原子力・エネルギーと報道を考える【シンポジウム報告4の2】
映像「原子力報道 メディアの責任を問う【アゴラ・シンポジウム】」。「4−1」より続く。
リベラル、思想の影響する原発問題
田原・政権はメディアに圧力を露骨にかけるということはほとんどない。もし報道をゆがめるとしたら、大半の問題は自己規制であると思う。そしてメディアは今、経営が厳しくなっているからネットに対抗しようとして、目立とうと主張が極端になっていく。先ほど述べたように、「何でも反対」に加え、そうした傾向が強まっている。それは気をつけた方がいい。
池田・原子力と報道をめぐる問題は、慰安婦の報道問題と似ている面があります。慰安婦問題の場合は、最初、慰安婦が強制連行されたと思ってみんな押しかけた。ところがそんな事実はなかったわけです。ネタが怪しいなといって、みんな引いたのですが、最初に報道した朝日新聞だけはずっと主張を続け、引っ込みがつかなくなった。原発事故でも、何かが起こると思って過激な報道が続きました。しかし、これだけ情報が明らかになっているのに、健康被害は見つからない。それなのに、今でもメディアは、福島は危険とする情報を発信し続け、原発をやめろと主張する。福島原発事故直後は誰も知らないから混乱は仕方がなかったでしょう。しかし、今続ける理由が分からない。
田原・日本で力が強かった「左派」や「リベラル」という政治グループが、原発に懐疑的であったのが、混乱の長引いた問題であると思う。思想で動かされている面がある。モーリーさんの指摘通り、安全保障と、エネルギーは結びついて政治の場で語られる。日本はそうではない。安全保障について語ると「保守反動」とレッテルを貼られることもあった。
池田・これは世界基準ではかなりおかしいですよね。
ロバートソン・かなり違います。日本のリベラルの人は、傍観をしているように思うのです。この日本の今の平和は奇跡的に保たれているのですがそれに気づいていない。自分たちの問題として、平和の維持、エネルギーの供給を考えていないのです。テロとの戦いで、米英のリベラルの立場の人は、テロ組織ISへの空爆に賛成しています。現実的であるのです。
他の言語を学び、メディアで接すれば、そして最低でも英語の情報を読めば、エネルギーで国際政治が動き、ドイツやフランス、英国など他国がエネルギーの安定供給に苦労していることを知るはずです。他国の視点で見れば、日本の膠着した議論から、脱するきっかけになるはずです。そして未来のリスクにも備えられるでしょう。
池田・これまでメディアの中心だった、新聞とテレビは若い世代が注目しなくなっていますね。
松本・東大の学生たちに聞くと、全員がネット情報と答えます。しかし、新聞を自分で取り、読んでいるという学生はほとんどいません。新聞は図書館でたまに読み比べるという学生が大半です。テレビは見ますが、親ほど見ないそうです。こうした力が弱っているということは、メディアを考える際に認識した方がよいでしょう。
池田・会場の皆さんからの質問を最後に聞いてみましょう。
(司会)事前にいただいた質問を読み上げます。「報道は、どの程度、政治や行政の現場影響しているのでしょうか」。
松本・政府、企業関係者は、報道にかなり配慮しています。社会との接点はメディアだからです。先ほど、メディアの報道の問題、低下を指摘しましたが、今でもその影響は大きなものと言えます。
ロバートソン・日本の企業も、政府も、メディアを気にしすぎているように思います。クレーマーや取材に対応しすぎでしょう。安倍首相も「独裁者だ」と日本国内で言われますが、そんなことはありません。他国のリーダーと比べると、物事を引っ張る強さが見られません。企業も政治家も、メディアや世論の力を、自分の想像の中で、大きくしすぎている面があります。おかしな報道には反論とか、クレームは打ち切るとか、そうしないとコストがかなり大きなものになっています。
池田・報道する方が、自分が影響力を持っていると感じていないことが多いのです。そして権力者を監視しないといけないと思い込んでいる。そこにゆがみが生じてしまうと思います。
(司会)「原子力発電の未来についてどのように考えますか」という質問がありました。
田原・原発については現時点で破棄ということはあり得ない。しかし、長いスパンで見ると、使用済み核燃料など、原子力の後始末の問題があり、将来性はあまりないと思う。またいろいろな問題が放置されている。そうしたものを、政治が片付けないと先に進めない。先ほど、浜岡原子力発電所の補強工事を見たと述べた。私も現時点では中部地方の経済のために浜岡原発は再稼動すべきであると思う。ただし、原子力は、解決しなければならない課題がたくさんあるので、それに向き合わなければならないだろう。
(司会)「中部電力浜岡原子力発電所はいつ、稼働するのでしょうか」という質問がありました。中部電力に申し込んだところ、その発電所を見学させていただきました。まだ稼働の予定は明確ではないですが、現在は補強工事が行われています。
ロバートソン・浜岡原子力発電所を見ました。22メートルの巨大な防潮堤、地震、災害対応 など、世界の原子力発電所の中で、類例がない厳重な工事に驚きました。もちろん、私は絶対安全であるとは言いませんが、浜岡の対策には「A+」の評点を与えてもいいと思います。
ただし見ていて、過敏に反応しているようにも思えました。アメリカなら、コストと効果を考え、工事よりも、万が一の事故対策、避難方法を考えるでしょう。福島事故を起こした東電に代わって中部電力が社会におわびしているように見えたのです。
これは社会全体の甘えに見えます。リスクが存在するのです。電力会社に責任をすべて負わせるのではなく、市民も行政もそれに向き合って、リスクを減らすことを考えるベきではないでしょうか。
松本・私も同じ感想を抱きました。中部電力の方は「世界で一番安全な原発にする」という熱意を持って、規制への対応に加え、上乗せをして安全性を高めていました。頭が下がります。しかし、そうして徹底した対策をしないと、日本の場合に、周辺住民、世論、メディア誰もが、納得しない面があります。安全対策を進め、理解を深める取り組みを進めることで、安全な原発を活用していただきたいと思います。
池田・浜岡原子力発電所は、法的根拠がないまま、2011年に当時の首相の菅直人氏の要請で決まりました。そこから原子力・エネルギー政策のボタンの掛け違いが始まりました。その後もさまざまな法律が明確になっていない。原子力規制委員会の行政活動によって、原発が停まり、原子力発電所の運用が混乱しています。もう事故から4年が経過しています。当時の混乱の中で出された政策を検証していくことが必要です。
(司会)最後に、メディアとの向き合い方についてコメントをください。
松本・メディアを信じないのも、また信じすぎるのも、今の世の中では適切ではないでしょう。繰り返されてきたようにメディア・リテラシー、つまりメディアの発する情報を分析する力を高めることしかないでしょう。その際には、田原さんが指摘したように「リアリティ」の有無が重要な判断のきっかけになるでしょう。共にそうした力を養っていければと思います。
ロバートソン・今、メディアの再編が世界中で起こって、弱体化しています。日本も新聞、テレビの影響は低下しています。必然的に、人目をひこうと、情報を扇動しがちです。は過激になりがちです。自覚しないと、そうした弱ったメディアの負のスパイラルに巻きこまれる危険があります。また物事を複数の視点から見ることは、ジャーナリズムの基礎です。そういう基礎体力を付けて、情報を正しいかを、複数の視点から見る習慣をつけるべきであると思います。
田原・これまで繰り返したように、メディアは偏向してしまうもの。リアリティを持った情報を、選び出してほしいです。
池田・きょう言われたことですが、私たちがリテラシーを持ち、エネルギー問題でも、それ以外でも、情報を検証することが今まで以上に必要になっていると思います。本日はありがとうございました。
(2015年12月14日掲載)
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