エコノミスト誌が報じた温暖化の「停滞」
CO2激増の一方、気温は予想より上昇せず
3月30日、世界中で購読されるエコノミスト誌が地球温暖化問題についての衝撃的な事実を報じた。(記事「注意すべき問題」(原題:A sensitive matter))。
この15年間、世界のCO2排出量は激増しているものの、地球表面の平均気温が上昇していないというのだ。実は英国気象庁も同様の発表をしており、昨年12月24日に、2020年までの温暖化進展に関する見通しを大幅に下方修正する見通しを発表した。
図1はこれまでの急激な平均気温上昇を予想したグラフ、図2が新たに発表された予測で、ここでは気温の上昇は今後なだらかになるとの見解が示されている。
「分からないこと」が分かった
もちろんエコノミスト誌が安易な地球温暖化懐疑論に傾いたという訳ではない。CO2の長期蓄積による温室効果自体については異論が少なく、2080年ごろまでに今より1兆トンのCO2排出増が予想され、それによって2度程度の気温上昇効果(最大4度)はあるかもしれないが、それが(他の要素や地球自体のsensitivity(感度)によって)気候全体にどういうインパクトをもたらすか(=最終的に平均気温が何度上昇するか)については不明、というのがこの記事の結論である。すなわち「『わからない』ということがわかった」のである。
そもそも、現在国連気候変動交渉の中で、「所与の数字」のようになっているいわゆる「2度目標」(地球気温上昇を工業化以前に比し2度を超さないようにすべき)も、実は科学的裏付けには乏しい。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第2次報告書にあった数字をもとに、1996年のEU閣僚理事会で採用された数字が徐々に市民権(?)を得た。
2009年12月のCOP15におけるコペンハーゲン合意では、IPCC第4次報告書を根拠として「大気温度上昇を2度以内にすべきという科学的視点を認識する」との表現が盛り込まれたが、IPCC第4次報告書に2度を目標値として推奨するような文言はない。ご存じない方も多いかもしれないが、IPCCは研究機関ではなく、地球温暖化に関する最新の研究をレビュー・評価する機関なのだ。
そして、政策的に決定されたこの2度目標を2・5度目標とするだけで、対策の実現可能性にも相当の尤度が生じる旨を、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)の茅理事長は指摘しておられる。(RITE資料「CO2削減長期目標とその実現可能性をめぐって」)
科学と政策の合理的な関係が必要
先日、東京大地震研究所が、地中に埋まっていたコンクリート構造物を地震の際にできた石と誤認していたとして、これを「活断層を確認した」としていた見解を撤回するという出来事があったが、事程左様に科学とは万能ではないのである。
さまざまな社会的政策的判断をするに際しては、我々は科学の知見を要求する。それは当然のことではあるが、ともすると科学に判断まで求めがちだ。しかし、少なくとも地球温暖化という問題について科学者が示しうるのは、いくつかの予測オプションであることを踏まえる必要がある。最新の科学的知見を踏まえつつ、現実的に社会が許容しうる対策に落としていく冷静さと柔軟さが必要だ。
これまでの研究により、地球温度の上昇は温室効果ガスの排出が止まってもすぐ反応せず、しばらく上がり続けることが予想されていること等を考えれば、対策の遅れが許されるものではないが、まずは省エネなど実施主体にメリットのある取り組みを優先的に実施していくのが現実的な選択肢であり、この分野においては日本の高効率の技術が生かせるのではないだろうか。
(2013年4月15日掲載)

関連記事
-
地球が将来100億人以上の人の住まいとなるならば、私たちが環境を扱う方法は著しく変わらなければならない。少なくとも有権者の一部でも基礎的な科学を知るように教育が適切に改善されない限り、「社会で何が行われるべきか」とか、「どのようにそれをすべきか」などが分からない。これは単に興味が持たれる科学を、メディアを通して広めるということではなく、私たちが自らの財政や家計を審査する際と同様に、正しい数値と自信を持って基礎教育を築く必要がある。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギー・環境問題のバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)企業家が活躍、米国農業-IT、遺伝子工学、先端技術を使用 米国の農業地帯を8月に記者が訪問、その
-
私は42円については、当初はこの程度の支援は必要であると思います。「高すぎる」とする批判がありますが、日本ではこれから普及が始まるので、より多くの事業者の参入を誘うために、少なくとも魅力ある適正利益が確保されればなりません。最初に高めの価格を設定し、次第に切り下げていくというのはEUで行われた政策です。
-
福島第一原発に貯蔵された「トリチウム水」をめぐって、経産省の有識者会議は30日、初めて公聴会を開いた。これはトリチウム貯蔵の限界が近づく中、それを流すための儀式だろう。公募で選ばれた14人が意見を表明したが、反対意見が多
-
日本では福島原発事故、先進国では市民の敬遠によって、原発の新規設置は難しくなっています。また使用済み核燃料と、棄物の問題は現在の技術では解決されていません。しかし世界全体で見れば、エネルギー不足の解消のために、途上国を中心に原発の利用や新設が検討されています。
-
スマートグリッドという言葉を、新聞紙上で見かけない日が珍しくなった。新しい電力網のことらしいと言った程度の理解ではあるかもしれないが、少なくとも言葉だけは、定着したようである。スマートグリッドという発想自体は、決して新しいものではないが、オバマ政権の打ち出した「グリーンニューディール政策」の目玉の一つに取り上げられてから、全世界的に注目されたという意味で、やはり新しいと言っても間違いではない。
-
政府はプラスチックごみの分別を強化するよう法改正する方針だ、と日本経済新聞が報じている。ごみの分別は自治体ごとに違い、多いところでは10種類以上に分別しているが、これを「プラスチック資源」として一括回収する方針だ。分別回
-
現在世界で注目を集めているシェールガス革命。この動きをいち早く分析したエネルギーアナリストとして知られる和光大学の岩間剛一教授に寄稿をいただきました。分かりやすく、その影響と問題点も示しています。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間