使用済み核燃料政策、見直しの検証2-プルトニウム
核兵器の原料になる余分なプルトニウムを持たない。広島、長崎で核兵器の被害を受け、非核3原則のもと原子力の平和利用を進める日本は、こうした政策を掲げる。しかし原子力発電の再稼動が遅れ、それを消費して減らすことがなかなかできない。現状の取り組みを紹介する。
日本核武装の懸念?
「日本が保有する核物質は核弾頭1000発以上に相当する。安全保障と兵器拡散の観点から深刻なリスクを生んでいる」「日本の原発再稼働と使用済み核燃料再処理工場計画は事態を悪化させる」。中国の傅聡軍縮大使は昨年10月20日、国連総会第1委員会(軍縮)でこう演説した。
また4月1日までの2日間、米政府主導で核安全保障サミットがワシントンで行われた。核テロ、災害を防ぐ国際協力を約束した。事前に3月16日に米議会上院外交委員会に呼ばれたカントリーマン米国務次官補は、プルトニウムの不拡散の観点から日本や中国が進める核燃料再処理政策に対し「全ての国が再処理事業から撤退すれば非常に喜ばしい」と懸念を示した。
ただし、一週間後に、修正の会見を開き「日本は原子力エネルギーの民生利用の先駆者だ。この分野で日本以上に重要で緊密なパートナーはいない。日本は世界全体がわかるように透明性のあるやり方で進めてきた」と指摘し、今後、国際社会の懸念払拭に同盟国として協力していく考えを示した。(参考・読売新聞3月29日記事「日本の核燃政策「懸念ない」…米高官が発言修正」)
無資源国の日本は使用済み燃料を再処理する政策を採用してきたが、世界には日本のプルトニウムの核兵器への転用を懸念する声がある。もしくは外交的なゆさぶりのために、懸念したふりを中国は強調しているのかもしれない。また米国は、プルトニウムの不拡散を外交政策で重視している。
どのように処理するか
日本では1950年代の原子力発電の開始以来、累積で約2万5000トンの使用済み核燃料が発生した。そのうち約8000トンを海外への委託と国内施設での再処理を行っており、残り約1万7000トンが各原子力発電所と六ヶ所再処理工場の使用済燃料貯蔵プールに貯蔵されている。再処理の過程の中で分離されたプルトニウム約47トンを持ち、そのうち実際の核分裂を起こしやすい核分裂性のプルトニウムは約31トンとなる。
この回収されたプルトニウムは核兵器への転用が難しいとされるが、それを減らすことは国際公約となっている。また今後六ケ所再処理工場が稼働すれば最大年800トンの使用済み核燃料が処理される。これにより、年約4トンの核分裂性プルトニウムが発生する見込みだ。
日本は高速炉の開発を進めてきた。この種の炉では燃料でプルトニウムを使う予定だった。日本が開発したのは増殖炉という形で、発電過程でプルトニウムを増やすことも可能だ。またそれを使い切る形の高速炉もある。現時点で原型炉「もんじゅ」が長期停止して先行きが不透明になっており、高速炉の実用化は先延ばしになっている。しかし、将来はプルトニウムが発電のための資源に変わる可能性はあるが、2014年に策定されたエネルギー基本計画などでは、もんじゅによるプルトニウムの消費を想定していない。
プルトニウムを減らす方法はある。既存の軽水炉で、ウラン・プルトニウムの混合燃料であるMOX燃料を使う「プルサーマル発電」で減らされる予定だ。原子力事業者は、16−18基でプルサーマル発電を行い、核分裂性プルトニウムを年5.5トンから6.5トン利用する予定だが、福島第一原発事故の影響もあり計画が進んでいない。この中には、プルサーマル専用の原子炉である電源開発の大間原発(青森県)が年1.1トンを使う計画も含まれている。
これまでプルサーマル発電に関する国の設置許可、地元了解を得たのが9基。玄海、伊方、高浜、福島第一の各発電所で、原子炉1基ずつ合計4基でプルサーマル発電が行われていた。プルトニウムはゆっくり減るはずだった。
しかし福島事故の後で、原子力政策は混乱した。原子力規制委員会が13年に出した新規制基準の各原子炉の適合性審査も遅れ、建設中の大間原発の稼働時期も不透明になった。それでもプルサーマル発電を計画している原子炉のうち8基の申請がすでに行われた。そのうち高浜原発の3、4号機は今年1月に稼働したものの、大津地裁に起こされた訴訟で差し止め命令が出て止まってしまった。
プルサーマル発電の拡大を
日本は核不拡散の防止を担うIAEA(国際原子力機関)の包括査察を受け入れている。六ヶ所村にある日本原燃のウラン濃縮施設、そしてプルトニウムを回収する再処理施設を監視するために査察官が常駐している。いずれも核兵器の材料になるためだ。国際社会に対してその利用を公開している。
日本は1970年代に米国を始め各国との原子力協定で平和利用に徹することで、プルトニウムの利用と核燃サイクルを認められた。核兵器保有国以外で「プルトニウムを使える」というユニークな立場を持つ国は他にない。そして18年は、プルトニウムの平和利用を決めた重要な国際協定である日米原子力協定の更新となる。
プルトニウムを消費する計画と能力は日本にはある。世界から不必要な核開発の疑惑を抱かれないためにも、早急な原発の再稼動とプルサーマル発電の拡大によるプルトニウムの消費が必要だ。
原子力規制委員会により、新規制基準の適合性審査が遅れ、再稼動がなかなかできない状況にある。一行政機関が国全体を左右するおかしな状況だ。それを変えなければならない。
(注)この原稿は、エネルギーフォーラム3月号の特集「検証!電力自由化での再処理事業」を加筆修正した。転載を認めていただいた関係者に感謝を申し上げる。
(2016年4月4日掲載)
関連記事
-
8月11日に九州電力の川内原子力発電所が再稼働した。東日本大震災後に原子力発電所が順次停止してから4年ぶりの原子力発電所の再稼働である。時間がかかったとはいえ、我が国の原子力発電がようやく再生の道を歩き始めた。
-
アゴラ研究所の運営するインターネット放送の言論アリーナ。2月24日は「トイレなきマンション」を終わらせよう--使用済み核燃料を考える」を放送した。出演は澤田哲生氏(東京工業大学助教)、池田信夫氏(アゴラ研究所所長)の2人。ジャーナリストの石井孝明が司会を務めた。
-
スマートジャパン 3月3日記事。原子力発電によって生まれる高レベルの放射性廃棄物は数万年かけてリスクを低減させなくてならない。現在のところ地下300メートルよりも深い地層の中に閉じ込める方法が有力で、日本でも候補地の選定に向けた作業が進んでいる。要件と基準は固まってきたが、最終決定は20年以上も先になる。
-
はじめに ひところは世界の原発建設は日本がリードしていた。しかし、原発の事故後は雲行きがおかしい。米国、リトアニア、トルコで日本企業が手掛けていた原発が、いずれも中止や撤退になっているからだ。順調に進んでいると見られてい
-
小型モジュラー炉(Small Modular Reactor)は最近何かと人気が高い。とりわけ3•11つまり福島第一原子力発電所事故後の日本においては、一向に進まない新増設・リプレースのあたかも救世主のような扱いもされて
-
石炭火力発電の建設計画が次々に浮上している。電力自由化をにらみ、経済性にすぐれるこの発電に注目が集まる。一方で、大気汚染や温室効果ガスの排出という問題があり、環境省は抑制を目指す。政府の政策が整合的ではない。このままでは「建設バブルの発生と破裂」という、よくあるトラブルが発生しかねない。政策の明確化と事業者側の慎重な行動が必要になっている。
-
GEPRとアゴラでは、核燃料サイクル問題について有識者の見解を紹介した。そして「日本の核武装の阻止という意図が核燃料サイクル政策に織り込まれている」という新しい視点からの議論を示した。
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は映像コンテンツ「アゴラチャンネル」を放送している。5月17日には国際エネルギー機関(IEA)の前事務局長であった田中伸男氏を招き、池田信夫所長と「エネルギー政策、転換を今こそ--シェール革命が日本を救う?」をテーマにした対談を放送した。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間