ピントはずれる拡大中のエネルギー予算案--なぜ再エネに?
経済産業省は1月14日、資源・エネルギー関係予算案を公表した。2015年度(平成27年度)当初予算案は15年度7965億円と前年度当初予算比で8.8%の大幅減となる。しかし14年度補正予算案は3284億円と、13年度の965億円から大幅増とし、総額では増加となる。安倍政権のアベノミクスによる積極的な財政運営を背景に、総額での予算拡大は認められる方向だ。
エネルギー基本計画が14年度に決まりその実現のために積極的な政策措置を講ずることに加え、14年前半期の原油価格の高止まりと円安傾向により石油石炭税の税収増加が見込まれることを反映した。再エネ・省エネ分野での積極的な予算要求が目立つ。
しかし今のエネルギーの最大の問題は、原発の停止だ。そしてそれによる悪影響、電力会社の経営危機、電気料金の上昇、そして安定供給への不安、14年度で3兆円以上とされる原発停止による化石燃料の増加だ。そうした根本問題に手をつけることはなく、経産省・資源エネルギー庁は自分たちの職分の拡大に取り組む。これはピントが外れた政策と言える。
再エネ、省エネシフトの予算
経産省・資源エネルギー庁はエネルギーコストの上昇や資源の供給不安に日本経済が直面していること、そして昨年4月決定の「第4次エネルギー基本計画」の実現を目指すことを今回の予算案の目的にしている。そして、省エネ・新エネの促進、ガス・石油開発の供給源の多角化、また省エネ・技術開発支援によるエネルギービジネスの拡大をうたった。
今回の予算案で注目されるのは補正予算案で2130億円、当初予算で1459億円の要求のある省エネ・再エネ対策だ。以下の予算はいずれも前年並みを確保した。
経産省は省エネの徹底推進をテーマにして補正予算案で1610億円、当初予算案で1288億円を計上。事業計画では与党自民党の重要な票田である中小企業の省エネ投資の支援を行うとする。また水素の充填施設、家庭の燃料電池研究に補正予算案で318億円、当初予算案で119億円を計上した。
さらに安倍政権が最重要の政策課題に掲げる「地方創生」に関連するため「地産地消型のエネルギーネットワーク」に補正予算案で203億円、当初予算案で36億円を計上した。エネルギーマネジメントシステムの導入支援などだ。
昨年と同程度の再生可能エネルギーの導入支援を実施。当初予算案では洋上風力で73億円(前年予算額49億円)、地熱では80億円(同65億円)と大幅増になっている。
さらに石油・天然ガスでは、探査・権益の確保のための拠出支援で、当初予算案では485億円、補正予算案では98億円を要求し、前年度471億円を大きく上回る。シェールガス、LNGの世界的な大増産の動きを取り入れている。
また電源立地地域対策交付金は当初予算案では986億円から912億円に減額。ただし、福島に、新たに「福島特定原子力施設地域振興交付金」という名目で92億円を、当初予算案で要求。福島原発事故で除染や片付けのために出る、放射性廃棄物の中間貯蔵施設の場所の選定が急がれている。この解決のために現地自治体に与えるものだ。
建前の影に見られる省益拡大の本音
しかし、膨大な予算案は、裏の意図は聞かなければ分からない。
新エネでは、水素シフトが目立った。FITによる太陽光、風力などの支援が一巡したことから新しいエネルギーの開発にも手を出したいのだろう。実は、税制の問題があるという。石油関係の諸税収入は、特別会計の中に入り、不透明さがある。そして備蓄事業は90年代初頭に整備が一巡したために、税収は余り気味だ。さらに2013年から14年前半期まで、円安と原油価格の高止まりのために、さらに余裕ができてしまった。
石油業界関係者によると、石油業界から税の引き下げ要請が強まった。それを和らげるために、石油業界が主導する水素への補助金を増やしたという。水素の精製では石油からつくる手法に注目し、世界各国で水素開発は石油業界が主導している。有力の経産省出身のOBや議員が動いて自民党などにも働きかけた。これが予算案での水素シフトの背景にあるという。そして電気自動車の支援策を所管する経産省の自動車部門と、エネ庁は別個に動いている。
こうした政治圧力、省益の判断で予算が組まれることは、民主主義国で当然起こることだ。しかし再エネへの支援がFIT制度を通じて14年に補助金1兆円に膨れあがる見込みだ。それに加えて、水素も一緒に支援を増やすのは、合理的な選択ではない。限られた資金は選択と集中を考えるべきだ。
福島の予算についても92億円は各自治体が自由に使える「ばらまき」だ。放射性廃棄物の中間貯蔵施設の建設の環境省の所管する1mSv除染によって、膨大な土や堆積物の放射性廃棄物ゴミが出た。その中間貯蔵施設が必要になっている。しかし、研究者などによると、こうした土などは、地中に埋めれば、放射性物質が拡散する可能性はない。チェルノブイリでもそうしたが、地下水の大規模の汚染はなかった。日本国内でも畑村洋太郎東大名誉教授などが提案し、産総研などが調査をしている。しかし、そうした手間と金をかからぬ方法を役人は選ばない。地元を説得しない。
手間のかかる原発再稼働問題も、経産省は放置したままだ。原子力規制委員会に、新規制基準の適合性審査をしているが遅れに遅れている。しかし同委員会が審査を混乱させ、再稼働を長引かせているという政策の失敗の是正に動かない。同省・エネ庁は、電力業界が混乱しているさなか、民主党政権時代に電力自由化を決定し、その道筋を決めてしまった。原発停止に手を打たないのは、電力業界を弱らせ、自由化を経産省・エネ庁主導で進めたいためかと、(そうではないと信じたいが)勘ぐりたくなる。
事情を知って裏を読むと、残念ながら今回の予算案はおかしな内容だ。責任を放棄して問題に対応せず、アベノミクスによる財政規律が緩まったことをいいことに、経産省は省益拡大を行う。最大の問題の原発の再稼働、福島の早期復興のための無駄な除染の中止という合理的な対応をしていない。原発の長期停止を前提にして、その負担を和らげる方策が予算に盛り込まれているように見える。
もちろんそれは同省だけに責任を負わせることは酷だ。政治・議会による監視、調整が必要だ。しかし反原発、再エネの過剰支援を求める意見が根強く、政治はそれに制約を受けてしまう。このままでいいのだろうか。疑問を抱く予算案の内容だ。
(ジャーナリスト 石井孝明)
(2015年2月2日掲載)

関連記事
-
自民党は「2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減する」という政府の目標を了承したが、どうやってこの目標を実現するのかは不明だ。経産省は原子力の比率を20~22%にする一方、再生可能エネルギーを22~24%にするというエネルギーミックスの骨子案を出したが、今のままではそんな比率は不可能である。
-
原子力規制委員会による新規制基準の適合性審査に合格して、九州電力の川内原発が再稼動した。この審査のために原発ゼロ状態が続いていた。その状態から脱したが、エネルギー・原子力政策の混乱は続いている。さらに新規制基準に基づく再稼動で、原発の安全性が確実に高まったとは言えない。
-
国際エネルギー機関(IEA)は11月12日、2013年の「世界のエネルギー展望」(World Energy Outlook 2013)見通しを発表した。その内容を紹介する。
-
河野太郎氏の出馬会見はまるで中身がなかったが、きょうのテレビ番組で彼は「巨額の費用がかかる核燃料サイクル政策はきちんと止めるべきだ」と指摘し、「そろそろ核のゴミをどうするか、テーブルに載せて議論しなければいけない」と強調
-
新潟県知事選挙では、原発再稼動が最大の争点になっているが、原発の運転を許可する権限は知事にはない。こういう問題をNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ぶ。公共的に必要な施設でも「うちの裏庭にはつくるな」
-
東京都、中小の脱炭素で排出枠購入支援 取引しやすく 東京都が中小企業の脱炭素化支援を強化する。削減努力を超える温暖化ガスをカーボンクレジット(排出枠)購入により相殺できるように、3月にも中小企業が使いやすい取引システムを
-
現在ある技術レベルでは限りなく不可能に近いだろう。「タイムマシン」があれば別だが、夏の気温の推移、工場の稼動などで決まる未来の電力の需要が正確に分からないためだ。暑く、湿度が高い日本の夏を、大半の人はエアコンなく過ごせないだろう。そのために夏にピークがくる。特に、8月中旬の夏の高校野球のシーズンは暑く、人々がテレビを見て、冷房をつけるために、ピークになりやすい。
-
以前から、日本政府が10月31日に提示した「2035年にCO2を60%削減という目標」に言及してきたが、今回はその政府資料を見てみよう。 正式名称はやたらと長い:中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間