福島原発事故、放射能の恐怖は幻想だった
「福島は危険?その情報はハリウッド製か」
第1回「放射線の正しい知識を普及する研究会」(SAMRAI、有馬朗人大会会長)が3月24日に衆議院議員会館で行われ、傍聴する機会があった。
福島原発事故の影響を考える会合だ。日本からは札幌医科大学の高田純教授(放射線防護学)、海外からは、「正しい放射線情報のための科学者の会」の主要メンバーで、英オックスフォード大学のウェード・アリソン名誉教授(物理学)が講演した。
昨年末に来日した際、アリソン教授は、日本外国特派員協会で会見を行った。その時、英国の記者が、福島での放射能汚染の危険性について言及すると、アリソン教授は「君はその情報をどこで入手したのだ? ハリウッドか?」と、品のいいジョークで切り返した。現在の福島と日本で危険はないと断言した。
また米国フォックス・チャイス・がんセンターの医学物理士モハン・ドス博士は講演で、次のように述べた。「私は日本の皆さんの決定に干渉する立場にありませんが、今、福島で何も健康被害は起こっておらず、これから起こると専門家は誰も言っていないのに、なぜ過重な放射線防護対策を変えないのでしょうか」。
筆者は、この質問に答えられない。なぜなら筆者も理由が分からないからだ。
海外の視点を参考に
日本政府は、現在は放射線量が高い場所を「避難指示区域」としている。区域の設定では「年間被ばく線量が20ミリシーベルト(mSv)」という値が基準だ。しかし、その後に始めた除染の目標を「1mSv」と、下げ過ぎたために除染が進まない。ちなみに、1mSvに科学的根拠も、法的根拠もない。
福島原発事故は事故を起こした東電・政府の失敗が繰り返し指摘される。しかし起こった「その後」の今の現在進行形の失敗は、誰も大きく取り上げない。
広範囲の避難指示区域は必要ない。福島の広大な地域がゴーストタウンになる必要などない。そもそも、福島原発事故の放射能で死亡した人は、今もって、ただの1人もいない。これからもいないだろう。避難生活のストレスや、危険とする情報汚染が、1884人(14年3月1日時点)とされる、福島の震災関連死に影響していることは間違いない。
当初、原発事故に対応した民主党政権は、追加被曝線量「年間1ミリシーベルト以下」という目標のもと、巨額の経費と多大な時間と労力をかけて放射能汚染地区の除染を進めた。だが、IAEA(国際原子力機関)は「必ずしも達成する必要はない」としている。
福島原発では、「放射線ゼロ」を目指して、過重な対策をしている。IAEAなどは汚染水についても「放射性物質を除去し、放射線量について安全基準値を下回るものは、海への放出を検討すべきだ」と提案している。
福島では、県民のさまざまな健康診断が行われ、地元紙には毎日、放射線の測定値が掲載される。そこまで気にする必要はあるのか。チェルノブイリで救援活動を行った米国の血液医のロバート・ゲイル博士は12年夏、取材した筆者に、「放射線の監視はある程度必要ですが、日常生活に戻って大丈夫です。過剰な情報は社会を傷つけるでしょう」と語っていた。その懸念通りになった。
状況を突き放してみることができる海外の有識者は、日本の福島事故後の対策を、そろって遠回しに「おかしい」と指摘している。
幽霊の正体見たり枯れ尾花
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と川柳に言う。残念ながら、一部の人たちは実態のない「枯れ尾花」に踊らされたようだ。それは「レイディオフォビア」(Radiophobia放射線恐怖症)(アリソン氏)が影響し、日本社会のさまざまな未熟さが影響したのだろう。「日本人として恥ずかしい」という私の感想に、アリソン氏は「どの社会にもある。西欧社会にもあり、原子力の適切な活用を妨げている」と、なぐさめてくれた。
2011年夏から、筆者は福島事故の影響について、「心配はないので騒ぐな」と、機会あるごとに同じ主張を繰り返している。その通りになった。しかし「私は正しかった」と自慢する感想も、勝利の感覚も皆無だ。日本が停滞・混乱したことを悲しく思っているし、4年経過した今でも無駄な混乱があることはむなしい。
騒いだ人を責めるつもりはない。しかし「ばかばかしい」と総括できる、放射能パニックはそろそろやめにして、あり得ない恐怖を笑い飛ばすことをしなければならないだろう。これから混乱が続くならば、私たちの今を生きる日本人は、世界の人々から、そして後世の日本人から「愚か」と、笑われる段階に来ている。
理性と前向きで明るい心で、自然体で生きればいいだけだ。東日本大震災と原発事故の苦難を乗り越えつつある福島と東北と日本に、それらがあふれていることは、既に証明されている。
(2015年4月13日掲載)
関連記事
-
海洋放出を前面に押す小委員会報告と政府の苦悩 原発事故から9年目を迎える。廃炉事業の安全・円滑な遂行の大きな妨害要因である処理水問題の早期解決の重要性は、国際原子力機関(IAEA)の現地調査団などにより早くから指摘されて
-
バックフィットさせた原子力発電所は安全なのか 原子力発電所の安全対策は規制基準で決められている。当然だが、確率論ではなく決定論である。福一事故後、日本は2012年に原子力安全規制の法律を全面的に改正し、バックフィット法制
-
環境団体による石炭火力攻撃が続いている。昨年のCOP22では日本が国内に石炭火力新設計画を有し、途上国にクリーンコールテクノロジーを輸出していることを理由に国際環境NGOが「化石賞」を出した。これを受けて山本環境大臣は「
-
福島の1ミリシーベルトの除染問題について、アゴラ研究所フェローの石井孝明の論考です。出だしを間違えたゆえに、福島の復興はまったく進みません。今になっては難しいものの、その見直しを訴えています。以前書いた原稿を大幅に加筆しました。
-
1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原子力発電所原子炉の事故は、原子力発電産業においてこれまで起きた中でもっとも深刻な事故であった。原子炉は事故により破壊され、大気中に相当量の放射性物質が放出された。事故によって数週間のうちに、30名の作業員が死亡し、100人以上が放射線傷害による被害を受けた。事故を受けて当時のソ連政府は、1986年に原子炉近辺地域に住むおよそ11万5000人を、1986年以降にはベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナの国民およそ22万人を避難させ、その後に移住させた。この事故は、人々の生活に深刻な社会的心理的混乱を与え、当該地域全体に非常に大きな経済的損失を与えた事故であった。上にあげた3カ国の広い範囲が放射性物質により汚染され、チェルノブイリから放出された放射性核種は北半球全ての国で観測された。
-
チェルノブイリの現状は、福島の放射能問題の克服を考えなければならない私たちにとってさまざまな気づきをもたらす。石川氏は不思議がった。「東さんの語る事実がまったく日本に伝わっていない。悲惨とか危険という情報ばかり。報道に問題があるのではないか」。
-
福島第一原発事故による放射線被害はなく、被災者は帰宅を始めている。史上最大級の地震に直撃された事故が大惨事にならなかったのは幸いだが、この結果を喜んでいない人々がいる。事故の直後に「何万人も死ぬ」とか「3000万人が避難しろ」などと騒いだマスコミだ。
-
2022年11月7日、東京都は「現在の沿岸防潮堤を最大で1.4 m嵩上げする」という計画案を公表した。地球温暖化に伴う海面上昇による浸水防護が主な目的であるとされ、メディアでは「全国初の地球温暖化を想定した防潮堤かさ上げ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間