敦賀原発の活断層判定、再考が必要(上)・対話をしない原子力規制委

2014年06月30日 14:30
アバター画像
経済ジャーナリスト

日本原子力発電の敦賀原発2号機の下に、原子力規制委員会は「活断層がある」との判断を昨年5月に下した。日本原電は活断層を否定する資料を提出し、反論を重ねた。規制委は今年6月21日に追加調査会合を開いたが、原電の主張を真摯に受け止めず、議論を打ち切ろうとしている。

規制委の判定は、使える原発を事実上の廃炉に追い込みかねない大きな影響を持つものだ。その判定には慎重さと行政上の措置を受け止める関係者の納得がなければならないだろう。しかし規制委は対話も説明もせずに、自らの早急な決定を押し付ける。

筆者は日本原電側の「活断層ではない」とする主張の方に、論拠が多いと考えている。規制委の対応は、誤った可能性のある判定によって、行政が企業の財産権を不当に侵害するという大変な問題と認識すべきだ。しかし、なぜか批判が社会の中で広がらない。

問題を整理して、この影響を考えたい。

写真 問題となっている日本原電敦賀2号機

1・対話をしない規制委員会

「資料は受け取れない」「出席は認められない」。無駄なやり取りが会議の冒頭の30分も続いた。6月21日に開催された「第2回 敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合追加調査評価会合」の光景だ。(YouTubeの映像

この日の会議は昨年5月の敦賀原発の下に活断層があるとした規制委員会の判定をめぐって、日本原電側が反論のために提出した新資料を説明するものだった。同社は、専門家の意見を取りまとめる追加資料を出すことを事前に要請した。さらに規制委の判定に疑問を示す広島大学大学院の奥村晃史広島大学教授、東北大学大学院の遠田晋次東北大教授の出席を求めた。

規制庁側は事前にはそれを拒絶していなかった。ところが直前になって小林勝安全規制管理官(地震・津波安全対策担当)が、資料提出と出席を拒否するという、嫌がらせと言える妨害を行った。重要な会議なのだから、資料をより詳細にして、多様な意見を持つ出席者から話を聞くことがなぜできないのだろうか。

規制委委員の島崎邦彦氏は地震の安全対策を取り扱う。この会議での島崎氏の態度も問題だった。日本原電の説明時間を減らし、説明中でも「時間がないので後にしましょう」と審議を強引に打ち切る場面もあった。さらに判定を左右しかねない地層中の堆積物の問題(後述)についても「重要な論点でない」と一蹴した。有識者委員も問題のある対応をした。鈴木康弘名古屋大学教授は、「活断層である」とした自らの判断に疑問を示す原電提出の資料を「見解の相違」というだけで説明もなしにはねつけた。

会合の終了後、傍聴をしていた奥村教授、遠田教授は共に、重要な論点を話し合わない規制委の態度を疑問視して、「科学的な議論をするべき」と一致して批判した。

原子力規制委委員会の議論の進め方は、「横暴」と形容してもよいだろう。審議を早々に打ち切り、原電敦賀2号機を廃炉に追い込みたいかのように見える。

2・問題の論点整理・原子力規制委員会の主張

日本各地の原発で、規制委は活断層の調査を行っている。この認定の問題は、非常に専門的で分かりづらい。ここで問題を整理してみよう。

敦賀2号機をめぐる問題の経緯

2011年
3月 東日本大震災、福島原発事故
2012年
9月 原子力規制委員会発足
11月 敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合発足(翌年5月まで5回開催)
2013年
5月15日 有識者会合「D−1破砕帯は活断層」と結論
5月22日 規制委員会定例会 上記結論を了承
7月 日本原電追加調査報告を提出
8月 日本原電外部レビューチームの審査を提出
2014年
4月14日 第一回有識者会合追加調査評価会合(メンバー同じ)
6月21日 第二回有識者会合追加調査評価会合(原電の主張聴取)

12年秋に発足した規制委は、各地の原発の耐震調査を行った。特に敷地内に「浦底断層」と呼ばれる活断層のある日本原電の敦賀発電所が先行して行われた。

昨年(13年)5月15日に開かれた「敦賀発電所 敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」で、敦賀2号機下の「D-1破砕帯」(D-1は調査番号)について、活断層であると認定した。そして翌週22日の規制委員会の定例会でその報告を了承した。

規制委員会の報告では、2つの論点が検討された。その1は「D−1破砕帯の近くで見つかった新たな断層(K断層)が活断層であるか」だ。そしてその2は「新たな断層がD−1破砕帯とつながっているか」である。規制委側は、D-1断層を「G断層」と名付け、K断層は活断層であり、G断層とつながっていると認定した。(図1)

図1 敦賀2号機の周辺図

ここで言葉を定義しよう。「断層」にはさまざまな形がある。断層とは岩盤や地層が割れて、ずれが観察される状態のことを言う。「活断層」とは断層の中で繰り返し活動し、将来も活動する可能性のあるものを言う。

「破砕帯」という地層もある。岩盤中の割れ目で、影響で周囲の岩盤より脆弱になったもの、太古の昔の断層活動などで生じたものだ。

原子力規制委員会は、新規制基準を2013年7月に施行した。そこでは原子力発電所で問題になる活断層を「将来活動する可能性のある断層等」と呼び、「後期更新世以降(約12−13万年前)の活動が否定できない断層」と規定した。そして、この上に原子炉の主要施設を建ててはならないとしている。

3・「日本原電の主張が妥当」海外専門家

日本原電は「D−1破砕帯は活断層ではない」と反論を重ねた。前述の論点の1「D-1破砕帯の近くで見つかった新たな断層(K断層)が活断層であるか」という問題がある。同社は、福井県内や琵琶湖周辺の地質調査の資料を元にして、断層中の堆積物から13万年前より前の火山灰があることを見つけた。これはこの地層が規制基準の示す活断層ではないことを意味する。

さらに前述の論点の2「新たな断層がD-1破砕帯とつながっているか」という問題がある。同社は追加調査で、新たに見つかった断層が途中で消滅してD-1破砕帯とつながっていないこと、さらに岩石の詳細な分析により新たに見つかった断層とD-1破砕帯は一体の構造ではないことを示した。ところが、規制委は今年6月の会合で、この重要な主張を検証しなかった。

また日本原電は客観的な立場から意見を得るために、ノルウェーの地質調査会社、また世界各国の著名研究者をメンバーとする調査チームの2つに、同社の調査の検証を依頼した。いずれからも「日本原電の主張は妥当であり、活断層ではない」という判断を、13年8月にもらった。(日本原電「敦賀発電所敷地内破砕帯調査外部レビュー結果」)

チームの一人であり、地質学で国際的な権威である英国シェフィールド大学のニール・チャップマン教授は、地球物理学研究では世界の中心的な学会誌である米国地球物理学連合学会誌「EOS」95号(14年1月発行)に共同論文を掲載した。「活断層ではない日本原電の主張が妥当」「日本で規制当局、事業者、科学者の対話を改善する必要がある」と主張した。(英語版

ここまで証拠がそろうと、日本原電の主張に根拠が多いと筆者は思う。さらに「敦賀2号機は活断層である」と規制委とそこにかかわる地震学者らが繰り返せば、国際的に恥をかきかねない状況だ。

それなのに規制委は、自らの主張に固執する。この頑迷さは不思議だ。敦賀2号機を反原発の世論に捧げるスケープゴート(犠牲の羊)にしたがっているかのように見える。

以下「(下)・行政権力の暴走」に続く。

(2014年6月30日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 全国の原発が止まったまま、1年半がたった。「川内原発の再稼動は今年度中には困難」と報道されているが、そもそも原発の運転を停止せよという命令は一度も出ていない。それなのに問題がここまで長期化するとは、関係者の誰も考えていなかった。今回の事態は、きわめて複雑でテクニカルな要因が複合した「競合脱線」のようなものだ。
  • アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」を公開しました。 今回のテーマは「迷走する原子力規制委員会」です。 原子力規制委員会は、動いている原発を2020年にも止める方針を電力会社に伝えました。混乱する原子力行政の
  • Caldeiraなど4人の気象学者が、地球温暖化による気候変動を防ぐためには原子力の開発が必要だという公開書簡を世界の政策担当者に出した。これに対して、世界各国から多くの反論が寄せられているが、日本の明日香壽川氏などの反論を見てみよう。
  • アゴラ研究所は、9月27日に静岡で、地元有志の協力を得て、シンポジウムを開催します。東日本大震災からの教訓、そしてエネルギー問題を語り合います。東京大学名誉教授で、「失敗学」で知られる畑村洋太郎氏、安全保障アナリストの小川和久氏などの専門家が出席。多様な観点から問題を考えます。聴講は無料、ぜひご参加ください。詳細は上記記事で。
  • 27日の日曜討論で原発再稼働問題をやっていた。再稼働論を支持する柏木孝夫東京工業大学特命教授、田中信男前国際エネルギー機関(IEA)事務局長対再稼働に反対又は慎重な植田和弘京都大学大学院教授と大島堅一立命館大学教授との対論だった。
  • 上野から広野まで約2時間半の旅だ。常磐線の終着広野駅は、さりげなく慎ましやかなたたずまいだった。福島第一原子力発電所に近づくにつれて、広野火力の大型煙突から勢い良く上がる煙が目に入った。広野火力発電所(最大出力440万kw)は、いまその総発電量の全量を首都圏に振向けている。
  • ずいぶんと能天気な対応ぶりである。政府の対応もテレビ画面に飛び込んで来る政治評論家らしき人々の論も。日本にとって1月に行われたと発表された北朝鮮の4回目の核実験という事態は、核およびミサイル配備の技術的側面からすれば、米国にとって1962年のキューバ危機にも等しい事態だと見るべきではないか。
  • 原子力規制委員会が11月13日に文部科学大臣宛に「もんじゅ」に関する勧告を出した。 点検や整備などの失敗を理由に、「(日本原子力研究開発)機構という組織自体がもんじゅに係る保安上の措置を適正かつ確実に行う能力を有していないと言わざるを得ない段階に至った」ことを理由にする。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑