太陽光発電の環境破壊を見る(下)-無策の地方自治体
「(上)山梨県北杜市を例に」から続く
「太陽光発電」は環境にやさしくなかった
山梨県北杜市の環境破壊の状況は異常で、もう取り返しがつかなくなっている。
現場を見て、次の問題が浮かび上がる。
第一の論点として、「環境にやさしい」という良いイメージで語られる太陽光が、一部地域では景観と住環境を破壊しているという問題がある。そして規制が条例レベルでも、国レベルでも適切ではない。
第二の論点として、再エネと太陽光の拡大が社会混乱を一部で生んでいる問題がある。地域社会で一部の人を不幸にし、社会的にある有形、無形の資産価値を損ねている。そして地域住民の対立まで生んでいる。
もちろん再エネの振興はさまざまなメリットがある。しかし一度切り倒したら再生まで時間のかかる森林をつぶしてまで、太陽光発電を増やす必要はあるのだろうか。
第三の論点として、エネルギー政策全体からみて、太陽光発電の振興は意味があるかという問題がある。エネルギー政策の目標は、国民が豊かな生活を送るために、「安い」「安定的な」エネルギーを利用できること。その結果としてそれを実行する産業が発展し、社会に利益を還元することだ。
ところが北杜市の現場を見れば分かるとおり、再エネ振興策で利益を得るのは少数の人のみだ。そして一部と信じたいが、その中にはエネルギーというインフラ事業を担う責任感もなく、公共性も顧みない悪質な事業者も参加している。彼らを優遇する社会的意義はないだろう。
この再エネへの過剰な振興策は、東日本大震災と福島原発事故の混乱の中で決まった。民主党政権の政治主導で、優遇が膨らんでいった。そして一部の「環境派」文化人が強力にこの支援策を支持した。孫正義氏のように、文化人の顔をしながら、同時にそれで利益を得ようとするしたたかな人もいた。前出の「写真15」で、菅直人氏と孫氏、さらにそうした文化人の姿を示したが、彼らは再エネの失敗の責任は取らない。問題に対して、何も動かない。
北杜市で、再エネの抑制を市民団体側は各メディアに連絡したが反応はほとんどなかった。問題の顕在化は3年前からであるにもかかわらずだ。地元メディアは、利害対立があるためにわざとさわらなかったようだ。中央のメディアは、反原発に凝り固まるところが多く、(それは誤りだが)原発の代替策と再エネを思い込み、その拡大を推奨した。その自分の報道と矛盾してしまうために報道しないのだろう。
そこには冷静な政策のメリット、デメリットの分析がなかった。私たちは民主主義社会における政策について、一時の感情にとらわれることの危険を、北杜市の環境破壊の写真から考えるべきであろう。
地方自治体の能力差が、環境保護に現れる
太陽光による景観破壊は、全国で発生している。住民の景観・自然保護運動がしっかりしている神奈川県鎌倉市や長野県軽井沢町などでは、こうした太陽光の乱開発の問題が起こっていると聞いたことがない。町の特徴、そして行政能力の差が、問題を発生させた面がある。
山梨県そして北杜市は他地域からの移住、別荘の購入の勧誘をしている。そして「オオムラサキ」の保護をPRし、自然の豊かさを強調している。ところが移住者や別荘の住人が、FIT施行以降の太陽光発電の乱開発と自治体の無策について、「行政による詐欺行為だ」と怒っているという。当然とも言える。行政の行動が国から自治体までちぐはぐだ。
定年後、山が好きで、この地域に移り住んだ男性は「毎日、チェーンソーの音がしないかびくびくしている」と話した。別荘の向かい側にメガソーラーをつくられてしまった男性は「予想もしていなかった。別荘の価値は下がったし、毎日不快だ」と怒る。こうした住人が「太陽光発電を考える市民ネットワーク」をつくり、15年に活動を開始した。
驚くことに、山梨県も北杜市は市内の太陽光発電の全体像を把握していない。経産省がFITで認定したのは14年末までに4311件。ところが、「上」で示した50kW以下の「小分け」をした太陽光発電所が多い。同市の発電は10−50kWの規模が4225件。しかし実数で、どの程度あるか不明だ。小分けをまとめたメガソーラーがあるためだ。
太陽光発電の実態調査はこの市民団体が自発的に初めて行った。集計したところ、推計で130件の発電所が現在動いており、そして計画で1000件以上があるという。まだまだ開発が続くのだ。認定した太陽光発電が全部稼働した場合に、面積で推計すると500ヘクタール以上となり、東京ドーム(建物まで入れて4.7ヘクタール)100個分以上になる可能性がある。
ここまで乱開発が放置されたのは、北杜市特有の事情があるようだ。山梨県は日照が多く、北杜市は特に北の山の南麓の山地であるために特によいという。そして冬も寒いが雪は降らず、日照はよい。ところが、そうした絶好の場所であるのに太陽光を規制する条例制定は放置された。市が動ける都市計画法などの規制は市の全域が区域外だ。また日本の自治体は「景観法」に基づき、風景維持の条例での規制がかけられるが、北杜市の条例では森林保全の詳細な対策はない。市に悪意はないだろうが、田舎の地方自治体の行政によくある「善意の愚者」なのであろう。
そして日本の地方特有の問題がある。「平成の大合併」で北杜市は7町村が合わさり2004年に発足。ところが乱開発は市北部に集中しており、町議会は一体になって動こうとする気配がない。一方で太陽光によって、地元の土建業者やは潤い、農地や遊休地を貸したり売ったりする人も利益を得る。こうした状況で、規制はかけづらいのだろう。市は拘束力のない太陽光開発の「要綱」を14年9月に決め、事業者に自制を求めた。しかし筆者の見た森林伐採の限りではまったく効果はないようで、乱開発は進行している。
問題は、FITの施行直後の12年ごろから懸念されたのに、町議会などで審議が行われるようになったのは最近だ。ようやく市は太陽光の関連要綱の見直しの検討などをはじめるという。あまりにも遅すぎる。
日本の地方にありがちだが、ここにも新旧住民の間で問題対応への温度差がある。旧住民は、地縁と血縁で結ばれている。そして山梨県の風土として、「物を言う」人が少ないそうだ。規制をかけようと声をあげたのは、移住者、そして別荘の所有者という、新規住民だった。旧住民は、署名や名前を出すことに消極的という。
このネットワークのメンバーは「私たちは太陽光発電に反対ではありません。建築物や工作物をめぐる規制をかけ、無制限の開発を止めてほしい」と言っている。正論であろう。
再エネ振興と景観保護の両立のために
こうした現状を考えると、国レベル、県・自治体のレベルそれぞれのルール作りが早急に必要だ。筆者は自由な経済活動を賛美する立場だが、北杜市の酷い環境破壊を見ると、太陽光の規制はやむを得ないと思う。
国レベルでは、太陽光事業では、家庭で行う屋根などは除いた上で、50kW以下の設備を電気事業法と建築基準法で、早急に規制に行い、ルール化をするべきである。北杜市で見たように、各発電事業者は、自分の名前さえパネル設置場所に公示していない。
そして事業ルールでは、自然保護に配慮をするべきである。ドイツでは木を切って再エネ事業を行う場合に、その分の植林を行うなどの義務を課している。日本でも再エネ事業者は、環境、景観保護の法規と関連づけるべきであろう。
国は今後、再エネ事業者を登録制から認可制に変える意向を示している。北杜市の乱開発をする悪質事業者を見れば、それを排除するために、それを早急に行うべきであろう。また認可の認定を、国から分権して地方の県に移管してもいい。把握しやすくなるためだ。
また既存の発電設備に対しても、常識の範囲でバックフィット(遡及適用)を求めることが望ましい。あまりにも危険で、人命などを損ないかねない工事も数多くあったからだ。
さらに大規模メガソーラーは、日照や送電網の関係から適地がある。それを行う場所の指定も行うべきであろう。このままでは、日本全国が太陽光だらけになってしまう。
地方自治体レベルでも、やるべきことはたくさんある。地域ごとに、景観や自然、そして住民や経済構造が異なる。住民、ステークホルダー参加の条例案をつくり、そのルールの維持のために、恒常的な会議をしなければならない。
そして問題は結局、地域住民の意向次第だ。日本のナショナルトラスト運動(住民主体の地域自然保護運動)を取材したことがある。(日本ナショナルトラスト協会HP)日本各地で成功例があるが、それは役所任せではなく、住民主体で保護運動を行ったことで、自然と開発の調和が保たれている。住民が立ち上がらなければ、地域の住環境は守れない。
残念ながら、写真に示したように「口だけ」の人が再エネ振興を叫び、愚かな政治家がそれに踊った。そしてその失敗を、その人たちは責任をとらず放置している。最近の日本では同じようなことが繰り返されているが、この連鎖は再エネでは止めなければならない。このままでは再エネの振興のためにもならず、再エネによる環境破壊は全国に広がってしまう。再エネにも悪いイメージがつき、その振興にはマイナスになる。
再エネの振興、そして環境の保全を両立させる早急なルール作りが今すぐ必要だ。
(2015年7月6日掲載)
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