電力自由化で電気代は下がるのか
来年4月から電力の小売り自由化が始まる。世の中では自由化=善だと思い込んでいる向きもあるが、それが望ましいのは、価格が下がってサービスが改善され、消費者にメリットがある場合だ。一般論としては市場を競争的にすると価格は下がるが、電力のように規模の経済が大きい産業については一概にはいえない。
特に今回は既存の電力会社が原発を止めて大幅に発電単価が上がり、供給責任を一方的に負わされ、バックエンドの廃棄物コストをどう負担するのかというルールも決まらないまま、再エネに過大な補助をつけ、いわば電力会社の手をしばって新電力に殴らせる、きわめてゆがんだ自由化である。
自由化で業者が増えると燃料の調達コストが上がり、価格を自由化すると独占価格になって上がることもある。これまでの各国の自由化の実績をみても、次の図のように自由化後に電気代は上がる場合が多い(ATカーニー調べ)。
これは原油価格の上昇や税制の影響あるが、少なくとも自由化で劇的に電気料金が下がった国はない。逆にアメリカのように大停電が起こったケースがあり、少なくとも価格面からみる限り、自由化のメリットはそのコストに見合わない。日本のように大部分の燃料を輸入に依存している国では、規模の経済が失われる影響が大きい。
他方で、自由化によってイノベーションが促進される効果もある。長期的に考えると、新しい業者が参入して再生可能エネルギーの比重が高まることは望ましいが、現在のFIT(固定価格買取制度)は市場を大きくゆがめており、このまま自由化すると不公正競争が拡大するおそれが強い。ドイツのように、電気料金が2倍近くになるおそれもある。
もう一つの不確定要因は、原発がいつ正常化するか見通せないことだ。今年の初めには再稼動するといわれていた川内原発は8月にようやく始まるが、それ以外はまだ予定も立たない。2基動かすのに2年というペースでは、あと15年で15基がせいぜいだろう。その前に40年の期限が来る原子炉があるので、経産省のいう「20〜22%」という原子力比率は不可能だ。15%がせいぜいだろう。
コストという面から考えると、石炭のほうが建設コストは安いが、これも原子力の見通しがはっきりしないと建設計画が立たない。もし原子力が早期に正常化するのであれば、今の小規模なLNGでつなぐほうが安いが、廃炉になるなら大規模な石炭火力のほうがよい。こうした不確実性が大きいことが、電力会社の経営を不安定にし、コストを上昇させている。
今の状態では、電力会社の発電コストは通常より50%ぐらい高いので、新電力が参入すれば価格で優位に立つ可能性もあるが、これも原子力が正常化したらとても競争できない。したがって新規に発電所を建てることは(太陽光以外は)困難なので、電力会社からの卸売りでやるしかない。
そうすると——発送電が分離されるまでは——託送料(卸売り料金)で新電力の経営は大きく左右されるが、既存の電力会社より安く供給できる新電力は、自前で設備をもつエネットなどに限られるのではないか。
いずれにせよ、今のように全国の原発が法的根拠もなく止まっている状態を解決するか、少なくともそのスケジュールが明らかにならない限り、自由化によってかえって競争はゆがめられる。原子力規制委員会は経産省の所管ではないが、内閣が指導力を発揮して原子力を正常化することが最優先だ。自由化はその後でも遅くない。
(2015年7月27日掲載)
関連記事
-
原子力規制、日本のおかしさ 日本の原子力規制には多くの問題がある。福島原発事故を受けて、原子力の推進と規制を同一省庁で行うべきではないとの従来からの指摘を実現し、公取委と同様な独立性の高い原子力規制委員会を創設した。それに踏み切ったことは、評価すべきである。しかし、原子力規制委員会設置法を成立させた民主党政権は、脱原発の政策を打ち出し、それに沿って、委員の選任、運営の仕組みなど大きな問題を抱えたまま、制度を発足させてしまった。
-
パリ協定は産業革命以降の温度上昇を1.5度~2度以内に抑えることを目的とし、今世紀後半のできるだけ早い時期に世界全体でネットゼロエミッションを目指すとしている。 ところが昨年10月にIPCCの1.5度特別報告書が出され、
-
今月の14日から15日にかけて、青森県六ヶ所村の再処理施設などを見学し、関係者の話を聞いた。大筋は今までと同じで、GEPRで元NUMO(原子力発電環境整備機構)の河田東海夫氏も書いているように「高速増殖炉の実用化する見通しはない」「再処理のコストは直接処分より約1円/kWh高い」「そのメリットは廃棄物の体積を小さくする」ということだ。
-
関西電力をめぐる事件の最大の謎は、問題の森山栄治元助役に関電の経営陣が頭が上がらなかったのはなぜかということだ。彼が高浜町役場を定年退職したのは1987年。それから30年たっても、金品を拒否できないというのは異常である。
-
近年、日本は安部首相を先頭にして、世界各国に原子力発電プラントを売り込んでおり、いくつか成功をしている。原子力発電の輸出は、そもそも新興国の電力を安価に安定に供給し、生活を豊かにし、貧困から来る紛争や戦争を防ぎ、輸出国、輸入国双方の国富を増大させる。
-
電力料金が円安と原発の停止の影響で福島原発事故の後で上昇した。自由化されている産業向け電力料金では2011年から総じて3-4割アップとなった。安い電力料金、安定供給を求める人も多く、企業は電力料金の上昇に苦しんでいるのに、そうした声は目立たない。情報の流通がおかしな状況だ。
-
政府は停止中の大飯原発3号機、4号機の再稼動を6月16日に決めた。しかし再稼動をしても、エネルギーと原発をめぐる解決しなければならない問題は山積している。
-
6月27日記事。米カリフォルニアのディアプロ・キャニオン原発の閉鎖で、再エネ、省エネによって代替する計画を企業側が立てている。それを歓迎する記事。原題は「Good News From Diablo Canyon」。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間