ゆがんだ情報をなぜ拡散するのか? — 報道ステーションの偏向報道を批判する・下
「原発事故、福島で甲状腺がんは増えていない — 報道ステーションの偏向報道を批判する・上」から続く。
4・中核派関係者など、問題のある人から取材
報道ステーションの3月11日の報道を振り返ると、伝えるべき重要な情報をまったく強調していない。おかしな異説を唱える人の少数説ばかり取り上げている。「福島県の甲状腺がんが原発事故によるもの」とのシナリオを前提に、その筋書きに沿う発言をしてくれる人物を登場させている。
番組に登場した京大助教の今中哲二氏、毎日新聞記者の日野行介氏は、福島原発をめぐり、反原発に偏向し事実からずれた情報を拡散して、批判を集めている。
驚くことは、「ふくしま共同診療所」を取り上げている点だ。この診療所は、中核派との関係を明確にし、福島市民から警戒されている。(中核派機関誌「前進」ホームページ)おそらく関連団体であろう。
中核派は、暴力革命による日本政府の転覆を公言する極左暴力集団である。公安調査庁「2014年版内外情勢の回顧と展望」の54ページによれば原発事故で勢力伸長を図ろうとしているとしている。
一般メディアが、中核派を支援する報道をしたなど、私の記憶にはない。テレビ朝日は中核派の行動を肯定するのだろうか。これは「不祥事」だ。
5・責任逃れのずるい態度、「可能性」の強調
ただし報道ステーションの偏向は、制作者の「無能さ」が理由ではないと思う。放送の中身を見ると、責任から逃げる配慮が織り込まれ、ずる賢さが垣間見えるためだ。
「健康被害の可能性はゼロではない」「因果関係は分からないのではないか」。放送では、こういう趣旨の言葉を取材した人々に言わせている。つまり「甲状腺がんが原発事故によるもの」と断言していない。印象操作だけを行っている。
断言せずに「可能性はゼロではない」とする論理構成は、新聞記事では「万能の切返し技」とされる。この論理に逃げ込めば、記事では自説の誤りを認める必要はなくなる。記事を批判する人が「ないことを証明する」ことは、通常「悪魔の証明」と言われるほど難しい。
ただしメディアにとっては責任逃れができる表現でも、その情報を受け止める人は「もしかしたら、健康に悪影響があるかもしれない」という不安にとらわれる危険がある。健康をめぐる報道で、この論法を多用することは、報道倫理上許されないだろう。
実社会で私たちはリスクに囲まれて生きている。身の回りのリスクを可能な限り相対的に評価して、一番利益になる行為を合理的に選択することが、賢明な向き合い方だ。
しかし放射能問題では、なぜか合理性ではなく「不安と恐怖」が大きな影響を与えている。「健康被害の可能性をゼロにする」ことを目指すために、対策が過剰になり、時間と金銭のコストがかかりすぎているのだ。
原発事故では避難が長期化している。健康被害の可能性をなくすため、除染が広範囲に行われていることが理由の一つだ。今年2月末時点で、震災関連死と呼ばれる避難による死者は1664人となり、同県の震災による直接死1607人を上回った。これはストレスなどが影響しているのだろう。また事故対策費用は数兆円単位に膨らんでいる。
健康被害をなくすためのこうした負担が、逆に人々の健康への悪影響を広げている。一連の社会混乱は、メディアが福島原発事故の後で、放射能の危険を煽ったことが一因である。
6・誤った情報拡散は「反原発プロパガンダ」のため?
報道ステーションは、今回だけではなく、原子力事故をめぐり誇張され、偏向した報道を続けている。なぜおかしな行為を続けるのか、理由は不明だ。間接的に聞いた話だが、報道ステーションは外部プロダクションが制作しておりテレビ朝日の報道局が関与できず、その偏向性を同社内で苦々しく思う意見があるという。
しかし一連の報道は番組の意図である「反原発プロパガンダ」という面では成功している。3月11日の放送で、出演した恵村順一郎朝日新聞論説委員は、番組司会者の古館伊知郎氏とのやり取りで、次のようにまとめた。
「原発が事故を起こせば多くの人に苦労を背負わせます。その罪深さを思いました。原発の再稼動に対する根本的な疑問にもつながります」。
この発言からうかがえるように、報道ステーションのスタッフらは、自らと朝日新聞の目指す反原発の主張を支援するために、原発事故の恐怖を強調する番組を制作しているのかもしれない。ちなみに、これは他のメディアでも観察されることだ。(私の記事「メディアが醸成した放射能」(上)(下))
福島原発事故をめぐり、健康への不安を煽る情報を拡散するメディアは罪深いと、私は思う。原発の是非の主張と、今起きている原発事故のリスク評価の問題はまったく別である。前者は自由に語ればいい。人々の不安につけ込んで後者を強調して前者を語るべきではない。誤った情報は風評被害と恐怖を生み、福島という地域を壊し、ムダな損失を人の人生と社会と日本全体に加えている。
インターネットを観察すれば、福島事故の危険性を過剰に訴える人が、報道ステーションの今回の報道を肯定的に受け止め、拡散している。そうした行為は、日本全体、そして情報発信者自らを傷つける自傷行為であることを、番組制作者ばかりか、発信者は分かっていないようだ。恐ろしいことだ。
7・「真理はあなたを自由にする」
放射能のリスク情報をめぐる私たちの取るべき態度は、デマや誤りを拡散する人に批判を向けることだ。今回の報道ステーションの放送については、珍しく公的機関から、批判的なコメントが出た。もっと強い批判をするべきである。
公権力や一般市民が報道を批判するのは、自由な情報流通を妨げる危険を伴う「諸刃の剣」となる。しかし3年が経過しても今回の原発事故をめぐる誤った情報を拡散する行為には、公益性がない。もはや「日本を貶める意図を持った勢力による情報による破壊活動」と認識すべきである。そして反論は「国土防衛のための言論戦」といえる、正当な行いと見なしてよいだろう。
もちろん完全に正しい情報を取材し、編集し、公開することは誰にとっても難しい。しかしできる限り正確な情報を流通させ、市民に判断の基準を示すことが、民主主義体制におけるメディアの役割である。
その役割に反する行動を取り続けるテレビ朝日と報道ステーション、さらにその賛同者は、自己の行為の恥ずかしさを認識し、反省してくれることを願う。
そして今は、インターネットの活用によって「誰でもメディア」の時代である。報道ステーションの異様な姿は、情報の発信者となった市民一人ひとりとっても、真似をしてはいけない悪しき例となるはずだ。
「真理はあなたたちを自由にする」(新約聖書・ヨハネによる福音書)。正確な情報とそれに基づく議論こそが、放射能への不必要な恐怖を取り除き、福島の復興につながることを信じたい。
(2014年3月31日掲載)
関連記事
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
日本原子力発電の敦賀原発2号機の下に、原子力規制委員会は「活断層がある」との判断を昨年5月に下した。日本原電は活断層を否定する資料を提出し、反論を重ねた。規制委は今年6月21日に追加調査会合を開いたが、原電の主張を真摯に受け止めず、議論を打ち切ろうとしている。
-
原子力規制委員会による新規制基準の適合性審査に合格して、九州電力の川内原発が再稼動した。この審査のために原発ゼロ状態が続いていた。その状態から脱したが、エネルギー・原子力政策の混乱は続いている。さらに新規制基準に基づく再稼動で、原発の安全性が確実に高まったとは言えない。
-
このコラムでは、1986年に原発事故の起こったチェルノブイリの現状、ウクライナの首都キエフにあるチェルノブイリ博物館、そして私がコーディネートして今年6月からこの博物館で行う福島展について紹介したい。
-
2015年5月19日、政策研究大学院大学において、国際シンポジウムが開催された。パネリストは世界10カ国以上から集まった原子力プラント技術者や学識者、放射線医学者など、すべて女性だった。
-
シンポジウムのパンフレットを作成しました。当日のプログラムにもなります。自由にお使いください。(PDFはこちら)
-
思想家で東浩紀氏と、政策家の石川和男氏の対談。今回紹介したチェルノブイリツアーは、東氏の福島の観光地化計画の構想を背景に行われた。
-
中国企業が移動式の海上原子力発電所20基を建設する計画を進めている。中国が領有権を争い、基地を建設して実効支配をたくらむ南シナ海に配備される可能性がある。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間