ポルトガルが4日半、再エネで全電力を供給
ポルトガルで今月7日午前6時45分から11日午後5時45分までの4日半の間、ソーラー、風力、水力、バイオマスを合わせた再生可能エネルギーによる発電比率が全電力消費量の100%を達成した。(報道のガーディアン記事)
一国が再エネ100%になったことは史上初だろう。不明なところが多いが、日本のメディアで伝えられていないので、簡単に紹介してみる。筆者は英語情報しか読めないが、その情報もあまり出ていない。
南欧では、春先に暖房や冷房による電力需要がもともと少なくなる。欧州では、このところ晴天で比較的風が強く吹く天候が続いており、ソーラー発電や風力発電に都合の良い条件が続いている。ドイツでも8日の日曜日、再エネの発電比率が95%に達した。
海外電力調査会の資料によれば、同国の電力需要は年530億kWh、人口は約1000万人だ。日本の20分の1、規模では北海道電力程度だ。
2015年には同国の電力需要のうち、全体のうち半分を再エネが占めた。風力が22%、水力が17%、バイオマスが5%、太陽光2%、潮力が2%だった。残りは火力発電で、原子力発電は同国にはない。また隣国のスペインから、電力の1割前後をここ数年は購入している。
今年5月初めの再エネ100%の詳細は不明だが、最大需要(kWで示される)は数百万kW程度だったであろう。上記ガーディアンによれば、発電設備の容量は、水力(570万kW)と風力(480万kW)があるとされ、十分需要を賄えたはずだ。
ポルトガルは無資源国だが、早くから再エネを導入。エネ研のリポートによると、FIT(固定価格買取制度)をデンマークの1979年に次ぐ二番目となる88年から実施した。
同国は発送電の分離が行われており、全国でサービスする配電会社と、いくつかの発電会社があるようだ。しかし再エネ発電を使うと、火力を止めることになる。ドイツなどでそうなっているように、火力発電所を抱える会社は、再エネの拡大によって、厳しい経営状況になっているはずだ。また天候の動きは読み切れず、再エネが発電されない場合のバックアップ電源として火力を潰すこともできない。
再エネ100%は、脱原子力・化石燃料への可能性を示す一方で、ポルトガルの経済規模の小ささと天候による特異な例であることも考えなければならない。この状況のもたらした正負双方の教訓を示した、より詳細な現地からの情報が望まれる。
(2016年5月30日掲載)
関連記事
-
以前、カリフォルニアで設置される太陽光パネルは、石炭火力が発電の主力の中国で製造しているので、10年使わないとCO2削減にならない、という記事を書いた。 今回は、中国で製造した太陽光パネルが日本に設置されるとどうなるか、
-
日本政府はCO2を2030年までに46%減、2050年までにゼロにするとしている。 これに追随して多くの地方自治体も2050年にCO2ゼロを宣言している。 けれども、これが地方経済を破壊することをご存知だろうか。 図は、
-
地球温暖化問題は、原発事故以来の日本では、エネルギー政策の中で忘れられてしまったかのように見える。2008年から09年ごろの世界に広がった過剰な関心も一服している。
-
加速するドイツ産業の国外移転 今年6月のドイツ産業連盟(BDI)が傘下の工業部門の中堅・中手企業を相手に行ったアンケート調査で、回答した企業392社のうち16%が生産・雇用の一部をドイツ国外に移転することで具体的に動き始
-
福島原発事故以来、日本のエネルギー政策には世世論から批判を集めます。 確かに、事故の大失態は批判されるべきですが、過去の業績をすべて否定する必要はありません。GEPRの編集に関わる経済・環境ジャーナリストの石井孝明氏が、過去のエネルギー政策で評価する例を紹介します。
-
原子力発電でそれを行った場合に出る使用済み燃料の問題がある。燃料の調達(フロントエンドと呼ばれる)から最終処理・処分(バックエンド)までを連続して行うというのが核燃料サイクルの考えだ。
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前稿で科学とのつき合い方について論じたが、最近経験したことから、改めて考えさせられたことについて述べたい。 それは、ある市の委員会でのことだった。ある教授が「2050年カーボン
-
ウクライナ戦争の影響を受けて、米国でもエネルギー価格が高騰し、インフレが問題となっている。 ラムスセン・レポート社が発表した世論調査によると、米国の有権者は気候変動よりもエネルギーコストの上昇を懸念していることがわかった
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間