核燃料サイクル政策、続けるべき理由(下)
(上)より続く。
新法人にふさわしい人を探す
石川・認可法人には第三者による運営委員会を設けます。電力会社の拠出金額を決めるなど重要な意思決定に関与する。ほかの認可法人を見ると、そういった委員会の委員には弁護士や公認会計士が就くことが多い。しかし、再処理事業を実施する認可法人では、核燃料サイクルの意義に理解があり、かつ客観的に事業を評価できる人が入るべきだと思います。
津島・そういう視点は欠かせないでしょう。
澤田・核燃料サイクルは、エネルギーセキュリティーそのものなんです。再処理事業はその道を開くもので、将来は高速炉サイクルにしてプルトニウム社会をつくっていく。
プルトニウムを嫌う人がたくさんいます。しかしエネルギーセキュリティー、ひいては国家セキュリティーにかかわることです。ですから、これから日本が拠って立つべき道をしっかりと理解した人が認可法人にいなければならない。単に使用済み燃料を再処理するだけという貧相な考えの持ち主では駄目です。将来に向けて欠かせないエネルギーのひとつであることを、日本原燃の現場の人たちと共有して、推進していく人が決定権を持つようにしてほしい。
新妻・新しくつくられる認可法人は再処理事業の司令塔であり、日本のエネルギーセキュリティーの本丸になります。ですから、エネルギー政策全体のことを理解して、超長期を見渡してしっかりとした計画が立てられる体制にしなければなりません。ものすごく重要な役割を担うことになると思います。それだけに、慎重に人選をしなければなりません。
石川・単に技術的な専門性だけでなく、食料や資源の自給率や輸入依存度の低減、あるいは温暖化問題も含めて、ナショナルセキュリティーをきちんと理解した人がトップに就くべきですね。
澤田・もうひとつ見逃してはいけないのが、核燃料サイクルが日米交渉で勝ち取った技術であり、その中核のひとつが再処理技術だということです。プルトニウムはもちろん兵器にもできます。しかし、日本には非核三原則があり、核兵器は持たないことを決めている。そういう位置付けをしっかり認識して、日本の将来につなげていかなければいけない。
石川・今まで、そういった重要なことがあまり議論されてきませんでした。法案が国会に提出されたことで、与野党問わず国会の場でしっかり議論してもらいたいと思います。
自由化を踏まえて見直しも
石川・電力自由化で20年に発送電分離が行われる予定です。賛否両論がありますが、電力会社がこれまでとは違う形態となる。その枠組みの中で再処理事業を行っていくことを考えなければならない。すると、どうしても資金調達の点で事業の安定的な継続が心配されます。
政策はすべてが成功するわけではなく、必ずどこか矛盾をはらみながら進んでいきます。これは仕方がない。しかし、国会で実施を決めた電力自由化と再処理を同時に進めることには、危惧すべき点が多い。
さらに今、原子力施設は原子力規制委員会の新規制基準対応で、膨大な費用をかけて断層の調査や耐震・対津波対策などを行っています。六ケ所再処理工場も新規制基準対応で、これからいくら費用がかかるか分からない。再処理事業を進めている電力業界が、もう支えきれなくなる可能性も出てくるかもしれません。
津島・そこで認可法人の役割が問われてくると思うんです。再処理事業は国策ですから、しっかりと進めていかなければならない。一方で電力自由化を進めていくという。将来、原子力発電を電力会社から分離する議論も出てくるかもしれない。
石川・そうですね。
津島・すると、やはり電力会社が今後、どうなるかを注意深く見ていかなければなりません。そこで生きてくるのが、法案の付則第16条です。5年が経過した後に見直しを行うとしている。それで5年たったところで、それぞれの電力会社がどうなっているのかを見ながら、場合によっては電力自由化の在り方も見直さなければいけないと思っています。
新妻・同感です。5年だったらある程度、問題点も浮き彫りになっているでしょう。その時に見直しの検討は必要だと思います。
日米協定の改定に備えて
石川・18年に日米原子力協定の改定を迎えます。先ほど澤田さんが言われたように、再処理技術は交渉で日本が勝ち取った技術です。しかし、まだアメリカには核不拡散を重視して、日本に再処理をしてプルトニウムを分離させたくないと考えているグループがいます。
津島・18年度上期に確実に再処理工場を動かすことと、原子発電所の再稼働をセットで進めていくべきです。多くの発電所でプルサーマルを行うことで、まさにプルトニウムのリサイクルが進んでいることを世界に積極的に発信していきたいと考えています。
日本では、なぜ日本原燃が再処理事業を行ってきたのかというと、国ではなく民間企業が技術の蓄積をするためです。実用化までの過程では失敗がありましたが、その結果、世界に冠たる技術を確立できたことは疑いようがありません。これは日本の財産です。
澤田・その通りです。最終工程のガラス固化はなかなかうまくいきませんでしたが、失敗を糧にして新しい技術開発に取り組んで、国産技術にすることを着実に進めている。そんなことをマスコミは報道しませんが(笑)。
プルトニウムついては、アメリカから日本が余剰をかかえているという批判が出ています。六ケ所再処理工場がフル稼働すると、年間800トンの使用済み燃料を再処理しますが、約7トンのプルトニウムをつくります。すると、これを減らすにはプルサーマルを10基以上で行わないといけない。
津島・そうですね。10基以上必要になります。
澤田・ですから、少しでも早く多くの発電所でプルサーマルを行って、同時に18年度上期に六ケ所再処理工場を稼働する目標をもうずらしてはいけない。それに向けて国も電力会社も総力を上げていかなければいけない。
津島・青森県の人たちにとっては、地元企業として日本原燃はトヨタ並みの優良企業なんです。社員のうち地元出身者の割合も、もう6−7割に達しています。
漁船に例えると、日本原燃の社員はまだ実際の航海をしたことのない船出を待つ船頭なんです。何しても18年には出港させてあげたい。そうすると、さんざん世間からたたかれながらも使命感を持って「何としてもやり遂げる」と続けた思いが成就することがでる。
石川・18年がひとつのキーイヤーですね。あと2年と思うかもしれませんが、アッという間にきてしまいます。
常に目線は地元・青森におくべき
石川・福島第一原子力発電所の事故が起きて、東京電力は福島県に復興本社を置きました。福島県の人にとって、これはやはり意味のあることだと思います。日本原燃の本社は青森県にありますが、やはり認可法人も青森県に置くべきではないでしょうか。
津島・それはもう働きかけをしています。事業を行う日本原燃の本社が六ケ所村にあるのですから、認可法人も青森県に拠点を置くのは合理的であり、当然のことだと思います。
澤田・マスコミ報道の影響もあって、残念なことですが、再処理とかプルトニウムをつくるのは、何か悪いことのように思う人たちが多い。しかし、核燃料サイクルの重要性を理解して受け入れた地元の人たちにとっては、六ケ所村の施設は誇りなんですね。ですから、認可法人も目線は常に地元に向いていなければならない。青森県に拠点を置くのは当然でしょう。
新妻・澤田さんが言われる通り、地元の理解が何よりも大切だと思います。再処理の施設ではありませんが、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定も、地域社会に理解していただかないと進展しない話だと思っています。自治体や地元の皆さんに対して、政治家や行政が話し合いを重ねて、理解していただかないと、この事業はまったく進まない。
福島第一原子力発電所のような事故は、二度と起こしてはいけません。福島事故前のような雰囲気になってしまうことが、いくらしっかりした仕組みをつくってもあり得ます。だからこそ、歴史を繰り返さないために、われわれ政治家が襟を正して、政府にも電力会社にも言うべきことは言っていかなければなりません。
福島事故を経験した今こそ、政治家が国民の皆さんに原子力について理解していただけるようにきちんと説明していくことが大事だと思います。有権者やマスコミに受けが良いポーズをとることは簡単です。しかし、それは日本を駄目にしてしまう。あり得るリスクなど言いにくいことも含めて、分かりやすく丁寧に繰り返し説明していくことが、われわれの役割だと考えています。
澤田・若い政治家の皆さんの力強い声が、日本の未来を拓いていきますね。
石川・原子力政策では、これから政治の役割がますます大切になっていきます。与党だけでなく、野党の議員にも真摯な議論を期待したいと思います。
石川和男(いしかわ・かずお)1989年東大工学部卒、通商産業省(当時)入省。電気・ガス制度改革に携わる。現在はエネルギー、社会保障などの分野で政策提言を行っている。
澤田哲生(さわだ・てつお)1980年京大理学部卒。ドイツ・カールスルーエ研究所客員研究員などを経て91年から現職。専門は原子核工学、核融合システム安全など。博士(工学)。
津島淳(つしま・じゅん)1991年学習院大文学部卒。議員秘書を経て2012年衆議院議員(青森1区、当選2回)。東日本大震災復興特別委員会・原子力問題調査特別委員会などの委員。
新妻秀規(にいづま・ひでき)1995年東大大学院工学系研究科修士課程修了。2013年公明党参議院議員(比例区)。東日本大震災復興および原子力問題特別委員会などの委員。党文部科学部会長代理・環境副部会長。
(注)この文章はエネルギーフォーラム3月号掲載の座談会を、関係者のご厚意で転載させていただいた。感謝を申し上げる。
(2016年4月11日掲載)
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