遺伝子組み換え作物は安全と米科学アカデミーが報告
米科学アカデミー(NAS)は5月17日、遺伝子組み換え作物は人間や動物が食べても安全であり、環境を害することはないと結論を示す報告書をまとめた。がんや肥満、胃腸や腎臓の疾患、自閉症、アレルギー、遺伝的疾患などの増加を引き起こす証拠はないとした。
20人の生物、倫理、法律家など多様な分野の専門家が、過去20年間の約900件におよぶ研究成果を調べ、80人へのヒアリング、草案段階で公開し、700ものをまとめて包括的に評価した。
遺伝子組み換え作物、増収、農薬削減のプラス面
報告書によると、遺伝子組み換え作物は収量の向上に役立ち、害虫や雑草から収穫物を守り、農薬の削減や農家の収入向上などの効果がある。遺伝子組み換え作物と野生種の交配による危険性は確認されなかった。しかし、その拡大が、耕地や土地にどのような影響があるかは不確実性があるとした。
ただし、日本や欧州では食品に遺伝子組み換え作物を使う際に表示義務を課しているが、報告書では「表示義務化は国民の健康を守るために正当化されるとは思われない」と指摘。ただ「製品表示には食品の安全性を超える意味がある」として、社会的、経済的に幅広く検討する必要があるとした。報告は400ページにおよぶ。(特設ホームページ)
遺伝子組み換え作物とは何か
遺伝子組み換え作物は遺伝子を人工的に改変し、害虫や病害への抵抗や生産量などを高めたもの。商品化された種苗が市場販売されたのは1996年で、今年で20年前になる。現在は米でつくる大豆やトウモロコシ、綿の9割超が遺伝子組み換えとなっている。
販売企業は、モンサントやデュポンといった、遺伝子工学技術を持つ米国の先進企業。特にモンサントは、特定の農薬をかけても耐えられる植物を開発。種子と農薬をセットにする販売を行っている。
消費者の「健康への影響が不透明だ」との声を踏まえ、米のバーモント州でも表示義務化を法制化する動きがある。また米国は政府行政機関が、全国での表示の統一化を行うことを検討している。
モンサント社の研究所で展示された、遺伝子組み換え作物の大豆。畑から1週間が経過した上から反時計回りに、無農薬、農薬を使った普通の作物、遺伝子組み換え(GM)作物の順。害虫の影響で、GM作物の効果が分かる。
慎重意見も掲載
このリポートは広範な提言もある。従来型の交配による品種改良と、人為的に遺伝子組み換えをした示したことは、新しい技術の区別は明確ではないということもしめした。ただし、規制、監視体制は従来の食物検査から大きく変わっていないために、新しい議論を行うべきであるとも提言している。また米国でも約6割の消費者が、遺伝子組み換え作物の安全性に懸念を示しているという。そのために、作物の議論を終わらせることは期待できず、両論を併記している。
また遺伝子組み換え作物でも、害虫が農薬や植物からの毒に耐性を持つことが確認されている。そうした変化の観察も重要としている。
「私たち熱的な要求、シンプルで、概括的で、確実なものを提供した」と、委員会の委員長であったノースカロライナ大学のフレッド・グルード博士は語った。
専門家が積極的に社会問題に関与する米国の力
遺伝子組み換え作物をめぐる議論は、米国では冷静だ。これは他の科学的な知見を必要とする問題でも同じ事がいえる。米国科学アカデミーが、社会的な問題への関与に積極的だ。
一方で、日本では首相への勧告を行う日本学術会議が、社会問題への解決にまったく機能していない。福島の放射線問題、狂牛病問題などでは、科学的知見に基づく、国民への呼びかけをしなかった。米国の取り組みは、日本が科学問題に向き合う中で大変参考になるだろう。

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