工大発ベンチャー第55号となるベンチャー企業のNuSACを立ち上げました。原子力技術の調査を行い、現在は福島県での除染技術の提案をしています。老研究者の一人というところでしょうか。
  • 2015年2月3日に、福島県伊達市霊山町のりょうぜん里山がっこうにて、第2回地域シンポジウム「」を開催したのでこの詳細を報告する。その前に第2回地域シンポジウムに対して頂いた率直な意見の例である。『食べる楽しみや、郷土の食文化を失ってしまった地元民の悲しみや憤りは察してあまりある。しかし、その気持ちにつけこんで、わざわざシンポジウムで、子供に汚染食品を食べるように仕向ける意図は何なのか?』
  • 小泉環境相が悩んでいる。COP25で「日本が石炭火力を増やすのはおかしい」と批判され、政府内でも「石炭を減らせないか」と根回ししたが、相手にされなかったようだ。 彼の目標は正しい。石炭は大気汚染でもCO2排出でも最悪の燃
  • 広島高裁の伊方3号機運転差止判決に対する違和感 去る12月13日、広島高等裁判所が愛媛県にある伊方原子力発電所3号機について「阿蘇山が噴火した場合の火砕流が原発に到達する可能性が小さいとは言えない」と指摘し、運転の停止を
  • 私は翻訳を仕事にしている主婦だ。そうした「普通の人」がはじめた取り組み「福島おうえん勉強会・ふくしまの話を聞こう」第一回、第二回を紹介したい。
  • 事故を起こした東京電力の福島第一原子力発電所を含めて、原子炉の廃炉技術の情報を集積・研究する「国際廃炉研究開発機構」(理事長・山名元京大教授、東京、略称IRID)(設立資料)は9月月27日までの4日間、海外の専門家らによる福島原発事故対策の検証を行った。(紹介記事「「汚染水、環境への影響は小さい」― 福島事故で世界の専門家ら」)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑