電力自由化で電気代は下がるのか

2015年07月27日 14:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

来年4月から電力の小売り自由化が始まる。世の中では自由化=善だと思い込んでいる向きもあるが、それが望ましいのは、価格が下がってサービスが改善され、消費者にメリットがある場合だ。一般論としては市場を競争的にすると価格は下がるが、電力のように規模の経済が大きい産業については一概にはいえない。

特に今回は既存の電力会社が原発を止めて大幅に発電単価が上がり、供給責任を一方的に負わされ、バックエンドの廃棄物コストをどう負担するのかというルールも決まらないまま、再エネに過大な補助をつけ、いわば電力会社の手をしばって新電力に殴らせる、きわめてゆがんだ自由化である。

自由化で業者が増えると燃料の調達コストが上がり、価格を自由化すると独占価格になって上がることもある。これまでの各国の自由化の実績をみても、次の図のように自由化後に電気代は上がる場合が多い(ATカーニー調べ)。

これは原油価格の上昇や税制の影響あるが、少なくとも自由化で劇的に電気料金が下がった国はない。逆にアメリカのように大停電が起こったケースがあり、少なくとも価格面からみる限り、自由化のメリットはそのコストに見合わない。日本のように大部分の燃料を輸入に依存している国では、規模の経済が失われる影響が大きい。

他方で、自由化によってイノベーションが促進される効果もある。長期的に考えると、新しい業者が参入して再生可能エネルギーの比重が高まることは望ましいが、現在のFIT(固定価格買取制度)は市場を大きくゆがめており、このまま自由化すると不公正競争が拡大するおそれが強い。ドイツのように、電気料金が2倍近くになるおそれもある。

もう一つの不確定要因は、原発がいつ正常化するか見通せないことだ。今年の初めには再稼動するといわれていた川内原発は8月にようやく始まるが、それ以外はまだ予定も立たない。2基動かすのに2年というペースでは、あと15年で15基がせいぜいだろう。その前に40年の期限が来る原子炉があるので、経産省のいう「20〜22%」という原子力比率は不可能だ。15%がせいぜいだろう。

コストという面から考えると、石炭のほうが建設コストは安いが、これも原子力の見通しがはっきりしないと建設計画が立たない。もし原子力が早期に正常化するのであれば、今の小規模なLNGでつなぐほうが安いが、廃炉になるなら大規模な石炭火力のほうがよい。こうした不確実性が大きいことが、電力会社の経営を不安定にし、コストを上昇させている。

今の状態では、電力会社の発電コストは通常より50%ぐらい高いので、新電力が参入すれば価格で優位に立つ可能性もあるが、これも原子力が正常化したらとても競争できない。したがって新規に発電所を建てることは(太陽光以外は)困難なので、電力会社からの卸売りでやるしかない。

そうすると——発送電が分離されるまでは——託送料(卸売り料金)で新電力の経営は大きく左右されるが、既存の電力会社より安く供給できる新電力は、自前で設備をもつエネットなどに限られるのではないか。

いずれにせよ、今のように全国の原発が法的根拠もなく止まっている状態を解決するか、少なくともそのスケジュールが明らかにならない限り、自由化によってかえって競争はゆがめられる。原子力規制委員会は経産省の所管ではないが、内閣が指導力を発揮して原子力を正常化することが最優先だ。自由化はその後でも遅くない。

(2015年7月27日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 米国でのシェールガス革命の影響は、意外な形で表れている。シェールガスを産出したことで同国の石炭価格が下落、欧州に米国産の安価な石炭が大量に輸出されたこと、また、経済の停滞や国連気候変動枠組み交渉の行き詰まりによってCO2排出権の取引価格が下落し、排出権購入費用を加えても石炭火力の価格競争力が増していることから、欧州諸国において石炭火力発電所の設備利用率が向上しているのだ。
  • 原油価格が1バレル=30ドル前後と直近の安値圏にある。一方で産油地域の中東が混迷を深めている。石油価格は今年どのように動き、そして世界経済にどのように影響を与えるのか。 エネルギーアナリストの岩瀬昇さんを招き、池田信夫さん(アゴラ研究所所長)と共に1月12日に放送した。司会はジャーナリストの石井孝明。以下は要旨。
  • 経済産業省が2月16日に「出力制御ガイドライン」の素案を公表しました。これは太陽光発電と風力発電という発電量を人為的にコントロールできない「自然変動電源」で発電された電気を、送配電網の安定のために出力制御する(=電気を買
  • 高浜3・4号機の再稼動差し止めを求める仮処分申請で、きのう福井地裁は差し止めを認める命令を出したが、関西電力はただちに不服申し立てを行なう方針を表明した。昨年12月の申し立てから1度も実質審理をしないで決定を出した樋口英明裁判官は、4月の異動で名古屋家裁に左遷されたので、即時抗告を担当するのは別の裁判官である。
  • はじめに リスクはどこまで低くなれば安心できるのだろうか。泊原子力発電所は福一事故後7年も経ったのにまだ止まったままだ。再稼働できない理由のひとつは基準地震動の大きさが決っていないことだという。今行われている審査ではホモ
  • アゴラ研究所は12月8日にシンポジウム「第2回アゴラ・シンポジウム --「持続可能なエネルギー戦略を考える」を開催する。(内容と申し込みはこちら)視聴はインターネット放送などで同時公開の予定だ。
  • 今月の14日から15日にかけて、青森県六ヶ所村の再処理施設などを見学し、関係者の話を聞いた。大筋は今までと同じで、GEPRで元NUMO(原子力発電環境整備機構)の河田東海夫氏も書いているように「高速増殖炉の実用化する見通しはない」「再処理のコストは直接処分より約1円/kWh高い」「そのメリットは廃棄物の体積を小さくする」ということだ。
  • 7月1日、日本でもとうとう再生可能エネルギー全量固定価格買い取り制度(Feed in Tariff)がスタートした。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑