高速炉の稼動で、ロシアでクリーンエネルギーの時代が始まる

2014年07月07日 08:30

(RT:ロシア・トゥデイ、ロシアの政府出資によるニュースサイトより)(記事

(GEPR編集部より)ロシアが6月、新しい高速増殖炉を完成させ、運転を開始した。増殖炉研究で先行した日本とフランスは進歩が逆転された。日本のもんじゅは16年も止まったままで、フランスでも研究が凍結されている。ちなみに米英は、核兵器の材料になるプルトニウムを増やすため、このタイプの原子炉研究を停止している。福島原発事故で、この事故を起こした軽水炉の安全性に懸念が広がる。この解決策として第四世代原子炉への期待が再浮上。それでロシアが世界で先んじていることは確かだ。ただしこのリポートでは、原子力の危険性に対する警戒は皆無だ。その無邪気さに、日本との国情の違いがうかがえる。

建設中のロシアの高速増殖炉BN-800の内部(RTより)

[2014年6月27日]

ロシアのウラル地方にある最新型の高速増殖炉で運転が始まった。完結した核燃料サイクルの始まりと、核廃棄物なしの発電のはじまりをもたらすかもしれない。ロシアは高速中性子炉を産業利用で運用している唯一の国だ。

ロシアのベロヤルスカヤ(Beloyarskaya)原子力発電所で建設された次世代型原子炉のBN-800増殖炉(出力880メガワット)は、すべての必要な核燃料を装填し、6月27日に臨界に達した。

ロシアの核燃料の独占企業体ロスアトム傘下にあって、この発電所を運営するロスエネルゴアトムの広報担当者は、BN-800原子炉で核反応が開始されたことをRIA(ロシア国内通信)の取材に対して確認した。同社のコメントを引用しながらRIAは「この臨界の瞬間から原子炉に「命」が宿った」と伝えた。

臨界に達したということは、原子炉内では制御された核分裂が自律的に、一定のスピードで行われていることを意味する。これは始動作業における最も重要な段階だ。これがしばらく続けば、この原子炉は10月までに段階的に880メガワットの発電出力を達成するための準備を行い、政府から許可認定を受ける予定だ。

BN-800は、液体金属のナトリウム(Na)は冷却用の熱伝達剤として使用する。新しい原子炉の商業運転の開始は2015年早期に予定されている。

BN-800増殖炉の稼動年数は45年であると予想されている。880メガワットの出力は、3人家族の月平均消費量が150キロワット時であることを考慮した場合に、315万世帯の生活に十分な電力(4.75億キロワット・アワー)を発電すると見込まれている。

ザレチニー州に位置するベロヤルスカヤ原発は、この地域の中心であるエカテリンブルクから45キロほど離れている。

高速中性子炉は、核燃料の放射性物質の量を増やす、いわゆる「増殖」原子炉の技術を使う。したがって、電化が世界で広がる中で、需要が拡大する核燃料の潜在量を増やすことができると考えられている。高速増殖炉は、使用済みのウラン核燃料を「燃やす」ことができるとされており、それが増えれば核廃棄物の問題を終わらせられるかもしれない。

高速増殖炉は、電力を作りだすほかに、核燃料として使用することができる複数の核物質をつくりだすことができる。これは完結した核燃料サイクルをつくることになり、燃料の心配がなくなるという、原子力エネルギー産業の長年の夢がついに実現するかもしれない。

このタイプの炉は、主な燃料としてウラン235を使う伝統的な原子炉(軽水炉)とは異なり、特別にプルトニウム239を材料とする、MOX(混合酸化物)燃料を使う。

(訳注・軽水炉型原子炉で使われるウラン235(全ウランの1%未満)ではなく、高速増殖炉は、天然に多く存在するウラン238をプルトニウムに転換し使う。また使用済核燃料のプルトニウムも燃料にでき、それを使い続けることができる。)

ロシアの原子力の独占事業体であるロスアトムは、BN-800炉用のMOX燃料を生産するために、クラスノヤルスク地方に工場を建設した。生産ラインは、200メートル地下にある。これは2014年末から運用が可能になる予定で、2016年から商業用にフル稼働する。

最初の高速炉「クレメンタイン」は、米国のロスアラモス国立研究所で1946年に建設された。しかしロシアは、それとは異なる形で、高速炉の研究を進めてきた。

数十年にわたり、ソ連、そして、その後のロシアでは、産業利用のために、高速中性子炉の研究と建設をしてきた。そのうちの一つはBN-600(600メガワット)であり、1980年以降、同じベロヤルスカヤ原発内で、工業用途の発電を行う世界で唯一の高速中性子炉である。 BN-600はまた世界で最も出力の大きい稼動している高速中性子炉である。

ここ数十年、米国、フランス、日本など原子力エネルギー技術を保有するいくつかの国々で行われた増殖炉プロジェクトは現在、止まっている。現時点で発電事業を行っている唯一の国はロシアである。

ロシアの物理学者らはすでに高速増殖炉技術の次の展開を検討している。ベロヤルスカヤ原発で、2020年までにBN-1200増殖炉を建設する予定だ。さらに2030年までに、8基のこのタイプの原子炉をつくることも計画されている。

それが実現すれば、ロシアは世界で、原子力発電の新たな時代に入っている唯一の国になる。そして、それによって、環境的に安全で、クリーンで完結した核燃料サイクルが確立することになる。

(翻訳・GEPR編集部 石井孝明)

(2014年7月7日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 福島原発事故以来、東京都では3回の都知事選が行われた。脱原発を訴える候補はいたが、都民はそれを争点と重視しなかった。今年2月の選挙で都知事に選ばれたのは「常識人」の舛添要一氏だ。政治に翻弄されがちだった都のエネルギー政策はようやく落ち着きを取り戻した。そしてユニークな再エネ振興、省エネ対策が成果を上げ始めている。選挙の後に報道されない、「日常」の都のエネルギー政策を紹介する。
  • ここは事故を起こした東京福島第一原発の約20キロメートル以遠の北にある。震災前に約7万人の人がいたが、2月末時点で、約6万4000人まで減少。震災では、地震、津波で1032人の方が死者・行方不明者が出ている。その上に、原子力災害が重なった。
  • 自民党は「2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減する」という政府の目標を了承したが、どうやってこの目標を実現するのかは不明だ。経産省は原子力の比率を20~22%にする一方、再生可能エネルギーを22~24%にするというエネルギーミックスの骨子案を出したが、今のままではそんな比率は不可能である。
  • 10月21日(月)、全学自由研究ゼミナール「再生可能エネルギー実践講座」3回目の講義のテーマは、地熱発電です。地熱は季節や天候に関係なく安定した自然エネルギーで、日本は活火山数119個を有し、地熱資源量は2347万kWと米国、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源大国です。
  • 核兵器の原料になる余分なプルトニウムを持たない。広島、長崎で核兵器の被害を受け、非核3原則のもと原子力の平和利用を進める日本は、こうした政策を掲げる。しかし原子力発電の再稼動が遅れ、それを消費して減らすことがなかなかできない。
  • 六ケ所村の再処理工場を見学したとき印象的だったのは、IAEAの査察官が24時間体制でプルトニウムの貯蔵量を監視していたことだ。プルトニウムは数kgあれば、原爆を1個つくることができるからだ。
  • 福島では、未だに故郷を追われた16万人の人々が、不自由と不安のうちに出口の見えない避難生活を強いられている。首都圏では、毎週金曜日に官邸前で再稼働反対のデモが続けられている。そして、原子力規制庁が発足したが、規制委員会委員長は、委員会は再稼働の判断をしないと断言している。それはおかしいのではないか。
  • 風評被害: 根拠のない噂のために受ける被害。特に、事件や事故が発生した際に、不適切な報道がなされたために、本来は無関係であるはずの人々や団体までもが損害を受けること。例えば、ある会社の食品が原因で食中毒が発生した場合に、その食品そのものが危険であるかのような報道のために、他社の売れ行きにも影響が及ぶなど。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑