なぜいつも敗北するのか ?〝脱原発派〟

2014年02月17日 14:00
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東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

感謝の気持ちがない

東京都知事選投票日の翌朝、テレビ取材のインタビューに小泉純一郎氏が晴れ晴れとして応えていた。この歳になってもやれると実感したと笑みをこぼしていた。なんだ、やっぱり寂しい老人の御遊びだったのか。インタビューの随所からそんな気配が読み取れた。

そもそもワン・イシューの〝脱原発〟は端から根本的に破綻していた。細川護煕氏も小泉氏も決定的に間違っていることがある。

そのまず一点は、地方への敬意や感謝が微塵もなかった。そのことを有権者は感じ取っていたはずだ。私自身もそうだが、東京都民の大半は地方出身者である。原発問題の根底には、大都市と地方の問題がある。オイルショックの1970年代から2011年の福島第一事故まで、首都圏は多くの電気を周辺地域から供給してもらって来た。

今なお福島県双葉郡つまり事故原発のお膝元にある広野火力発電所(総発電力380万kw)の8割は首都圏に振り向けられている。都内には大型発電所はない。事故発生まで、首都東京の消費総電力の約3割が、新潟の柏崎・刈羽そして福島の浜通りで造られ送られて来た。そのために、柏崎・刈羽、浜通りの住民は、交付金程度の金では補えない程の苦渋をなめてきた。

大型原子力発電所1基は、1年間でざっと400億円の利鞘を稼ぎだす。それにくらべて、過去40年で地方自治体が受け取って来た金は、基礎自治体ごとにまちまちだが、多くても数百億円程度である。大型原発10基を20年動かせば8兆円だ。自治体が過去受け取って来たお金の総額は、多くてもその僅か1%程度なのだ。

1970年代から2000年頃までの、高度成長期やバブル期を謳歌した世代の代表格ともいえる細川−小泉両氏が、脱原発を叫ぶ前に言うべきことがひとつあった。それは、新潟、福島の地元民にむけた『これまで世話になった。ありがとう』というひとことだ。

多くの有権者は、この究極の無責任さ人情のなさを感じ取っていたのではないだろうか?エネルギー問題だけではない、あらゆる側面で首都東京は地方に頼らなくては生きていけない。細川氏は、一国平和主義同様、東京のみしか眼中にないかのように見える。多くの有権者は独りよがりな思いにはついていけなかったのではないか。

脱原発の真実—欺瞞の根源

『即原発ゼロ』はどう転んでも無理な話だ。小泉氏は、昨年に脱原発シフトを表明した。その際に、フィンランドのオンカロにある原子力の燃え残り、つまり核のごみの最終処分場をみて、これは日本ではできない。無理だと思ったとの趣旨を述べた。これが大きな間違い、欺瞞の根源である。

実は、この小泉発言を契機に、多くの人々が、重要な真実に気がついてしまったのである。

それは、たとえ原発を今すぐゼロにしても、いますでにある核のごみは残り続けるという不都合な真実である。原発だけゼロにしても、問題の本質的な解決にはなんらならない。欺瞞である。

つまり核のごみを、一時保管するにせよ処分するにせよ、私たちはそのことにつきあっていかなければならないということである。しかも数百年以上将来にわたる長い期間である。原発は〝トイレ無きマンション〟といわれるが、そんなこととはおかまいなく〝ごみはすでにある〟。

この問題は、福島県の浜通りにおいて、除染活動によって大量に発生した「汚染土」の中間貯蔵問題と根っこは一緒である。浜通りに行けば、汚染土の無愛想な黒い大袋が、無遠慮に民家の軒先や小学校の校庭裏などあちこちに野積みにされている。



除染で出た汚染土—行き場がなく民家の軒先に置かれる

核のごみについて中学生と考える

核のごみをどうするのか。どうするにしたって金がかかる。ではその金をどこから調達して充てるのか。

原発ビジネス以外からその金を調達出来るのか?恐らくできないであろう。すなわち、原発を動かしながらその利鞘のなかから、核のごみ処理の費用をひねり出すのがもっとも合理的なのではないか。

これは、脱原発派にとっては不都合きわまりない真実である。じつは、このことは、脱原発派のみならず原発推進派にとっても不都合である。なぜか?つまり、原発はいったん始めたら〝ほぼやめられない〟つまり後戻り出来ないビジネスなのである。そのことを、公言することを、原発推進派は憚っているように見える。

原発推進派のなかには、都知事に当選した舛添要一氏を、脱原発も原発推進も公言しないこと、その裏にある過去の氏の言動から歓迎する向きがある。であれば、氏にも核のごみ問題への取り組みをキチンと説明して、そこに道筋をつける努力をすべきである。なぜなら、これまでも、そして多分これからも、東京は原発の恩恵を最大限被り続けるからである。核のごみは、受益者負担で解決してはいかがか。

この問題を私は中学生と一緒に考えている。数校の中学校にボランティアで協力して頂き、中学生の目線でどう捉え、どう考えられるかということに取り組んでいる。中学生によるステークホルダー会議である。主役はもちろん中学生たちである。

1月の初旬に、原発立地地域から1校、横浜市と京都市から各1校、総勢16名の有志が参加して岐阜県瑞浪の超深地層研究所の試験用坑道を見学した。これは、将来日本で最終処分場をつくるための試験場である。

百聞は一見に如かず。論より証拠。生徒たちはわくわくしながら、地下300メートルにある坑道に入っていった。見学後、処分賛成派と反対派に分かれて、処分場の是非をめぐってディベートを行った。ディベートでは一人一人が真剣に考えて、意見を言い合った。

そんななか、都市はこれまで原発にお世話になって来たので、都会に処分場ができても良いのではないかという意見も出た。また、自分は処分に賛成だけど、討論のなかで相手(反対派)の言っていることや気持ちが少し分かって来たという感想も出た。こういう気持ちがあれば、一緒になにかできるかもしれない。

また、参加者のなかから、ごみの試験場は見たけど原発を一度も見たことがないとの声が上がった。その願いがかなって、翌月、有志の女子生徒5名が浜岡原子力発電所を見学した。巨大な防波壁や重さ40トンもある水密扉に驚嘆し、制御室や原子炉の頭頂部フロアや使用済み燃料プールなどを見学した。見学を終えた生徒のなかには、「いまの生活を維持するために、安全を確保して原発を使って欲しい」という声もあった。



模型の前で原発の仕組みの説明を受ける中学生たち

原発と今後もつきあっていくには

選挙後の2月10日、菅官房長官は午前の記者会見で、国の新しい「エネルギー基本計画」について、「安倍政権としては再生可能エネルギーの最大化を進めながら、原発依存度をできるだけ引き下げていくという基本方針のもとで作っていきたい」と述べた。

その数日前、2月7日の日経新聞朝刊1面トップに、〝もんじゅ「増殖炉」白紙〟の文字が踊った。エネルギー基本計画の見直しのなかで、もんじゅに果たして核燃料の増殖の機能が必要かどうかが問われている。増殖機能が白紙にななるかもしれないというのだ。

しかし、高速炉には軽水炉に優れる点がいくつかある。例えば、軽水炉では核燃料を実際には4〜5%程しか燃やしていない。まったく不完全燃焼のまま使用済み燃料になってしまう。95%以上も燃え残っているのだ。これは無駄だ。

ところが、高速炉を使うとこの核燃料(主にプルトニウム)を、軽水炉の倍程も燃やせるのである。お気づきのように、それでもせいぜい元々の核燃料の10%程しか使っていない。しかし、5%が10%になるのは実に大きい利得だが、なお相変わらず9割は無駄にしている。そこで、この使用済み燃料を再処理して、まだ使えるものを取出して再び核燃料として炉心に入れてやるのが、核燃料サイクルである。ここには、モッタイナイ精神が活きている。

高速炉にはこの他にも、軽水炉に優れる点がいくつかある。そのひとつに、炉心でいわゆる高レベル放射性廃棄物(核のごみ)も燃やすことができる。

これらの利点があるので、原子力を利用していく限り、早晩、次世代(第4世代)の原子炉は高速炉になるというのである。第4世代としての高速炉は資源(核燃料)の利用効率、核のごみもつ環境負荷の低減をはじめとして、安全性の面等でもメリットが大きいとされている 。

日本は1970年代に、苦労に苦労を重ねた交渉の末、米国から核燃料の濃縮や再処理の権利を勝ち取った。いずれも核燃料サイクルの枢要技術である。このようなフルセットの原子力オプションをもつのは、非核兵器国で日本のみである。日本は、その立場を最大限活用して、世界に先駆けて原子力の平和利用としての核燃料サイクルを進める責務がある。映画『パンドラの約束』が語りかけるように、人類の未来は原子力によってのみ拓ける。その中心が、高速炉と核燃料サイクルのセットなのである。

さらに原子力は、何もエネルギー利用のみならず、放射線の利用も意味する。放射線には、医療のみならず多様な用途がある。人類は、原子力を利用することから調和をはかっていくことで、福祉の向上のみならず、国連の提唱する『人間の安全保障』に貢献することができる。原子力の解放と核燃料サイクルの確立という二つの鍵を日本は手のうちにもっている。その日本だからこそ、世界のリーダーシップを執って、原子力の未来を創っていくべきなのである。

小泉純一郎氏には悪いが、どうやら中学生の方がものの実態を冷静に捉えられるようである。政治の中枢にある方たちには、どうか子供達の視点や思いに恥じないようなエネルギー基本計画を策定していただくようお願いする。

(2014年2月17日掲載)

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東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

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