人類の放射能への恐怖は間違っている
![](https://www.gepr.org/ja/images/20140113-01/img/000.jpg)
シンクタンクのアゴラ研究所(東京)は昨年12月8日に、シンポジウム「持続可能なエネルギー戦略を考える」を、東京工業大学(同)で開催した。そこで行われた基調講演の要旨を紹介する。(紹介記事「アゴラシンポジウム「持続可能なエネルギー戦略を考える」報告」)
信頼の回復をどうするか
文明はエネルギーと社会を構成する信頼を必要とします。残念ながら、福島第一原発事故によって、残念ながらその両方が傷を受けました。
原発事故では3つの原子炉が壊れ、放射性物質を放出しました。しかしながら、それは微量であり、人の健康への影響はほとんどないでしょう。現時点まで放射能の影響による直接の死傷者は出ていないし、これからも出ないと、科学者として私は判断しています。東日本大震災の被害の中心は津波であったのです。
ところが原発事故では不安と恐怖が、世界と日本に広がりました。その多くは、必要のないものでした。福島では避難が長期化することで、避難者に健康被害が広がっています。また福島の放射線防護対策や事故処理では、安全性に配慮して必要以上にコストがかかっている面があります。
リスクの正しい評価を
放射線は私たちの目に見えず、なじみがないように思える存在です。しかし私たちは、宇宙からの放射線を毎日浴びています。生物は長い年月、放射線にさらされ進化してきました。確かに放射線に過剰に当たると人体に悪影響が起こります。しかし保護するメカニズムが体にあるのです。そしてがん治療など医療分野や工業で、放射線は利用されているのです。
こうした科学的事実を考えれば、放射能のリスクは、社会的に過大に評価された面があるのです。これは恐怖という感情が影響しています。それが影響して、バランスの欠いた形でニュースが流れ、人々は影響を受けてしまいます。
国際的な放射性防護基準は、かなり厳しいものです。ICRP(国際放射線防護委員会)は、どんな被ばくでも「合理的に達成可能な限り低い(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)」レベルにすることを勧めています。「自然放射線に追加して年間1マイクロシーベルト(mSv)程度」の被ばくに抑えるべきだという内容です。
これは厳しすぎます。一度に大量ではなく少しずつ放射線を浴びた場合に、健康被害は観察されていません。おそらく基準を1000倍程度にしても大丈夫でしょう。
日本では福島事故の後で被ばくの安全基準が厳しくなりました。食品の場合には、「1キログラム当たり100ベクレル」という基準です。ICRPのALARAの基準が採用されています。
ところが実際の数値を考えてみましょう。この基準上限の食品を毎日5トン、3カ月間食べても、CTスキャン1回分にすぎません。放射線の基準を厳しくするほど、社会が負担するコストが増えていくのです。
こうした科学的事実を知れば、過度に危険を警戒することもなくなるはずです。リスクに応じた合理的な対策を行うべきなのです。
私は核物理学を大きく進歩させた物理学者のマリー・キューリー(1867—1934)の言葉を思い出します。「人生において怖れることは何もない。ただ理解すべきことがあるだけだ」。重要な問題について、理解のないまま民主主義に基づく政治が行われることは危険です。
日本人の正しい選択を期待
世界はエネルギーをめぐる問題にあふれています。エネルギー不足、また化石燃料の枯渇の危険、また気候変動の問題があります。大量に発電でき、また温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)を排出しない原子力発電は、地球規模の問題を重要な対策になります。原子力を利用しないことは、そうしたエネルギー使用の問題を続けてしまうことになります。
![](https://www.gepr.org/ja/images/20140113-01/img/001.jpg)
国連(UN)や他の行政機関のバランスを書いた狭い視点の規制のイメージ。今、いくつかの国の有権者がそれを直面している。
(「核の安全のコスト」と書いたシャツを着た重い豚さんが、「高価格」「化石燃料の環境影響」という小さな豚さんをはねとばしている。「ガスと電力価格を今下げろ」と人々が圧力をかける。この状況を「ガス」「オイル」「石炭」という服を着たビジネスマンが高笑いしている)
人類は数万年前、火を発見して利用しました。動物がそうであるように、火を使うことを警戒した人はいたでしょう。確かに火は誤って使えば、けがをしてしまいます。ところが、そうしたグループはその後、暖房、温かい食事などにありつけなかったでしょう。技術革新を手に入れた場合に、理性を使って、適切に用いることのできる人が、豊かさを享受できるのです。原子力でも同じことが言えます。
![](https://www.gepr.org/ja/images/20140113-01/img/002.jpg)
おそらく紀元前2万5000年に起こった、「火の利用反対党」が直面した現実。「環境を守れ」「火を止めろ」「安全第一」と書いたプラカードを持つ人が、凍えている。
日本は科学技術が進み、人々の教育水準が高いことで、世界の尊敬を集めています。福島事故でも日本の皆さんは、適切な対応をするでしょう。また私は日本の原発の対策を見たいと思いました。中部電力の浜岡原発を見る機会がありました。その防備体制は徹底したものでした。
このような取り組みを考えれば、日本は安全で効果的な原子力の利用をこれからも行えるでしょう。
(2014年1月14日掲載)
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
100 mSvの被ばくの相対リスク比が1.005というのは、他のリスクに比べてあまりにも低すぎるのではないか。
-
地域メディエーターより、シンポジウムの位置付けを説明し、原発事故の3年半の経緯とその間の福島県民の気持ちの揺れ動きを振り返った。
-
先ごろドイツの有力紙Die Weltのインターネット版(2013/1/10)に、「忍び寄る電力供給の国有化」と題する記事が掲載された。脱原子力と再生可能エネルギーの大幅拡大という「エネルギー転換」(Energiewende)を果敢に進めるドイツで、なぜ「電力供給の国有化」なのだろうか。
-
多くのテレビ、新聞、雑誌が事故後、放射能の影響について大量に報道してきた。しかし伝えた恐怖の割に、放射能による死者はゼロ。これほどの報道の必要があるとは思えない。
-
アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。11月29日放送分は「政治の失敗のツケを新電力に回す経産省」というテーマで、今行われている東電福島事故の処理、電力・原子力再編問題を取り上げた。
-
NHK 6月5日公開。福井県にある高浜原子力発電所について、関西電力は先月再稼働させた4号機に続いて、3号機についても6日午後2時ごろに原子炉を起動し、再稼働させると発表しました。
-
15年1月13日公開。チェルノブイリ、ウクライナツアーを企画した、作家で出版社ゲンロンの社長東浩紀さん、ロシア文学者の上田洋子さんに登場いただき、その現状、政変が起こり、戦争状態にあるウクライナ、そしてそこから考える福島原発事故の未来についてうかがった。
-
福島原発事故の影響は大きい。その周辺部の光景のさびれ方に、悲しさを感じた。サッカーのナショナルトレーニングセンターであったJビレッジ(福島県楢葉町)が、事故直後から工事の拠点になっている。ここに作業員などは集まり、国道6号線を使ってバスで第1原発に向かう。私たちもそうだった。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間