日本鉄鋼業が推進する3本柱の技術協力

2014年06月23日 14:00
一般社団法人 日本鉄鋼連盟 地球環境委員長

(GEPR編集部より)提携する国際環境経済研究所(IEEI)のサイトから転載します。許諾をいただいた、関係者の皆様に感謝を申し上げます。

以下本文

日本の鉄鋼業は、石油ショック以降今日に至るまで、製鉄所・工場内の生産プロセスにおける省エネルギーに心血を注いできた。その結果、世界最高水準の省エネ効率を達成し、今もこれを堅持している。またその過程でつちかった省エネ技術を他国の鉄鋼業に普及させること画世界全体の地球温暖化防止に役立つとの考えから、セクトラルアプローチの重要性を説き続けてきた。

将来的にも中国、インドなどにおける温室効果ガスの削減余地は大きく、仮に、既存の日本の鉄鋼業がBAT(ベスト・アベイラブル・テクノロジー:最良の代替可能技術)が世界鉄鋼業に普及すれば、その削減ポテンシャルは、約4億t-CO2(日本のCO2排出量の約3割)にものぼるとのIEA(国際エネルギー機関)の試算もある。この考え方は世界の鉄鋼メーカーの大半が集う世界鉄鋼協会においても受け入れられている。

一方、カンクン合意を経て、地球温暖化問題における国際枠組み交渉の流れは、京都議定書型のトップダウン方式(第一約束期間 EU8%、米国7%に呼応して日本は6%を設定)から、プレッジ&レビュー方式(排出量を計測、自ら掲げた目標・政策を絶えず見直し改善、チェック)へと大きく変貌してきている。

その結果、プレッジ&レビュー方式への参加国が拡大し、とりわけ削減ポテンシャルの大きい中国やインドが参加することにより、今まで以上にセクトラルアプローチが機能を発揮する土壌が整ったといえる。

こうした中、日本鉄鋼連盟は、業界団体で世界初めてのISO50001(エネルギー管理システム)の認証取得に成功したことを以って、海外への技術移転・普及のためのツールとしての「3本柱」を確立した。

これは、製鉄所を人体に見立てると、「健康上の問題がある人が①正しい診察を受ける(ISO14404)②適切な処方箋を受ける(技術カスタマイズドリスト)③自己管理により健康な体をつくる(ISO50001)」ということになる。(図1参照)。

図1・三本柱の位置づけ

私ども鉄鋼業は、この「3本柱」によって、セクトラルアプローチを強力かつ具体的に推進し、日本政府が掲げる「攻めの地球温暖化戦略外交」に積極的に貢献していくことが可能になったと考えている(図2参照)。以下、3本の柱について紹介する。

図2日本鉄鋼業が世界に発信するセクトラルアプローチの3本柱

① 第1の柱 ISO14404
「世界共通の尺度を用いた製鉄所のCO2排出量算定方式を鉄連が国際標準化(2013年3月)」

製鉄所が世界のどの国に有ろうと、設備構成に差が有ろうと、製鉄所の実力を出来るだけ世界共通の尺度で、簡便に評価できる手法を、日本鉄鋼業が初めて国際標準化したものである。この結果、CO2排出量を世界共通の同一指標で評価できるため、高い客観性、透明性、信頼性を以ってフロント・ランナーの鉄鋼メーカーとの違いを明確にすることができる。

また、対策を打つべき分野と必要な技術が科学的・客観的に判明しているため、技術の進展に合わせて、削減目標と対策の見直しを弾力的に実施することが可能となる。

つねづね「ISO化は欧米主導」と言われ続けてきたが、この度、日本の鉄鋼業が多年に亘る国際交渉の困難を克服してISO化に成功したことは意義のあることと考える。

② 第2の柱 技術カスタマイズドリスト
「省エネ・環境技術の具体的事例集を各国に情報提供」

例えば最近では、日本とインドの二国間で、日印鉄鋼官民協力会合を開催し、全ての技術群(全部で137技術)の中から、インド鉄鋼業の実態(実力、経済合理性等)に即した、より具体的で効果的な技術を選別し、インド版の「技術カスタマイズドリスト19技術」を策定している。ここ数年インドとは官民による会合を何度も開催し、コミュニケーションを行うことによって、WIN-WINの関係を構築しつつある。

またインドのみならずASEAN諸国にも同じ考えを適用拡大していけないか、目下検討中である。

※我が国は、従来、APP(Asia-Pacific Partnership on Clean Development & Climate)等で世界最先端の省エネ・環境技術集(SOACT(State-of-the-Art Clean Technology Handbook))を公開、提供。

③ 第3の柱 ISO50001
「産業団体として鉄連が世界で初めて認証取得(2014年2月)」

鉄連ではすでに長年に亘って、自主的な取り組みによって、省エネやCO2削減活動の実施し、業界一丸となって実効性のある地球温暖化対策のPDCAを回してきた。このような活動はISO50001そのものではないかという発想の下、昨年夏頃より、業界団体としての取得を検討してきた。

ISO50001とは、企業がエネルギーの使用に関して、方針・目的・目標を設定、計画を立て、手順を決め、体系的に管理する(PDCA)ことによって、省エネルギーを確実に実現するためのエネルギーマネジメントシステムで、2011年6月に発行されたものである。

世界では、約7100社もの個別企業がISO50001を取得しているが、日本国内では未だ26社に留まっている(4月23日現在)。このような状況の中、ISO50001を業界団体として取得したのは鉄連が世界で初めてである。私どもがISO50001の認証取得に挑戦したきかっけは、自らの自主的な取り組みの成果の信頼性、透明性を高める手段になるのではないかと考えたからである。今回の認証取得により、私どもの計画・取組みが国際規格の要求事項に照らしても「透明性、信頼性、実効性」を有していることが改めて証明されたと考えている。

なお、認証取得に当たっては、企業と最も異なる点として、団体としての取組みに置ける責任の明確化や、ガバナンスをどう捉えるかという苦労も経験し、自主的な取り組みの意義を今一度見つめ直す好機ともなったと考えている。

今後とも自主的な取り組みにおけるエネルギー管理レベルの向上を鉄連全体として図ることによって、自主的取り組みの信頼性向上に些かなりとも貢献していく決意である。と同時に、3本柱の一つとして、途上国におけるエネルギー管理システムの一つのモデルとして普及・展開することも併せて考えていきたい。

(2014年6月23日掲載)

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一般社団法人 日本鉄鋼連盟 地球環境委員長

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