再エネ利用で、成長をつかめ・村上新エネ対策課長【再エネ・(下)】
村上敬亮資源エネルギー庁新エネルギー対策課長に、FITの成果と問題点について聞いた。
— 高い買取価格とグリーン投資減税は、今後どうなりますか。
調達価格等算定委員会での審議を経て、太陽光の価格は実態に合わせて引き下げ、また、減税措置も別途縮小の方向になるでしょう。
ただしヨーロッパの失敗から学ばなければなりません。2009年の急激な買取価格の引き下げで、ドイツでは、Qセルズなど国内メーカーの倒産を引き起こす一方、逆に安価な中国製パネルが大量流入し、買取負担が逆に増えてしまう事態をもたらしました。
乗り越えるポイントの一つは、事業者のマーケット・リテラシー(能力、習熟度)を高めることにあると思います。関連の情報、知恵の体系化と集積を東大と進め、ビジネスに役立つ知識を、どのように伝えるかの研究をしています。これを提供する予定です。
— 悪質な事業者の参入が懸念されています。
FITでは金融面に配慮し、認定を早い段階で行う制度としました。それは意図通りに成功した半面、手抜き工事や認定だけ取得して着工にとりかからない業者の例が報告されており、私たちも問題と考えています。今実態の調査を進めていますが、認定時の価格を維持する必要が無いと思われる場合は、認定の取り消しを行います。
— 電力系統作り替えをはじめ、国民負担が増えませんか。
電力系統の強化は、再エネ普及の両輪です。電力が双方向で流れるための逆潮流の規制緩和と料金メニュー化など、電力系統整備の制度を整えました。
目先に問題となるのは北海道電力管内の接続です。地域内の系統強化の支援を進めていますが、抜本的な解決策としては、津軽海峡を横断し本州と北海道をつなぐ連系線の強化が必要です。広域連系のあり方を決める電力システム改革論議次第ですが、強化の方向に進めて行きたいと考えています。
再エネ増加は、国民の支持を得た時代の流れ。今後は、開発には時間がかかるけれども太陽光より相対的に安価な風力や地熱発電を伸ばさなくてはいけません。それに応じた系統整備も電力各社では必要になるでしょう。地域経済と密着した中小水力やバイオマス発でなども着実に動き始めています。
— 電力業界は、FITとどのように向き合うべきでしょうか。
少子高齢化の中で電力需要は減り、電力ビジネス環境はますます厳しくなります。この分野では、再エネは消費者に歓迎され、成長可能性がある数少ない商品でしょう。「グリーンエネルギー」というブランドは、さまざまな業種が活用を望むはずです。
FITは国民の皆さんのご支援を基に、グリーンという新たなエネルギービジネスの投資に確実な投資回収可能性を与える仕組みです。再エネの量的拡大はもとより、エネルギーから取り組む地域経済や地銀・信金等地域金融の活性化、蓄電池などと組み合わせ電力の自給自足を目指したオフグリッドなど、様々な取り組みや技術を後半にサポートします。これを上手に活用することが大切かは、電力業界の方も、十分認識なさっているでしょう。
電力会社や関連会社の能力は、人材も、技術も本当にすばらしい。ただし現在の電力供給体制と事業体制の中で、その潜在力がマーケットに適正に評価されていないと感じています。徹底的な電力自由化の推進と、市場原理を補う固定価格買取制度などの仕組みの効果的な組み合わせは、電力産業自体を成長産業に復活させるポテンシャルを持っています。電力会社の皆さんは、この好機を必ず活用されると期待しています。
— 再生可能エネルギーをめぐる状況は変わりました。変化をどのように考えますか。
FITの導入で数多くの前向きな変化が生まれました。その一つは、新しいプレイヤーがエネルギー事業に参入したことです。これは電力市場に新たな競争をもたらし、さまざまな他産業との融合をもたらします。
また行政から見れば、エネルギーと地域活性化など、エネルギーについて新しい視点から国民の皆さんとの関係を築けました。
そして太陽光だけではなく、地熱、風力などが今後拡大していくでしょう。エネルギー政策は10年単位で考えるべき。そうした中で、最初の1年半で社会に新しい流れを作れたことはうれしいし、それが大きなうねりになることを期待します。
(むらかみ・けいすけ)90年通商産業省(現経済産業省)入省。担当は、95年から約10年間IT政策を担当。他にエネルギー、ソフトパワー戦略、地球温暖化対策の国際条約交渉などを担当。2011年9月から現職。
(取材・構成 石井孝明(経済ジャーナリスト))
(2013年3月24日掲載)
関連記事
-
「ポスト福島の原子力」。英国原子力公社の名誉会長のバーバラ・ジャッジ氏から、今年6月に日本原子力産業協会の総会で行った講演について、掲載の許可をいただきました。GEPR編集部はジャッジ氏、ならびに同協会に感謝を申し上げます。
-
石油輸出国機構(OPEC)が6月5日に開催した総会では、市場の予想通り、生産目標が日量3000万バレルで据え置かれた。これにより、サウジなど生産調整による原油価格の下支えを放棄する「減産否定派」の声が今回も通ったことになる。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギー・環境問題のバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)社会に貢献する米国科学界(上)-遺伝子組み換え作物を例に 2)社会に貢献する米国科学界(下)-信
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は映像コンテンツ「アゴラチャンネル」を放送しています。5月17日には国際エネルギー機関(IEA)の前事務局長であった田中伸男氏を招き、池田信夫所長と「エネルギー政策、転換を今こそ--シェール革命が日本を救う?」をテーマにした対談を放送しました。
-
福島産食品などがむやみに避けられる風評被害は、震災から4年以上たってもなお根深く残り、復興の妨げとなっている。風評被害払しょくを目指す活動は国や県だけでなく、民間でも力を入れている。消費者の安心につながる食事全体での放射線量の調査や、企業間で連携した応援活動など、着実に広がりを見せている。
-
GEPR編集部は、ゲイツ氏に要請し、同氏の見解をまとめたサイト「ゲイツ・ノート」からエネルギー関連記事「必要不可欠な米国のエネルギー研究」を転載する許諾をいただきました。もともとはサイエンス誌に掲載されたものです。エネルギーの新技術の開発では、成果を出すために必要な時間枠が長くなるため「ベンチャーキャピタルや従来型のエネルギー会社には大きすぎる先行投資が必要になってしまう」と指摘しています。効果的な政府の支援を行えば、外国の石油に1日10億ドルも支払うアメリカ社会の姿を変えることができると期待しています。
-
それでは1ミリシーベルト(mSv)の除染目標はどのように決まったのだろうか。民主党政権の無責任な政策決定が、この問題でも繰り返された。
-
世界の農業では新技術として遺伝子組み換え作物が注目されている。生産の拡大やコスト削減、農薬使用の抑制に重要な役割を果たすためだ。ところが日本は輸入大国でありながら、なぜかその作物を自由に栽培し、活用することができない。健康に影響するのではないか、栽培すると生態系を変えてしまうのではないかなど、懸念や誤った情報が消費者の間に広がっている。この問題を議論するために、アゴラ研究所は「第6回シンポジウム 遺伝子組み換え作物は危険なのか?」を今年2月29日に東京・内幸町のイイノホールで開催した。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間