エネルギー体制の整備が東アジア経済成長のエンジン-フィリピンの挑戦
(GEPR編集部より)フィリピンは経済成長が著しい。そして15年10月にAPEC(環太平洋経済協力会議)のエネルギー担当大臣会合が開かれた。取材を申し込んだところ、議長のフィリピンのモンサダ・エネルギー大臣の寄稿をいただいた。それを掲載する。
(以下本文)
過去10年間、東南アジア諸国は急速に、世界の主要な経済の成長エンジンの一つとなった。年成長率6%以上のアジアにおける「輝ける経済の星」に位置するフィリピンは、この地域における経済成長の中心となっている。現在はアジア地域の経済成長は減速しているが、フィリピン経済は世界的に見て今でも急速に成長している国の一つだ。
急速な経済成長を背景に、アジア地域のエネルギー消費量は劇的に上昇している。東南アジアのエネルギー需要は、過去25年間でほぼ倍増した。原油の輸入は、2040年に現時点から倍増すると予想されている。しかしエネルギーでは輸入に過度に依存していることによって、突然の供給の途絶や、エネルギー価格の変動に対して、この地域が脆弱になっている。したがって総合的なエネルギー安全保障戦略を実施する必要が強まっている。
エネルギー安全保障の課題に対処
かなりの程度まで、フィリピンは供給の安全保障を確保する対策を行ってきた。バランスの取れたエネルギーミックスと、再生可能エネルギーの開発と利用を適切に確保するものだ。
2012年には、フィリピンの一次エネルギー総消費量は、1.307兆BTU単位に達し、そのうち41%が原油、22%が石炭、19%がバイオマス、そして残りの18%が天然ガスやその他の再生可能エネルギー源から成り立っている。
国家再生可能エネルギープログラム(NREP)と2008年の再生可能エネルギー法からは導入された「フィード・イン・タリフ」(固定価格買取制度:FIT)が、再エネ事業者の参加者のビジネスを刺激し、そしてカーボンフットプリント(経済活動における炭素使用量)を減らすために実施されている。しかし、その実績以上のことを実行する必要が出ている。
「三つ又戦略」を実行
そのため、フィリピン政府は、こうした挑戦に対応するために、「効果的」「包括的」「持続可能」な「三つ又戦略」の実施を、果断に実行しようとしている。政府は、国産エネルギーの増加を、効率性を増しながら行う計画を立てている。それを再エネ比率の増加、そして低炭素化、さらに経済の加速的な発展を伴うことで成し遂げようとしている。
またアジア地域のエネルギーの共同開発を通して、インフラを強化することも最優先事項としている。フィリピン政府は、2001年の電力産業改革法の成立と共に、電力セクター改革を強化し、エネルギー分野に投資する民間開発事業者を支援してきた。また政府は、すべての主要な島を相互接続するために電力網整備の拡大を支援している。
この結果、2011年には16GW(ギガワット)だった国の発電能力が2030年に29GWへと劇的に増加することが予想されている。一連の政策はすべて、誰もが容易にアクセスでき、90%以上の家庭を電化する現代的な電力システムをつくるという国の目標を達成することを意図している。同時に政府は「エネルギー総合プログラム」と呼ばれる民間企業への支援を通じて、国内資源の石油、石炭探査の投資を促進している。
またフィリピンは、世界第二位の地熱発電の生産能力がある国であり、低炭素経済への移行への強い決意を国が示している。地熱を活用し、2030年までに、現在の3倍に当たる15GWの再エネの発電容量を目指している。また重要なエネルギーの効率的活用を促進するために政府が2030年までに保有するすべての公共車両の30%をがクリーンな代替燃料で運用する目標を設定した。
アジア・太平洋地域のため、フィリピンは2015年10月に第12回APECエネルギー大臣会合を開催した。そこでは、強く積極的で、相互に有益なエネルギー安全保障を確保すること、また弾力性、災害に耐久性の強いAPECエネルギーネットワークの構築に貢献することを約束した。
最後に、フィリピンは、APECで、「エネルギーの耐久性のためのタスクフォース」について米国と共に共同議長国になっている。APEC諸国の経済のための強く、持続的な成長のための、ハイレベルの議論を行い、その協力の道を開こうとしている。
すべての政策や取り組みが整えられれば、フィリピンの政策は、自国だけではなく、地域全体のエネルギー安全保障を確保するための努力を実効化していくものとなるだろう。
(2016年1月18日掲載)
関連記事
-
原子力規制委員会は本年(2016年)1月、国際原子力機関(IAEA)の総合的規制評価サービ ス(IRRS)を受けた。IRRSは各国の規制の質の向上を目指してIAEAがサービスとして実施しているもので、2006年から15年までに延べ70回実施されている。
-
これまでこのブログも含めて、さまざまな場で日本のエネルギー政策に対して私見を述べ続けてきた。積み重ねてきた提言すべてを読んでいただければ、筆者が描いていた一筋の細い道をご理解いただけるかもしれないが、それも難しいであろう。そのためここで改めて、筆者がどのような視点でその時々のテーマを選定し、提言を行ってきたかについて、全体像を整理してお伝えしたいと思う。
-
東電は叩かれてきた。昨年の福島第一原発事故以降、東電は「悪の権化」であるかのように叩かれてきた。旧来のメディアはもちろん、ネット上や地域地域の現場でも、叩かれてきた。
-
トヨタ自動車が、ようやく電気自動車(EV)に本腰を入れ始めた。今までも試作車はつくっており、技術は十分あるが、「トヨタ車として十分な品質が保証できない」という理由で消極的だった。それが今年の東京モーターショーでは次世代の
-
調達価格算定委員会で平成30年度以降の固定価格買取制度(FIT)の見直しに関する議論が始まった。今年は特に輸入材を利用したバイオマス発電に関する制度見直しが主要なテーマとなりそうだ。 議論のはじめにエネルギーミックスにお
-
日本は数多くの国と原子力協定を結んでいるが、そのうちで日米原子力協定は歴史も古く、かつ最も重要な協定である。日本の原子力開発は、黎明期から米国との協力を通じて進められ、日米協定はその枠組みを設けるものであった。
-
言論アリーナ「今度こそ日本版ライドシェアの時代は来るか?~電気自動車はどうなる~」を公開しました。 番組はこちらから。 日本の規制緩和で特に“岩盤”が厚いのが、ライドシェア。Uberの隆盛する海外に比べ大きく立ち遅れてい
-
IEA(国際エネルギー機関)が特別リポート「エネルギーと大気汚染」(Energy and Air Pollution)を6月発表した。その概要を訳出する。 [2016年6月27日] IEAのリポートによれば、エネルギー投
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間