中部電力、浜岡原発の現状(上) — 津波を防ぐ巨大な壁
中部電力の浜岡原子力発電所を11月8日に取材した。私は2012年8月に同所を訪問して「政治に翻弄される浜岡原発 — 中部電力の安全対策工事を訪ねて」という記事をGEPRで発表している。
今回は東工大で11月7日に行われた「国際シンポジウム−原子力と法制」に参加した、各国の原子力関連法の専門家と共に見学した。浜岡原発の現状を報告する。
津波対策、海抜22メートルまでOK
写真1
写真2
2枚の写真は浜岡原発の津波対策の防波壁だ。地上からの高さは10から12メートル、幅約2メートル、全長約1・6キロメートルの建造物で、間近に見ると巨大さに圧倒される。
海抜は壁の上部まで約18メートルになる。地下は支えとして10から30メートルまで岩盤にあたるまで掘り壁が続き、津波の衝撃に耐えられるように特殊な鋼材で補強されている。海側には10メートル前後の丘と堤防があるが、津波が来てもこの防波壁で水は食い止められると中部電力は見込んでいる。
それに加えて、同社は追加工事を行なった。2012年8月に内閣府が「南海トラフの巨大地震モデル」を公表した。南海トラフでは100年から150年程度の感覚で、巨大な地震が発生する。その被害を予測したものだ。
同社は内閣府から予測データの提供を受けて、浜岡近郊の津波の予測をして、最大で約20メートル以上の津波の可能性があるとの試算を出した。それを受けて、この巨大な防波壁の上に4メートルの金属製の補強壁を設置する、かさ上げ工事を行う予定だ。厳重な津波対策は津波で電源が喪失して冷却が行えなくなった福島原発事故の教訓を活かしたものだ。
地震と津波の対応
中部電力はこれ以外にも地震と津波の対策を並行して行っている。浜岡原発は5つの原子炉を持つが、70年代に建設された1−2号炉は廃炉が決まり、現在は稼働していない。3—5号機の耐震工事は昨年夏よりも進捗していた。
津波対策では、「敷地内に水を入れない」「仮に敷地に水が入っても、建物には入れない」という目的に基づいて対策が行われている。建屋の重要部分は、改造して水が入らない構造にした。また非常用発電装置は津波、地震に耐えられるように、分散して設置されていた。地震の際の対策本部は建設された免震の建物に置かれ、有事にはいつでも活動できる状態になっている。
原子力規制委員会は今年8月に、原子力発電の新安全基準を設定した。この基準に合わせた工事も行う。当初は4号炉の対策を優先し、これは来年度早期に工事を完了して再稼動を目指す。地層構造の調査で揺れがやや大きくなることが分かった5号炉では追加工事を行うため、稼動申請は後回しになる予定だ。
一連の対策費用は当初予定の1500億円を大幅に上回り、3000億円に達する見込みだ。
図表 浜岡原発の位置
海外専門家らの評価
写真3 各国の専門家と発電所幹部の意見交換会
これらの対策を専門家はどのように受け止めたのか。
ブルガリアのソフィア大学教授であるアタナス・シーモフ氏(Atanas Semov)は次の意見を述べた。「事故リスクを下げるという構想の下に、あらゆる観点からの危険を考えた災害対策に感銘を受けた。ここまでの措置は世界でも類例が少ないのではないか。津波対策では世界の指針になるかもしれない」。
ブルガリアでは、国民の8割が原発の利用を支持している。2006年までに、旧ソ連製の原発4つを相次いで廃炉にした。原発は当時1億ドルをかけ安全対策工事をしたが、2002年に加盟をしたヨーロッパ連合(EU)からの政治的圧力と、政治的な駆け引きの末に、法的手続きが行われないまま2006年までに廃炉になってしまった。
シーモフ氏は指摘した。「原発の運用では、人々に原子力への恐怖感があり、効果的なエネルギー供給という目的ではなく、政争が影響することがある。浜岡の停止の経緯を聞くと、ブルガリアと似た面がある。冷静にリスクと利益を多様な観点から分析して、浜岡原発の再稼動を考えるべきだ。日本の方々は賢明であり、適切な結論を下すであろう」。
ブラジルのリオ・デジャネイロ連邦大学教授で、元IAEA(国際原子力機関)職員だったギルへルミナ・ラボス・コインビア女史(Guilhermina Lavos Coimbra)は 次の見解を述べた。
「可能な限り原発の情報を公開し、地元の人々と対話する中部電力の姿勢に感銘を受けた。福島事故は津波によって引き起こされたが、浜岡原発の厳重な対策を見て懸念が払拭された。浸水をめぐるここまで厳重な安全対策が行われている原発は、世界には類例がないと思う」。
インドで原子力法制度の作成や訴訟を担当した弁護士のヤシュ・マニュリー氏(Yash Mannully)は次の評価をした。「インドでは残念ながら原子力をめぐる適切な情報公開が行われていない。この2年で、浜岡原発は隣接するPR館を含めて、4万人もの人が見学に訪れたという。その公開姿勢は感銘を受けた。インドの人々にもこの取り組みを伝えたい」。
しかし、こうした海外の有識者の評価があっても、浜岡原発の再稼動の先行きは見えない。
(2013年11月11日掲載)
関連記事
-
北海道はこれから冬を迎えるが、地震で壊れた苫東厚真発電所の全面復旧は10月末になる見通しだ。この冬は老朽火力も総動員しなければならないが、大きな火力が落ちると、また大停電するおそれがある。根本的な問題は泊原発(207万k
-
世の中には「電力自由化」がいいことだと思っている人がいるようだ。企業の規制をなくす自由化は、一般論としては望ましいが、民主党政権のもとで経産省がやった電力自由化は最悪の部類に入る。自由化の最大の目的は電気代を下げることだ
-
3月26日公開。アゴラ・GEPRは映像コンテンツを配信し、その中で「Vlog」という短い映像を提供している。21世紀政策研究所の研究主幹・澤昭裕さんの主張。原子力規制の運用について、「規制哲学」に焦点をあてて研究を行い、規制委の制度見直しの提案を試みるという。また現場に即した福島事故の教訓を学びとり、日本と世界の原子力技術者に役立つように、教材にしようと考えているそうだ。
-
これを読むと、現状のさまざまな論点に目配りされ、「分析文書」としてはよくできている。ところが最近の行政文書によくあるように、何を実行したいのかが分からない。書き手が意図的にぼやかし、無責任に逃げようとしていることもうかがえる。
-
GEPR・アゴラの映像コンテンツである「アゴラチャンネル」は4月12日、国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員の竹内純子(たけうち・すみこ)さんを招き、アゴラ研究所の池田信夫所長との対談「忘れてはいませんか?温暖化問題--何も決まらない現実」を放送した。
-
活断層という、なじみのない言葉がメディアに踊る。原子力規制委員会は2012年12月、「日本原電敦賀原発2号機直下に活断層」、その後「東北電力東通原発敷地内の破砕帯が活断層の可能性あり」と立て続けに発表した。田中俊一委員長は「グレーなら止めていただく」としており、活断層認定は原発の廃炉につながる。しかし、一連の判断は妥当なのだろうか。
-
WNN(世界原子力通信)9月12日記事。英語。原題は「Iran and Russia celebrate start of Bushehr II」イランのブシェール原発の工事が始まった。ロシアのロスアトムの支援で、工事費は2期で約100億ドルの見込み。完成時期は24年と26年。イラン核合意で、原発建設が再始動した。
-
スマートジャパン 3月3日記事。原子力発電によって生まれる高レベルの放射性廃棄物は数万年かけてリスクを低減させなくてならない。現在のところ地下300メートルよりも深い地層の中に閉じ込める方法が有力で、日本でも候補地の選定に向けた作業が進んでいる。要件と基準は固まってきたが、最終決定は20年以上も先になる。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間