電力会社の原子力事業が再編される? -日本原電、東西分社化検討をめぐり
1月17日付日経朝刊に、日本原子力発電株式会社の東西分社化検討の記事が載っていました。
日本原電、東西で分社検討 運転・廃炉請負で経営再建
原電分社、官主導には慎重論 原発事業再編へ思惑も
同社は、日本が原子力発電に乗り出した1950年代に電力各社の出資によって設立されたパイオニア企業で、茨城県東海村と福井県敦賀市に原子力発電所を持っており、他の電力会社に電気を卸しています。
ただ、敦賀発電所については、1号基は廃炉に向かい、2号基は破砕帯問題で停止したまま、さらに東海第二発電所の原子炉も40年運転制限に近づいてきていることから、経営環境が厳しくなってきていました。
この記事は、同社が東西を分社化して経営効率を高めるとともに、他社からの廃炉や運転を受託するといった対策を検討しているとし、直接的には同社の経営再建案を扱っています。ただ、その関連記事にあるように、この動きは日本全体の原子力事業再編に繋がるものとの捉え方をしています。
この記事が指摘するように、日本の原子力事業は岐路に立っています。
福島第一原子力発電所の事故によって厳しくなった安全規制、電力システム改革によって激減した事業環境(特にファイナンス面)、不透明な核燃料サイクル政策の今後などの要因によって、原子力事業の将来の不確実性やリスクが大きくなっています。
現在、こうした諸課題について、政府の総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で熱心な検討が進められており、昨年末には論点の中間整理が発表されました。(エネ庁中間整理)
私自身も、原子力事業の将来について、一昨年11月と昨年11月に二つの政策提言を21世紀政策研究所から発表しています。
21世紀政策研究所より
<提言>「原子力事業環境・体制整備に向けて」
<提言>「核燃料サイクル政策改革に向けて」
日本の原子力政策がどうなっていくのか、原子力発電や核燃料サイクルを担う主体やコスト・リスクの分担はどう変わっていくのかなどについて、ご関心はある方はこれらの報告書類をご覧下さい。少し専門家向けに書いているので、難解な部分もあるかもしれませんが、ほぼ原子力政策の論点は網羅しています。
また、これらの報告書で扱われていない安全規制問題については、昨年8月に、やはり21世紀政策研究所から以下の提言を発表していますので、それも併せてご覧頂ければ幸いです。
<提言>「原子力安全規制の最適化に向けて-炉規制法改正を視野に-」
原子力事業について、既設の炉を再稼働させていくまでは、現状の9電力会社がそれぞれの地域で取り組んでいくことになるでしょう。しかし、今後エネルギーミックスが議論される中で、将来とも一定規模の原子力比率の維持が政策的に決定されるならば、事情は変わる可能性があります。
人材や技術の維持、更新投資や安全対策投資などの面、さらには核燃料サイクルのバックエンドについてのリスクやコストなどを考慮に入れれば、原子力事業を担う主体は、経営資源を集約しつつ効率的・効果的に活用することができるような体制をめざすことが必要になるでしょう。
こうした原子力事業の将来像にはいろいろなオプションがあります。炉型や技術、地理的近接性、企業規模、メーカーや協力企業との関係などさまざまな要素を踏まえて、種々の選択肢が検討されていくものと推測しています。
その意味で、この日経の関連記事の方の見方もあながち間違ってはいないと思います。ただ、それが「政府の意向」という捉え方は一面的でしょう。
電力システム改革が進む中で法的分離も間近となり、単に原子力の問題にとどまらず火力など他の発電部門についての他社とのアライアンス、ガス事業等他のエネルギー分野への進出、小売部門での競争の激化など、電力全体の事業環境が大きく変わるなかで、これまでの大手電力会社は、自らの経営戦略を根本から見直す必要に迫られています。
激動の事業環境変化の中で、電力会社は原子力事業も自らの意思と戦略で再構築していくことが重要であり、実際、そうした検討を進めている会社も増えてきています。
こうした状況の中で、原子力事業環境の再整備や体制の変更を行っていくうえで忘れてはならない3つのポイントは次の通りです。
1)原子力事業の大規模性、長期性、(稼働率等の)不確実性に即した適切な投資環境(ファイナンス)整備
2)廃炉や使用済み核燃料処理処分等バックエンドについて実行責任の明確化とその財務的裏付けの確保
3)安全規制関連の認可事項に係る法律関係の整理
さらに言うまでもないことですが、特に事業主体の変更や合併など事業実施体制の変更がありうる場合には、立地自治体との歴史的な関係性への配慮が極めて重要になってきます。
日本原子力発電の経営の将来は、日本全体の原子力事業のあり方全体がどうなっていくのかを占うものになると考える人がいるかもしれません。ただ、事はそれほど簡単ではないことも事実です。
というのも、原子力事業全体をどうするかは、バックエンドを含む核燃料サイクル政策や賠償のあり方や安全規制法体系にまで踏み込んで大きな方針を決めなければならないからです。
今回の日経記事は、「虚」ではないと思いますが、「実」全体を表したものではない、という評価でしょう。
(2015年1月26日掲載)
関連記事
-
9月の下北半島訪問では、青森県六ヶ所村にある日本原燃の施設も訪問した。日本原燃は1992年に電力会社の出資で設立された。天然ウランを濃縮して原子力発電用の燃料をつくる。
-
改めて原子力損害賠償制度の目的に立ち返り、被害者の救済を十分に図りつつ原子力事業にまつわるリスクや不確実性を軽減し、事業を継続していくために必要な制度改革の論点について3つのカテゴリーに整理して抽出する。
-
こちらの記事で、日本政府が企業・自治体・国民を巻き込んだ「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を展開しており、仮にこれがほとんどの企業に浸透した場合、企業が国民に執拗に「脱炭素」に向けた行動変容を促し、米国
-
前回、非鉄金属産業の苦境について書いたが、今回は肥料産業について。 欧州ではエネルギー価格の暴騰で、窒素肥料の生産が7割も激減して3割になった。 過去、世界中で作物の生産性は上がり続けてきた。これはひとえに技術進歩のお陰
-
細川護煕元総理が脱原発を第一の政策に掲げ、先に「即時原発ゼロ」を主張した小泉純一郎元総理の応援を受け、東京都知事選に立候補を表明した。誠に奇異な感じを受けたのは筆者だけではないだろう。心ある国民の多くが、何かおかしいと感じている筈である。とはいえ、この選挙では二人の元総理が絡むために、国民が原子力を考える際に、影響は大きいと言わざるを得ない。
-
自然エネルギーの利用は進めるべきであり、そのための研究開発も当然重要である。しかし、国民に誤解を与えるような過度な期待は厳に慎むべきである。一つは設備容量の増大についての見通しである。現在、先進国では固定価格買取制度(FIT)と云う自然エネルギー推進法とも云える法律が制定され、民間の力を利用して自然エネルギーの設備増強を進めている。
-
「もんじゅ」以降まったく不透明なまま 2016年12月に原子力に関する関係閣僚会議で、高速原型炉「もんじゅ」の廃止が決定された。それ以来、日本の高速炉開発はきわめて不透明なまま今に至っている。 この関係閣僚会議の決定では
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間