福島産の食物を食べる4・子どもへの影響は
全4回
その1・地域の食文化
その2・山間地でシンポ開催
その3・地域の人々の思い
10・食品による健康被害の心配はない
次に、司会者から大人が放射線のリスクを理解すると子どもへのリスクがないがしろになるのが心配であるとの説明があり、子どものリスクをどう考えれば良いのかを白血病や小児がんを専門とする小児科医の浦島医師のビデオメッセージの用意があることを示した。
浦島医師は、まずチェルノブイリ原発事故の事例を紹介した。事故後、わずかに甲状腺がんは増えたものの、ガンになった子どもたちは20年以上経っても99.99%甲状腺がんで亡くなった人はいない事、甲状腺がんはとても治り易いがんであり、その他のがんについては、白血病も増えていないと指摘した。甲状腺がんは放射性ヨウ素が原因であり、今問題となっているのは放射性セシウムなので甲状腺がんの心配はいらないとした。
そして、子どもと大人の放射線リスクを比較する場合、単純に大きさで比較は出来ない事に言及し、子どもの方がリスクが高い事を示した。結果、米国大統領の言葉を引用しつつ、Codexの世界基準値(1,000Bq/kg)10分の1(100Bq/kg)を子どもの摂取の目安とするべきで安全も確保でるだろうと結論付けた。さらに、家の中で引きこもって食べたいものを食べていないでストレスを抱える事は、情緒的な発達に影響があるとした。最後に、みなさんへのお願いとして、一家団欒で笑い声がある食卓で同じ食事して欲しいと付け加えた。
次に、会場へ赤青カードで3つの質問が示された。
1.地元の特産品を食べていますか。
2.(リスクがあるとしても)地元の特産品を食べたいですか。
3.地元の特産品を測って食べていますか。
1と2は青が多数であったが赤を示した方もおられた。青と赤の両方を示した方もおられた。3は8割が青となり、会場からは何も気にしないで好きに食べていると言う意見が出た。
この会場の意思を受けて、博多歯科医師より地元を支える医療従事者としての発言があった。福島の農家は真面目で勤勉であるため、限りなく0ベクレルに近づけるような作物を作ろうと努力している。また、独自にアンケートを取り、田村市民は安心して山菜なども汚染が低レベルであることを確認した後は測定もほとんどしていないで食べていると指摘。 さらに、損失余命のようなマイナスではなく加算余命などの言葉にして常に笑うことが大切でポジティブに見て行くべきだとした。
また、東電福島第一原発事故直後、横浜に4日間ほど自主避難されたことに触れ、医療従事者として恥ずかしいことをしてしまったと吐露され、帰って来てからは地域のために何ができるのか、死ぬ覚悟でこの地に住むことを決意したと話された。最も言いたい事として、近隣の存在が心を安定させストレスを軽減してくれることを実感し、コミュニティの重要さを思い知らされたと話された。
博多歯科医師のお話が終わると会場からは温かみのある拍手が起こり、被災地における医師や専門家はどうあるべきかという次のシンポジウムに繋がるご意見ではないかと司会者から発言があった。
以上の発言から、司会者は、放射線から自分たちを守ると言う立ち位置を発展させたものとして、自分たちの生活や人生を取り戻すべきではないかという提案が登壇者から会場へ投げかけられ、会場からは以前の生活を取り戻すべきだというキャッチボールがあったというまとめの発言があった。
次に、司会者よりCodex(世界保健機関(WHO)による基準)などの世界の基準値が示され、摂取制限値の議論をするにあたり、子どもの健康を一番に考える母親の気持ちも大切にするべきだという考えをどうすべきだろうと会場に問いかけつつ「目安としての摂取制限値には安全を確保して、安全に食べられるメリットがあると思いますか?」という質問が出された。
11・地域へのさまざまな波紋をどうとらえるか
会場からは、摂取制限値があっても結局は受け入れる人と受け入れられない人はそのままではないか。摂取制限値を決めてもそれが独り歩きするのではないか。安全安心を確保するならば福島県だけが測定せず全国でも測定すべきで、全国で測定するなら摂取制限があっても良い。摂取制限値があれば、周りの雰囲気で食べられなかった人が食べられる切っ掛けになるのではないか。というご意見があった。
次いで、「食卓に並ぶことで子供が食べてしまう?」の質問に対し、いわき市から参加された情報処理の専門家で東電福島第一原発事故以降、測定を正しく丁寧に続ける事で地元のお母さんたちを支えている方からのご意見は、売っている食品も測定して放射性セシウムが検出しないと確認できて安心を得ている。
まだまだ恐怖心が消えていない。γ線だけでなくβ線も測定するべきだと言う意見もある以上、摂取制限値の目安としての1,000Bq/kgは受け入れる事は困難だと思うと示され、むしろ、1,000Bq/kgと言う濃度ではなく、総量の提案は出来ないのかとのご質問が登壇者へ出され、「おとな1,000Bq/kg、子ども100Bq/kgで良いのか?」の議論へ移った。
この質問にはドブジンスキ氏より、生物学的に総量での管理は、実際的はないとの見解が示され、越智医師より補足説明として、例え話として血液を3リットルを一度 に抜くのと少量ずつ抜くときの人体への影響を考えるとやはり総量での管理は無理があるだろうと示された。この示唆に対し、会場から高濃度の汚染による被ばくが想定できない現状があるのだから、WBC(ホールボディーカウンター)を活用する意味でも、きちんと測定して管理すれば総量規制も可能ではないかとの提案が出された。
これに赤青カードで確認を取ると8割が青カードを示す中、赤カードを示した方より、一年に数度しか食べないものは自己責任で食べて良いと思う。けれども、おとなが1,000Bq/kgで子どもが100Bq/kgと言う摂取制限数値を導入するという飛躍することに判断はできないというご発言があった。また、他の方より、そもそも子どもは山菜などを好んで食べないので、一律に決めないで、流通しているものと野生のものは分けて考えるべきだろうとのご発言があった。
司会者より、現在の摂取制限はイノシシやキノコの対象市町村を見ると汚染レベルとは全く整合性はなく、現状が考慮されないまま制限されている※7との推察が述べられた。
(注・ 原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等:平成27年2月20日現在)
(食品中の放射性物質への対応)
この摂取制限を取り下げてもらい、自己責任としてWBCを活用して自己管理すべきかという司会者から会場への問いには、青カードだけが確認された。(全員が挙げてはいない)
次いで、「この基準による 補償への影響はどうか。周囲に悪影響を与えたら申し訳ない」 の問いがあった。 出荷制限の農作物は、作付出来ないので補償を受けているし、東電福島第一事故前の価格で売れないものは風評被害として補償を受けているのでイニハナご飯を食べたからと言って補償への影響はない。
考え過ぎ、むしろイノシシは増え過ぎているのだから食べた方が良いという意見も出された。これに対して、司会者から、捕獲したイノシシが焼却処分にされていることに、ハンターのみなさんから食べて供養するというマタギの精神に反する行為だと言う意見があった。
シンポジウムの最後にこれまでの議論を踏まえて、司会者から「摂取制限を取り下げてもらうことを提案する(食品安全委員会に提出)」について、赤青カードで意見を求めたところ、青だけが挙がりこれを着地点とした。(会場全員が青カードを挙げてはいない)
ⅱ)結論
出荷制限値は厳守する前提で、「摂取制限を取り下げてもらうこと(制限解除)を提案する(食品安全委員会に提出)」を会場に集まったみなさんの総意とした。
12 ・地域シンポジウムを終えて
交通の便の悪いところで開催ではあったが、写真1を見ても、40名以上の参加者があり伊達市以外にも福島県各地から参加して頂けた。また、大手新聞社3社(日経・毎日・朝日)、地元新聞社2社(福島民友、福島民報)、著名雑誌社、地元ケーブルテレビ局1社、ネット動画配信、とメディア関係者にも参加いただいた。翌日には地元新聞社が朝刊に大きな記事として取り上げて貰い、多くの福島県民へ情報提供を実現できた。
また、これまでの多くのシンポジウムに見られるようなパネリストが一方的に情報発信をする形や会場から罵声が飛ぶような雰囲気とはならずに、会場に集まった全員が赤青カードを使って議論に参加し活気あるシンポジウムが出来た。
特質すべきは、登壇者からの情報提供の時間より傍聴席とパネリストの議論のキャッチボールの時間が長く行うことが出来た。 よって有意義な対話があったと言える。このことは、シンポジウム中に参加者が登壇した専門家の意見を理解できた証拠であり、自分たちの意思を専門家へ伝えることに積極的だったように見受けられた。
このことが今回のシンポジウムの最大の成果と言えるだろう。このようなコンパクトで地道で、さらにローカルな場所での地域シンポジウムの積み重ねが福島県民に復興の意思に繋がるのだろうと考えている。
ただし、途中から赤青カードを挙げない人が出ているのにも関わらず、決を採らざるを得ない状況に追い込まれた司会者は、今後の赤青カードの使い方を含めてシンポジウムの進め方に改善の余地があるように思えた。会場の空気に流されないで違和感を表明できるように配慮することも重要だと考える。それぞれ気遣いつつもコミュニケーションできることを目指したい。
このシンポジウムの開催に当たり、りょうぜん里山がっこうの高野ご夫妻をはじめとするスタッフのみなさんには多大なご協力をいただき感謝いたします。ありがとうございました。その一方でご迷惑・ご心配をかけてしまった方々にお詫び申し上げます。
半谷輝己(はんがい てるみ)BENTON SCHOOL校長、地域メディエーター。福島県双葉町生まれ、現在は田村市に在住。塾経営をしながら、2012年からは伊達市の放射能健康相談員として、 市の学校を中心に220回の講話、130回を超える窓口相談(避難勧奨区域の家庭訪問)を実施。13年度より、福島県内の保育所からの求めに応じて講演を 実施。日本大学生産工学部工業化学科卒、同大学院工学修士。半井紅太郎の筆名で『ベントン先生のチョコボール』(朝日新聞出版)を発表している。
(2015年3月16日掲載)
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筆者は1960年代後半に大学院(機械工学専攻)を卒業し、重工業メーカーで約30年間にわたり原子力発電所の設計、開発、保守に携わってきた。2004年に第一線を退いてから原子力技術者OBの団体であるエネルギー問題に発言する会(通称:エネルギー会)に入会し、次世代層への技術伝承・人材育成、政策提言、マスコミ報道へ意見、雑誌などへ投稿、シンポジウムの開催など行なってきた。
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