独、石炭利用で死者増加-日本への教訓は?

2016年08月31日 16:47
アバター画像
経済ジャーナリスト

dc_opt

欧州の環境団体が7月に発表したリポート「ヨーロッパの黒い雲:Europe’s Dark Cloud」が波紋を広げている。石炭発電の利用で、欧州で年2万2900人の死者が増えているという。特に、石炭を産出し、主要電源とするポーランドとドイツで著しい。また西欧からの工場の移転で、経済成長の続く東欧のEU(欧州連合)の新規加盟国でも目立つ。EU、特にドイツは日本で「優れた環境政策」「脱原発を見習うべき」と称えているが、こうした実態は伝わっていない。

石炭火力増設による悪影響

リポートは7月に公表されCAN Europe(気候変動ネットワーク)やWWF(世界自然保護基金)などの環境団体が執筆した。環境保護に傾いた団体によるもので情報の偏りはあるかもしれない。

石炭の燃焼によって、有害な微粒物資の拡散、さらに温室効果ガスの二酸化炭素が排出される。一方で、発電コストは石炭が安いため、作られやすい傾向がある。

ドイツでは、脱原発と電力自由化、さらに再生可能エネルギー固定価格買取制度という政策が2000年以降採用された。再エネによる発電の供給量は一定ではない。電力会社はそれに対応するため、同国で産出される石炭、褐炭による小型火力発電所をつくった。同国の2015年の発電割合は、再エネ(水力)が24%となる一方で、石炭・褐炭の割合が44%になる。

またEU域内では、賃金の低い東欧、特にポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーに西欧企業が工場をシフト。これらの国が経済成長を遂げる一方で、大気汚染が進行。アジアで、中国で起こったことがEU域内で発生している。

リポートでは、EU内で、石炭火力発電などで発生し、大気汚染をもたらす微粒物質PM2.5の分布を紹介。東欧とドイツに発生が偏在していることが分かる。

(図1)

screenshot 2

また同リポートは、大気汚染と疾患による死を推計している。リポートでは病歴調査の集計から算出しているため、精緻な推計とは言い難いが、2万2900人の死亡が2013年にあり、ポーランド、ドイツが突出しているという。

(図2)

screenshot

日本で、大気汚染と火力発電の関係を調べるべき

ここで、日本の状況を考えて見よう。原発の停止、再エネ振興、そして火力発電の代替のための増加というドイツ、EUと同じ状況が発生している。石炭火力発電も増え、また建設計画も各所で発表されている。日本の発電における環境基準が厳しいため、大気汚染の問題は今のところ、顕在化していない。しかし、冬場に火力発電増加の影響と見られる問題が発生している。(参考記事・石井孝明「千葉PM2.5上昇、原発停止・火力発電増の影響を検証せよ」)

こうしたことを考えると、大気汚染による健康被害の可能性は否定できない。残念ながら日本の火力発電と健康の影響について詳細な調査は発表されていない。おそらく健康への悪影響は出ているだろう。そうした調査の上で、現在進んでいる日本のエネルギー政策の問題点をめぐり、国民的な議論を行うべきであろう。

日本で広がる「脱原発」、「再エネ振興」というだけの議論は単純すぎる。問題を多角的に分析して、日本人の幸福に最も寄与するエネルギーの形を考えたい。

(2016年8月31日更新)

 

タグ:
This page as PDF

関連記事

  • 先日、NHKが「脱炭素社会実現の道筋は」と題する番組を放映していた。これは討論形式で、脱炭素化積極派が4人、慎重派1名で構成されており、番組の意図が読み取れるものだった。積極派の意見は定性的で観念的なものが多く、慎重派が
  • 11月11日~22日にアゼルバイジャンのバクーでCOP29が開催される。 COP29の最大のイシューは、途上国への資金援助に関し、これまでの年間1000億ドルに代わる「新たな定量化された集団的な目標(NQCG)」に合意す
  • 「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
  • これを読むと、現状のさまざまな論点に目配りされ、「分析文書」としてはよくできている。ところが最近の行政文書によくあるように、何を実行したいのかが分からない。書き手が意図的にぼやかし、無責任に逃げようとしていることもうかがえる。
  • NHK
    NHK 6月5日公開。福井県にある高浜原子力発電所について、関西電力は先月再稼働させた4号機に続いて、3号機についても6日午後2時ごろに原子炉を起動し、再稼働させると発表しました。
  • 以前書いたように、再生可能エネルギー賦課金の実績を見ると、1%のCO2削減に1兆円かかっていた。 菅政権が26%から46%に数値目標を20%深堀りしたので、これは年間20兆円の追加負担を意味する。 20兆円の追加負担は現
  • 原子力研究と啓蒙活動を行う北海道大学大学院の奈良林直教授に対して「原発推進をやめないと殺すぞ」などと脅迫する電話が北大にかかっていたことが10月16日までに分かった。奈良林教授は大学と相談し、10日に札幌北警察署に届けて受理された。
  • (前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か②) 送電線を増強すれば再生可能エネルギーを拡大できるのか 「同時同量」という言葉は一般にも定着していると思うが、これはコンマ何秒から年単位までのあらゆる時間軸で発電量と需

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑