被災地から考える放射性物質の「ババ抜き」
難航する汚染土壌の置き場探し
このたび、福島県が原発事故による汚染土壌のための中間貯蔵施設建設をようやく受け入れることになった。栃木県など周辺の県では汚染された土壌の処理場探しが難航している。さらに大きな問題は各地の原発に溜まっている使用済燃料の置き場や高レベル放射性廃棄物の処分場だ。各地の原発の使用済燃料や海外から返還されたガラス固化体を預かっている青森県は、50年という期限付きの保管にこだわっている。福島県は汚染土壌の県内中間貯蔵に30年の期限をつけ、その法制化を要求している。
各電力会社が建設し、あるいは建設を目指している発電所構内の使用済み燃料乾式貯蔵施設についても、地元自治体は核燃料税の対象とすることなどを条件に認めるところが多いと思うが、「どうぞいつまでも」とは言わないだろう。最終処分ともなれば、どこの地域でも抵抗が大きい。トランプのババ抜きのカードのように、誰もが持ちたくないのが核のゴミだ。
落語の枕に使う話で、昔の人がゴミなどの迷惑なものをどのように扱っていたかが、ユーモラスに描かれているものがある。ゴミが出ると長屋のまわりに適当な大きさの穴を掘って埋めていたのだが、そこが一杯になったので、穴を掘ったところ、また大量の土が出てしまい、これをどう処分すればよいかを長屋の皆で集まって相談していたがなかなか決まらない。そこに通りがかりの男が首をつっこんで、「そりゃ簡単だ。もう一つ大きな穴を掘ってそこに埋めればいいんだ」と言ったので誰もが「なるほど」と納得したという話だ。それでは次々と穴を掘らねばならないが、当面の解決になっていて、これを続けている間は、破局にいたらずに済む。
なんとも人を馬鹿にした話だが、口うるさい長屋の連中が納得したというところがこの話のおかしいところだ。トランプのババ抜きも、ゲームオーバーまでは、誰かがババを持っていて、それがプレイヤーの間を行き来しているので、ゲームが続いている限りは誰が最後にババを持つことになるかはわからないので不安はあるが絶望的にはならない。
利益の期待と拒絶感が交錯—「輪番制」の提案
国は青森県にも福島県にも放射性廃棄物の最終処分地にはしないと、約束をしたが、落語に似た発想だ。何万年も放射線を出すゴミをずっと埋められてしまうという悲壮感あふれる話とはせず、何十年か経ったら別のところに次の穴を掘りますということの方が心理的負担ははるかに少ない。これを繰り返していくという継続性だけを確実なものにすればよい。
ただし、移設費用はかなり掛かる。フランスでは埋めた後、完全に入口を封鎖せずに、消滅処理技術が進歩した時に備えて、放射性廃棄物をいつでも取り出せるようにする考えが示された。これも心理的負担を少なくする工夫だ。
幸い、普通のゴミは埋まっている間に土に帰っていくし、核のゴミの放射能は年とともに減衰していくので、次の穴はより見つけやすくなるだろう。
使用済燃料や廃棄物の保管施設が、原発に比べて雇用は少ないが安全性については、より安心なものだということが、六ヶ所村やむつ市では理解され始めている。三沢空港から乗ったタクシーの運転手が本気で「全部六ヶ所に持って来てもらえればいい」と話しかけてきたし、テレビ番組では土建業を営む村会議員がインタビューに「期限が来たら、あと200年延長したらいい」と答えていた。この村議は実体験による保管の安全性と地元に落ちる金を考え、輪番制拒否のようだ。事故によりばらまかれた放射性廃棄物は他県や双葉郡以外に分散せずに、交付金なりを条件に、どうせ帰れない第一原発周辺に持って来たらどうかという意見を双葉郡からの避難者などから時々聞くことがある。
最終処分などと大上段に構えるのはやめて、50年後に次の穴を掘る場所は全国輪番制にする法律をつくる。決まらねば順番はくじ引きにする。早い番号のものほど地元への迷惑料を大きくすると、早く受け入れたいというところも出てくるかもしれない。そうなれば、輪番制は最初の入口だけになり、そのままさらに次の50年も預かるとなるかもしれない。そうすれば、不要になった移設費用を地元に対する迷惑料に上乗せしてあげれば良い。
原発導入が始まってから今まで、反対派に「トイレなきマンション」と言われながら、国も電力会社もこの問題を先送りしてきたが、ここで究極の先送り方式を真剣に検討してみてはどうだろうか。
北村 俊郎(きたむら・としろう)67年、慶應義塾大学経済学部卒業後、日本原子力発電株式会社に入社。本社と東海発電所、敦賀発電所、福井事務所などの現場を交互に勤めあげ、理事社長室長、直営化推進プロジェクト・チームリーダーなどを歴任。主に労働安全、社員教育、地域対応、人事管理、直営工事などに携わった。原子力発電所の安全管理や人材育成について、数多くの現場経験にもとづく報告を国内やIAEA、ICONEなどで行う。近著に『原発推進者の無念―避難所生活で考え直したこと』(平凡社新書)。
(2014年9月8日掲載)
関連記事
-
先月政府のDX推進会議で経産省は革新的新型炉の開発・建設を打ち出したが、早くもそれを受けた形で民間からかなり現実味を帯びた具体的計画が公表された。 やはり関電か 先に私は本コラムで、経産省主導で開発・建設が謳われる革新的
-
NHK 7月28日記事。現地調査を行った原子力規制委員会の田中委員長は、安全確保に向けた現場の姿勢を評価したうえで、今後、経営陣の考えなどを確認し、合格させるかどうか判断する考えを示しました
-
少し旧聞となるが、事故から4年目を迎えるこの3月11日に、原子力規制庁において、田中俊一原子力規制委員会委員長の訓示が行われた。
-
先週、3年半ぶりに福島第一原発を視察した。以前、視察したときは、まだ膨大な地下水を処理するのに精一杯で、作業員もピリピリした感じだったが、今回はほとんどの作業員が防護服をつけないで作業しており、雰囲気も明るくなっていた。
-
4月4日のGEPRに「もんじゅ再稼働、安全性の検証が必要」という記事が掲載されている。ナトリウム冷却炉の危険性が強調されている。筆者は機械技術屋であり、ナトリウム冷却炉の安全性についての考え方について筆者の主張を述べてみる。
-
福島第一原子力発電所事故以来、国のエネルギー政策上の原子力の位置づけは大きく揺らいできた。政府・経産省は7月に2030年度の最適電源構成における原子力比率を20~22%とすることをようやく決定したが、核燃料サイクル問題については依然混迷状態が続いている。以下、この問題を原点に立ち返って考えて見る。
-
福島では、未だに故郷を追われた16万人の人々が、不自由と不安のうちに出口の見えない避難生活を強いられている。首都圏では、毎週金曜日に官邸前で再稼働反対のデモが続けられている。そして、原子力規制庁が発足したが、規制委員会委員長は、委員会は再稼働の判断をしないと断言している。それはおかしいのではないか。
-
チェルノブイリ事故によって、ソ連政府の決定で、ウクライナでは周辺住民の強制移住が行われた。旧ソ連体制では土地はほぼ国有で、政府の権限は強かった。退去命令は反発があっても、比較的素早く行われた。また原発周囲はもともと広大な空き地で、住民も少なかった。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間