エネルギー危機を起こすな(要旨)【言論アリーナ】
(原子力規制委の審査迅速化を支援へ-自民議連【言論アリーナ】(本記))
【原発再稼動をめぐる政府・与党の情勢】
池田 本日は細田健一衆議院議員に出演いただきました。原発への反感が強く、政治的に難しいエネルギー・原子力問題について、政治家の立場から語っていただきます。経産官僚出身であり、東電の柏崎刈羽原発の地元である新潟2区選出。また電力安定推進議員連盟の事務局次長です。
ブルームバーグが8月初めに出した4-6月期のGDP予測です。年率換算で10%程度の落ち込み(実際は、年率換算6.8%)でした。リーマンショック以来です。
次の図は日経ビジネス7月28日号による、電気代の上昇です。最悪の場合に、北海道電力で震災前から6割上昇するという試算です。日本銀行は、2013年1月に、「物価安定の目標」として、消費者物価の前年比上昇率2%をと定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしていますが、これは電気代が上昇する悪い形で達成しかねない状況です。
また2014年上半期の日本の貿易赤字は過去最高の7兆6000億円になり、そのうち2-3兆円がエネルギーの輸入増加によるものでしょう。
細田 経済指標の悪化は大変な問題です。電力会社の経営危機、さらに電力料金の上昇が経済への悪影響を与えているのは間違いない状況です。私は個人的な意見として、アベノミクスに活力を与えるのは原発の再稼働であると考えています。
この危機感は自民党の多数に共有されています。私たちの議連は、自民党では衆参合わせて約150人が参加しています。もちろん原発の活用に慎重な考えの確かに慎重な考えの先生は、党内にいますが、それは当然です。
8月1日には議連で、茂木経産大臣、菅義偉官房長官に、規制委員会の安全性審査をスムーズに行う体制をつくり、電力価格上昇の抑制を求めるなどの意見書を渡しました。
議員の会は私的な会合という位置づけですが、自民党は党としても、原子力の利用を考えている唯一の政党です。また安倍政権は、発足時点から、安全性の確認された原発は稼働させるという点では一貫してぶれていません。
ただし自民党何がなんでも再稼動、原発推進というわけではありません。福島事故が収束せず、多くの方が避難生活を送られている現実があります。当然、事故の反省をしっかり行うべきと、考えています。
池田 今、原子力規制委員会が安全基準に適合したと認めても、稼働をさせるなという議論が、メディアや反原発派から出ています。7月に九州電力川内原発の審査について、原子力規制委員会の審査書案を了承しました。昨年7月に新規制基準ができて、1年以上かかり、ようやく川内原発の2基が認められました。このペースだと全国の48基の原発が稼働するのに、10年程度かかることになりかねません。
細田 政府と自民党の立場は変わりません。規制委の審査が正式に認められれば、法律には正式に決まっていないものの、地元の皆さまの同意をするべきとの声があります。それなりの政府高官、さらに政治家の説明で、ご理解を求める必要があるでしょう。
また審査の遅れは確かに問題です。田中委員長は当初、最初の審査は半年ぐらいだろうと言っていました。それが今は、どれくらいかかるかわからない。規制委は政治から独立した組織としてつくられたため、政治の意見が通りにくい面があります。
【原子力規制委員会の問題】
池田 規制委の審査には多くの問題があります。(参考・池田氏論文「原子力規制委員会によるバックフィット規制の問題点」)。法律の上では、稼働と安全基準を並行して行えます。さらにバックフィット(規制の適用)でも、これは行政の賠償問題になりかねないために、法制化せずに、田中俊一規制委委員長の私的メモを根拠に行っている。また基準は担当審査官が恣意的に行っています。
規制も合理的なものではありません。たとえば12万年間に動いた活断層が下にある炉はダメという規制をつくったゆえに全国の原発で「穴掘り」が行われています。その地震が起こる確率、また炉が影響を受ける確率を考えるのが合理的なのに、あったらダメという単純な話になっています。こうした仕組みを見直す必要があるのではないですか。学者が一面だけで判断して、リスクと便益の考慮がほとんど行われていない状況になっています。
細田 ご指摘の問題があることは理解しています。また規制の手続きの上で首をかしげざるを得ない面があります。
もちろん、法に基づき、規制委の独立性を、国会は尊重しなければなりません。しかし国会として、リーチできる範囲で、制度の見直しを検討してもいいという点は多くあります。
例えば、規制委には5人の委員がいますが、それぞれの先生に専門を割り振っています。炉の専門家は一人しかいませんし、地質調査の先生も一人です。そこに審査が集中し、遅れている面があります。これを増やすべきという議論も議連の中にあります。
また規制委はリスクの確率を出し、それによって客観的に規制を行うという方針を掲げました。しかしそうした確率論的評価がほとんど行われず、聞くところでは、各原発で規制庁の担当者が恣意的に基準を決めている面があると聞きます。恐縮ながら規制委の先生方は、科学者として、もう少しきちんと考えてほしいと思います。
物事には何にでもリスクはあります。原発には確かにリスクがあり、福島原発事故という大変なことが起こりました。しかし一つの問題を、ゼロリスクを求め厳しくやりすぎると、他のリスクを増やしかねないのです。
また納得感のいかない規制も問題でしょう。事故を起こさない責任は事業者にあります。しかしそれを委ねすぎてはいけないために規制があります。そこには対話が必要ですが、今、規制委と電力会社の間でそれがない状況です。そして両者の間で、相互不信のようなことが起きていると聞いています。
規制を受ける人が、それを意味がないと思うのは危険です。そのルールを破るということが起こってしまうとか、形式的に規制を行うなどの措置をしてしまいかねないのです。
私は規制でも、原子炉の専門家、そしてOBなどを活用するのも一つの案と考えています。関電や、メーカーのOBが東電の原発にチェックにいくなど、実務を知った方の知見を活用する制度を取り入れてほしいと思います。ピア・レビュー(専門家による相互評価)による審査の短縮です。
また国会内に、原子力規制委員会の動向を監視する機関を設置するというアイデアも、議連で出ています。これは福島原発事故の国会事故報告書で提案を受けたことです。
こうした立法府のできること、行政府のできることを通じて、今の原子力規制委員会が独立と信頼を確保する規制体制ができる仕組みを整えたいと思います。
【厳しい世論にどう向き合うか】
池田 原発について厳しい世論があり、政治的に触れられない問題である面があります。ただ経済負担が今は隠されています。値上げ幅を抑え、北海道電力は経営が厳しくなっているのに、政策投資銀行の融資を受けています。こういうことは問題の先送りであり、いずれツケが出てしまうのではないでしょうか。
細田 その通りです。私は国民の皆様の厳しいご意見は十分認識した上で、原発の停止による負担を、隠さないで実際に出すことが必要と考えています。今、原発の停止分の負担は、ある程度電力会社が赤字でかぶる形になっています。小売り電力料金が規制にあるためで、それを必要な分、上乗せしていないためです。稼働できない原発を稼働したことにして、電力料金が算定されています。(解説・澤昭裕氏論考「原発再稼働すれば、電気料金は下がる?」)
議連でも、こうした議論は行われています。原発の停止は国民負担を増やすため、その負担をはっきり見える形にして、実際に負担を転嫁して、その上で国民の皆さまの判断を仰ぐ必要があるのではないかという意見です。
電力料金が震災前から、5割、6割増以上になったら、製造業はコストの増加で、危険な状況になります。私の選挙区は新潟ですが、以前の政治家の方は「新潟からでかせぎに行く必要がないようにしたい」と話していたそうです。ところが製造業がなくなり、雇用が減れば、日本の次の世代は、別の国に働きに行かざるを得なくなるかもしれません。カタストロフィー(破局)が起こったあとでは遅いのです。
私どもにも、原発に懐疑的な方の声が届く一方で、電力料金の上昇に困る皆さんの声もうかがっています。私たちも積極的に国民の皆さまの声をうかがいますが、この問題をめぐって皆さまの意見をはっきり示していただきたいのです。
例えば、原発停止のデモは行われているが、原発の稼働を求める意思表示のデモなどはあまり行われていません。議員に手紙を書く。商工会議所や業界団体の形で意見をまとめる。そうした声は重いものとして政治は受け止めます。
世界を見渡すと、原発の技術を持っているのは日本の企業です。そしてシェールガス革命があって、アメリカではエネルギー価格が下がっています。その中で日本企業の競争力が落ちかねません。こうした問題を考えると、私は目先は原子力を、安全に十分配慮した上で、使う選択をせざるを得ないと思うのです。
池田 一点強調したいのは、バックフィットの面を原子力規制の中で見直さなければならないのではないでしょうか。安全をめぐる新しい知見が出た場合に、見直すことは必要です。しかし明確な規定もなく、事業者に負担を加える日本の規制の仕組みはおかしいでしょう。他国では、規制を合議で決める、またはドイツのように国が負担を補償するなどの仕組みがあります。
細田 その問題はご指摘の通りです。確かに現状は、財産権の侵害といえる面があります。現状では、電力会社が廃炉などに追い込まれた場合に、行政訴訟に訴える可能性もあります。それは誰にとってもよくないでしょう。その見直しは、検討すべき課題です。
(取材・編集 石井孝明 アゴラ研究所フェロー)
(2014年8月18日掲載)
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