エネルギー基本計画、大手新聞の評価を読み比べる
2月25日に決定されたエネルギー基本計画の政府原案について、大手新聞社(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞)がそれぞれの社説で評価を示しているので、主要な点についてここで比較してみたい。
それぞれの要旨は下に掲げた通りだが、“読売vs朝日・毎日”という構図に思える。端的に言うと、読売社説は現実的で、朝日・毎日は夢想的。これは、原発や再生エネに対する賛否や好嫌にかかわらず、実社会でのコスト論や実現可能性から考えてのことだ。
読売は、与党に対して「脱原発論に流されず、厳しい電力事情を踏まえて判断してもらいたい」として、感情論抜きの議論を求めている。あまりにも当然のことだ。
朝日は、“原発回帰は再生エネ事業者など新電力にとっても投資意欲を失わせる。当面のコスト競争では既存の原発が有利だからだ。政府が原発の低減に強い意志がないと見れば、リスクをとって新規参入したり、新技術を開発したりしようという企業は出てこない”と書いている。
朝日新聞社は、原発が安価な電源であることを認めた。これは大きな進歩だ。しかし、新電力や再生エネ事業者が高値安定市場を求めているが如くの主張は避けられたい。電気代が高くても原発ゼロを求めるなどというのは、その場の勢いに乗じた精神論でしかないだろう。
毎日は、“再生エネや効率良い火力発電を普及・拡大する必要。それには電気料金引上げなど高い社会的コストが伴う”と、再生エネと高効率火力の導入によるコスト増を明記している。これは真っ当な書き方だ。脱原発を求める主張であっても、毎日と朝日の違いはこうした言い難いことを言っているかどうかというのもある。
<読売新聞社説(要旨)>
~ エネルギー計画 「原発活用」への妥当な転換だ
- 資源の乏しい日本にとって、原発の活用を続けていくことが最も現実的なエネルギー戦略。
- 民主党政権の「2030年代の原発稼働ゼロ」を転換、原発を重要電源として活用する方針。大筋で妥当。
- 原発は今後の新増設に含み。現実的な判断。
- 全原発停止が続き、燃料費が増大、電気料金高騰や巨額の貿易赤字などの弊害深刻化。
- 火力と原子力、太陽光や水力など再生エネが補完しあう、多様性ある電源構成確立が求められよう。
- 最適電源構成の数値目標をできるだけ早く示してほしい。
- 再生エネ買取制度は、家計や企業に重い料金負担を強いる副作用が大きく、抜本的見直しが急務。
- 核燃料サイクル見直し可能性を示唆した点は懸念。ウラン資源有効活用などのため「着実な推進」というこれまでの政府方針を堅持すべき。
- 廃棄物最終処分に「国が前面に立つ」としたのは当然。
- 気がかりなのは与党の対応。脱原発論に流されず、厳しい電力事情を踏まえて判断してもらいたい。
<朝日新聞社説(要旨)>
~ エネルギー政策―これが「計画」なのか
- 原発依存度を「可能な限り低減させる」としながら何の手立ても示していない
- 私たちは社説で原発ゼロを目指すべきだと主張してきた。
- 政権は原発維持の立場だが、「減らす」というからには、数字が出せなくても手順示すのは最低条件。
- 老朽原発を円滑に閉めさせるため、政府は何をするのか▼30キロ圏内の自治体に義務づけた防災計画を再稼働の判断にどう位置づけるのか▼使用済燃料の保管場所を確保できる見通しがたたない原発は運転を止めさせるべき。
- 政府が原発以外への電源へシフトさせる策を示さなければ代替電源開発は進まない。
- 原発回帰は再生エネ事業者など新電力にとっても投資意欲を失わせる。当面のコスト競争では既存の原発が有利だからだ。政府が原発の低減に強い意志がないと見れば、リスクをとって新規参入したり、新技術を開発したりしようという企業は出てこない。
- 原発は政府の支援がなければ成り立たない電源。
- 事故反省をもとにエネルギー計画を立てる以上、政府自身が原発に偏ってきた政策を改めるべき。
<毎日新聞社説(要旨)>
~ エネルギー計画 原発維持は公約違反だ
- 原発を活用し続ける方針は自民党が掲げた「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」という公約に反する。
- 閣議決定に先立つ与党協議で、公約に即した軌道修正を図るよう求めたい。
- 原案は「可能な限り原発依存度を低減させる」との目標を掲げた。それ自体は否定するものではない。
- 問題は、その目標への道筋を描かず、原発存続を前提にしていること。
- 将来の原発の規模に関して「確保していく規模を見極める」とした。将来的にも原発ゼロは想定していないと読める。
- 「可能な限り原発依存度を低減させる」という目標達成意欲も疑われる。
- 省エネを進め、再生エネや効率良い火力発電を普及・拡大する必要。それには電気料金引上げなど高い社会的コストが伴う。脱原発を「可能な限り」ではなく着実に実現するためには、政府の強い決意が不可欠。
- 脱原発の目標をはっきりと掲げるべき。そこに至る政策を打ち出す必要。」
(2014年3月3日掲載)
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
企業で環境・CSR業務を担当している筆者は、様々な識者や専門家から「これからは若者たちがつくりあげるSDGs時代だ!」「脱炭素・カーボンニュートラルは未来を生きる次世代のためだ!」といった主張を見聞きしています。また、脱
-
英国で面白いアンケートがあった。 脱炭素政策を支持しますか? との問いには、8つの政策すべてについて、多くの支持があった(図1)。飛行機に課金、ガス・石炭ボイラーの廃止、電気自動車の補助金、・・など。ラストの1つは肉と乳
-
経済産業省で11月18日に再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下単に「委員会」)が開催された。 同委員会では例によってポストFITの制度のあり方について幅広い論点が議論されたわけだが、今回は実務に大きな影響を
-
以前、2021年の3月に世界の気温が劇的に低下したことを書いたが、4月は更に低下した。 データは前回同様、人工衛星からの観測。報告したのは、アラバマ大学ハンツビル校(UAH)のグループ。元NASAで、人工衛星による気温観
-
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ 地域的に見れば、過去に今よりも温暖な時期があ
-
7月22日、インドのゴアでG20エネルギー移行大臣会合が開催されたが、脱炭素社会の実現に向けた化石燃料の低減等に関し、合意が得られずに閉幕した。2022年にインドネシアのバリ島で開催された大臣会合においても共同声明の採択
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 欧州で旱魃が起きたことは、近年の「気候危機」説の盛り上が
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間