高速増殖炉「もんじゅ」、必要性は変わらない
【GEPR編集部より】
核燃料サイクル問題を考えるために、前回の河田東海夫(元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事の「混迷する核燃料サイクル問題を原点から考える」に加えて、その計画の要であるプルトニウムを使った発電計画「もんじゅ」について、計画にかかわった技術者に寄稿をいただきました。これは推進論ですが、違う立場の意見、投稿も募集します。GEPR担当者・石井まで。(ishii.takaaki1・gmail.com) メールは・を@に。
核燃サイクル、目標具体化の必要
日本政府は昨年4月にエネルギー基本計画を策定し、今年の7月に長期エネルギー需給見通しが策定された。原子力は重要なベースロード電源との位置付けであるが、原発依存度は可能な限り削減するとし、20%~22%とされている。核燃料サイクルについては、これまで通り核燃料サイクル政策の推進が挙げられており、六ケ所再処理工場の竣工、MOX燃料加工工場の建設、アメリカおよびフランス等との国際協力を進めながら高速炉等の研究開発に取り組むことが記載されている。
しかし東京電力福島第1原発事故の後遺症と電力システム改革による電力事業環境の難しさからか、軽水炉の再稼働、福島第一発電所の事故処理、軽水炉サイクルによるプルサーマルに主眼をおいた計画であり、エネルギー問題の根本的解決に向けた長期的視野には欠けた内容となっている。
日本のエネルギー確保の脆弱性、エネルギー安全保障の重要性を指摘しているのであるから、2018年7月の日米原子力協定期限も見定めた高速増殖炉サイクル(プルトニウムの平和利用)をどのように確立していくかの具体的計画を示さなければならなかった。
核燃料サイクルをめぐる厳しい環境
核燃料サイクルには、軽水炉サイクルと高速増殖炉サイクルがあるが、軽水炉サイクルではウラン資源の1%程度しか有効利用できないので、エネルギーの安全保障を安定的に確保するためには、1000年以上の長期に亘るウラン資源の有効利用が図れる高速増殖炉サイクルの確立が必要となる。
再処理技術と高速(増殖)炉技術が高速増殖炉サイクル確立のための両輪である。しかし示されたエネルギー基本計画では、高速炉開発の目的が、エネルギー問題の根本的解決策になりうる高速増殖炉サイクルの確立ではなく、放射性廃棄物の減容、有害度低減という、後ろ向きの目的(もちろん、これも重要な目的ではあるが)を掲げている。
電力システム改革と使用済み核燃料の費用負担の問題が不透明になり、また巨額な初期投資が必要となる原子力事業には困難さがある。軽水炉を使った既存の原子力事業は、電力安定供給、廃炉処理に向けた技術の確保、専門的人材の維持が課題となっている。そうした状況の中で2011年の福島事故以降、開発目標、ロードマップの見えなくなった高速炉においてはなおさら困難になっている。
「もんじゅ」の開発、設計に直接係った技術者のほとんどは既に60歳を超え、多くが現役を引退している。科学、技術は長期間停滞してしまうと、人は離れ、その技術のほとんどが失われてしまうものである。伊勢神宮は20年に1度、建物を移築する式年遷宮を行う。これは宗教的目的だけではなく、技術の継承の意図もあった。技術は使い続けなければ失われてしまうのだ。
「もんじゅ」はなぜ止まっているのか
「もんじゅ」が長期停止している理由は政治的な理由によるものだ。1994年に稼働をしたこのプラントは、96年に2次系ナトリウム漏洩事故を起こした。これが技術的には半年以内で復旧できたのに「ビデオ隠し」、「事故と事象」、「動燃職員の自殺」などで社会問題化、政治問題化してしまった。復旧には12年も掛かった。
現在、原子力規制委員会は、保全計画の不備などを理由に停止命令を「もんじゅ」に出している。長期停止期間中にも係らず、過剰な規制を適用しようとすることは、合理性を欠く。「もんじゅ」は技術的な問題で止まっているわけではない。これは日本以外の国ではあり得ないことである。この長期停止で失ったものは、この間の「もんじゅ」の維持費以上に、日本にとって貴重な高速炉技術であったことを、国も関係者も認識するべきだ。
「もんじゅ」は日本で唯一の高速増殖原型炉であり、発電も行える。高速増殖炉プラントとして全てのシステム、機器が揃っている。このため、「もんじゅ」を運転することにより、高速増殖炉の運転経験、発電実証、保守・点検、取替燃料の設計、製作という技術伝承、技術向上が図れ、今後の実証炉、実用炉開発に向けた貴重なデータ、経験が得られるのである。さらには、プルトニウムの有効利用(消費)、研究炉として実証炉、実用炉開発のための照射試験の実施、MA分離・変換技術の実証、革新的機器開発も行えるのである。
「もんじゅ」はこれまでに1兆円の経費をかけて、作られ、維持されてきた国民の財産である。その活用を、科学的、技術的理由ではなく、その時の政治的理由、あるいは、科学を無視した規制基準の運用を理由として止め続けることはあってはならない。
世界で進む高速炉研究
核燃料サイクルの確立に向けた高速(増殖)炉の開発は、ロシア、中国、インドが積極的に進めており、フランスも再び開発を進めている。
ロシア(カザフスタン含む)は実験炉(~BR10、BOR60)、原型炉(BN350、BN600、BN800)と順調に開発し、実証炉BN1200が開発中である。中国は実験炉CEFRが2010年に臨界となった。インドはトリウム燃料サイクルを目指し、実験炉FBTRは1985年に臨界しとなり、原型炉PFBRも運転間近である。
ロシアは資源大国ではあるが、エネルギーが戦略物質であることから高速炉の開発を続けている。中国、インドは人口が多く、エネルギー不足問題の根本的解決に向けて開発している。フランスもエネルギー資源がなく、これまでも原発立国として進んできたが、将来を見据えて、経済性を理由に中断していた高速炉開発に再び乗り出している。韓国も高速炉開発に向けた研究は継続している。国として確固たる意志で原子力政策を進めている国は、小さな失敗はあっても着実に開発は進んでいるのである。
核燃料サイクル、高速増殖炉の実用化、商業化までには多大な時間と費用が掛かる。それでも無資源国で工業立国としか生きられない日本は、この技術開発を成し遂げなければならないのであり、日本が停滞できる理由はまったくない。
「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故が社会的大問題になったことに端を発し、民間(電力会社)による高速増殖炉開発は2000年代前半に中断した。その後、2006年に国の主導で高速増殖炉開発体制が見直された。それまでの複数メーカーによる共同開発ではなく、責任体制を明確にするため、開発の中核となるメーカー1社(三菱重工など原子力メーカーの連合体)を公募により国が選定した。
1社となったためメーカーの開発リスクが大きくなる。この開発体制の見直しには、国による「ぶれない原子力政策、高速炉開発政策」が前提であったが、東日本大震災、福島第一発電所の事故で、この前提が崩れてしまった。福島原発事故があっても、日本が無資源国であり、工業を生業とするしか道のない国であることが変わるわけではなく、核燃料サイクルの確立が必要であることも変わっていない。
このことを考えれば、震災前の高速炉開発の原点に戻って、高速増殖実証炉開発のロードマップに従った目標のある着実な研究開発を、国が責任をもって実施することしか、この混迷から抜け出すための方策はない。
(2015年9月14日掲載)
関連記事
-
太陽光発電と風力発電をはじめとする自然変動電源に関しては、発電のタイミングを人為的にコントロールすることができないため、電力の需要と供給のタイミングが必ずしも一致しない。そのためしばしば送配電網の需給調整力の枠を超えた発
-
2015年2月3日に、福島県伊達市霊山町のりょうぜん里山がっこうにて、第2回地域シンポジウム「」を開催したのでこの詳細を報告する。その前に第2回地域シンポジウムに対して頂いた率直な意見の例である。『食べる楽しみや、郷土の食文化を失ってしまった地元民の悲しみや憤りは察してあまりある。しかし、その気持ちにつけこんで、わざわざシンポジウムで、子供に汚染食品を食べるように仕向ける意図は何なのか?』
-
北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
-
新規制基準の考え方を整理し、一般の人に解説したもの。ただし訴訟対策と、同規制委は認めている。
-
前代未聞の原発事故から二年半を過ぎて、福島の被災者が一番注意していることは仲間はずれにならないことだ。大半が知らない土地で仮の生活をしており、親しく付き合いのできる相手はまだ少ない。そのような状況では、連絡を取り合っている元の町内の人たちとのつながりは、なにより大切なものだ。家族や親戚以外にも従来交流してきた仲間とは、携帯電話やメールなどでよく連絡を取り合っている。仕事上の仲間も大切で、暇にしていると言うと、一緒に仕事をやらないかと声を掛けてくれる。
-
昨年10月に公開された東京電力社内のテレビ会議の模様を見た。福島第一原発免震重要棟緊急対策室本部と本店非常災害対策室とのやりとりを中心に、時々福島オフサイトセンターを含めたコミュニケーションの様子の所々を、5時間余り分ピックアップして、音声入りの動画を公開したものだ。また、その後11月末にも追加の画像公開がなされている。
-
2030年の電源構成(エネルギーミックス)について現時点で予断はできない。だが、どのようなミックスになるにせよ、ヒートポンプ・EVを初めとした電気利用技術は温暖化対策の一つとして有力である。さらに、2030年以降といった、より長い時間軸で考えると、電力の低炭素化は後戻りしないであろうから、電力化率(=最終エネルギーに占める電力の割合)の上昇はますます重要な手段となる。
-
原子力発電は「トイレの無いマンション」と言われている。核分裂で発生する放射性廃棄物の処分場所が決まっていないためだ。時間が経てば発生する放射線量が減衰するが、土壌と同じ放射線量まで減衰するには10万年という年月がかかる。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間