鋳造業は存亡の危機に【2014年電力危機】

(GEPR編集部より)原発ゼロの夏を否定的に見る意見もある。日本の鋳造業と電力危機の関係を聞いた。このインタビュー記事は月刊エネルギーフォーラム7月号に掲載されたものを加筆修正した。転載を許諾いただいた、角田氏、ならびに同社関係者の方に感謝を申し上げる。
-鋳造業はどのような業界か。
鋳造業は、売り上げ約2兆円規模の産業です。鋳物の形で部品を自動車や機械産業に提供しています。「日本のあらゆる産業の基盤」であると、そこで働く私たちは自負しています。
鋳造業は全国どこでもありますが、特に、機械・自動車産業の集積地である中部、関東、そして大阪に集中しています。
-電力不足、そして電気料金の上昇はどのような影響があるか。
電力料金の上昇で鋳造業の経営が厳しくなっています。当協会には約1000社が加盟しています。2011年に廃業は1社でした。12年には廃業・倒産12社、13年には14社と増加しました。世の中にアベノミクス効果が騒がれますが、その好影響は及んでいません。この一因は、電力料金の上昇にあります。
現状では、原料の鋼材価格が円安の影響で上昇する一方、顧客のメーカーもなかなか値上げに応じず、利益率が縮小しています。
鋳造業は金属を溶かし、鋳型に流し込んで製品をつくります。以前はコークスを燃やすキューポラ(溶解炉)が使われましたが、環境への配慮から電炉が大半を占めるようになりました。そのために製品出荷額の1割強が電気購入費になります。売上高数兆円の自動車メーカーと、数百億円の鋳造業の会社の電気代が同じ例が数多くあるような、電力多消費産業なのです。
電気料金はこの2年で、原発停止の影響で約2割上昇しました。協会員会社の経常利益率は1.8%と他産業に比べて、かなり低い状況です。この電気料金値上げで利益がなくなります。さらに関東・東北地区では、震災直後は計画停電、電力の制限で生産が混乱しました。停電が懸念される今の電力供給の状況を、事業の継続性の観点から不安に思う経営者が多いのです。
-どのような対応をしているのか。また、このような電力の状況で、鋳造業の各社は経営を続けられるのか。
電力の安定供給がなければ、鋳造業は経営ができません。工場の設備投資額が企業規模に比べ大きいため、簡単に海外への移転などできません。省エネの努力も行っていますが、効果は限られます。
電力自由化が検討されています。多くの企業が新規参入の電力会社から電気を安く買おうとしました。しかし鋳造業は特殊な電気の使い方をするために、供給体制を構築することが難しく、なかなか契約が成立しません。
原発の将来にはさまざまな意見があるでしょう。しかし、その停止で鋳造業は多くの問題に直面しています。「原子力ゼロ」の夏の継続を懸念しています。日本に必要な鋳造業が成り立たなくなってしまうかもしれません。
私たちの苦境を、エネルギー・原発問題を考える際に知っていただきたいと思います。
(取材・構成 石井孝明 経済ジャーナリスト)
(2014年7月22日掲載)

関連記事
-
著者は、エネルギー問題の世界的権威である。20年以上前に書かれた『石油の世紀』は、いまだにエネルギー産業の教科書だが、本書はそれを全面的に書き直し、福島事故後の変化も取り入れた最新の入門書である。
-
「たぶんトランプ」に備えて米国の共和党系シンクタンクは政策提言に忙しい。何しろ政治任命で高級官僚が何千人も入れ替わるから、みな自分事として具体的な政策を考えている。 彼らと議論していると、トランプ大統領になれば、パリ気候
-
7月21日、政府の基本政策分科会に次期エネルギー基本計画の素案が提示された。そこで示された2030年のエネルギーミックスでは、驚いたことに太陽光、風力などの再エネの比率が36~38%と、現行(19年実績)の18%からほぼ
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 5月22日に放映されたNHK・ETVの「サイエンスZERO」では、脱炭素社会の切り札として水素を取り上げていたが、筆者の目からは、サイエンス的思考がほとんど感じられない内容だっ
-
中国企業が移動式の海上原子力発電所20基を建設する計画を進めている。中国が領有権を争い、基地を建設して実効支配をたくらむ南シナ海に配備される可能性がある。
-
ウクライナ戦争以前から始まっていた世界的な脱炭素の流れで原油高になっているのに、CO2排出量の2030年46%削減を掲げている政府が補助金を出して価格抑制に走るというのは理解に苦しみます。 ガソリン価格、172円維持 岸
-
世界エネルギー機関(IEA)は毎年中国の石炭需要予測を発表している。その今年版が下図だ。中国の石炭消費は今後ほぼ横ばいで推移するとしている。 ところでこの予測、IEAは毎年出しているが、毎年「今後の伸びは鈍化する」と言い
-
(1)より続く。 【コメント1・ウランは充分あるか?・小野章昌氏】 (小野氏記事「ウランは充分あるか?」) 無資源国日本ではエネルギー安全保障上、原子力しかない。莫大な金をかけて石油備蓄しているが、これは1回使ったら終わ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間